言霊と居場所
こんばんは。
夏休み中です。
束の間の休息で、隙あらば更新。
なぜかワルキューレを視聴しながら書いています。
長編です。
異世界転生、逆転生、全部つながっています。
部分的にでもお付き合いいただければ幸いです。
※
ーー橙子は、ただ泣きじゃくった。
そしてその夜、彼女は悪態の限りを尽くした。
女というのは不思議な生命だった。橙子と長年一緒に生きてきた。彼女はこんな性格だっただろうかと、サナレスは考えあぐねていた。
『どうして泣く? 私は、君に屈服したよ』
橙子の言うがまま、側にいるのだと、サナレスは駄々っ子になってしまった二十歳すぎの女性に約束した通り、橙子の側に残っていた。
「サナレスなんて、もう……。サナレスだって、もうめんどくさいだけでしょ! さっさといなくなれば」
酒の勢いも借りた橙子を見て、サナレスは苦笑した。
「サナレスが居なくなることなんて、わかってるんだから!!」
あ。
そう。
サナレス、は約束した言霊に縛られて、困っていた。
一方の橙子は、次の日にサナレスが居なくなることを予感していた。
だから嵐の夜を終えた朝に、サナレスはそこに居ないと思って、渾身の癇癪で力の限りを尽くし、明け方には眠り込んだ。
部屋の中、カーテン越しに陽光が差し込む。鳥の鳴き声が聞こえてくる古い貸宿で、サナレスは自分の膝の上で目を擦る橙子を見て吐息をつく。
「ちょっとーー、まだなんでいるのよ!!?」
『居ると言いましたからね』
ーーどうやらこの世界で私は言霊に縛られるようだ。
精霊に近い存在になっているのかもしれない、とサナレスは思った。
「もしかして、私が居なくなっていいというまで、サナレスは消えない?」
『そうですね』
けれどこのままこの地に言霊で縛られ続ければ、サナレスは前世の意思を忘れるのだと認識していた。サナレスではない魂になって、橙子の側にいるだけだ。
人格がなくなるというリスクを抱えていたけれど、何食わぬ顔をして、サナレスは立ち上がった。
『朝食、何か食べに行く?』
精霊はこうして生まれているのだろうか?
朝ご飯に何を食べようかというぐらいの気安さで、サナレスは自分の死を受け入れてしまう。100年以上も生きたのだからもう十分だと、どこかでずっと思っている。最愛の人と、親友を失った過去は、サナレスの存在を常に薄めていくのだ。
サナレス兄様ーー!!
また呼ばれていた。
私を呼ぶ声は多分妹だ。
リンフィーナ。例え前世の、王族の後継という立場を遠ざけたとしても、彼女のことだけは忘れるわけにはいかないと思っていた。
ただひたすら彼女を守るために生きた。
それを理由にして生きたのだけれど。
サナレス兄様!!
サナレス!
彼女を守るためだけにただ生きた。
けれど今、あの世にいる彼女の側には、アセスがいる。彼女が初めて心惹かれた男がいるのだから、もういいのかもしれない。
そう思ってサナレスは橙子の側にいることを受け入れ始めたのだ。
橙子を気に入っている。
偽物の笑顔を作る必要もないほどに疲れていたのに、朝ご飯を一緒にしようというサナレスは橙子のことを気にかけていた。
見捨てられないという感情は、愛情なのかもしれない。
『朝食を取ったら、ダビンチに会いに行きたいな』
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




