系が切れて
こんばんは。
久しぶりになりました。
楽しんで書いている小説ですので、お付き合いいただいている方、よろしくお願いします。
※
『この世でこのまま、海外に残って生きていける年月はわずかだろ? ーー一年、もっと物価の高い国だったら1ヶ月だってもたないかもしれない』
「何よ!」
しれっと朝食をとっている橙子に、サナレスは言ってしまった。
『現実を認識するのも大事かもな? 君がホステスとかして稼いだ金じゃ、そんなもんだ』
鋭い視線で睨まれても、サナレスは怯まない。
橙子と喧嘩するつもりで言ったわけではないからだ。
『それでジリ貧の君はどうするつもりなんだ?』
不貞腐れながら、橙子は米とも言えない朝食の混ぜ物をスプーンで口に運んでいた。
「出るわよ、今日」
『言われなくとも、私だってこのホテルの退去期間が今日だと知っている』
サナレスは橙子まかせだった。
実体がないサナレスは、彼女の人生を邪魔しない。
それが鉄則だ。
「空港に行こう」
橙子が言った。
『は?』
「サナレスは飛行機、好きでしょ?」
『この国を出ていくの?』
「出ていくよ」
橙子は重い荷物を下ろしたような清々しい表情をしていた。
日本に帰るのだと言われれば、サナレスも納得した。それなのにミャンマーを出ていくという表現は、日本に帰るという意思表敬とは違っている。
サナレスは首を傾げた。
「私の将来の夢って、CAだったでしょ? だから、やっぱり身重になっても、身軽に飛行機乗りたいんだよね」
『ーー』
身重の身体で飛行機に乗る。悪い時期になるには、未だ早いようだ。
そうではあるけれど、とサナレスは言葉を紡いだ。
『だから日本に帰るのがーー』
一番いいのだと説得したかったけれど、橙子は間髪いれずに「だから行こう」と遮って、サナレスのいうことを聞かなかった。
「とりま、食べたら空港だよ」
行儀悪く椅子の上に足を組んで、頬いっぱいの食事をしている橙子は、何かを決意しているようだ。
『よく食べるな……』
日本にいた頃が嘘のように、海外に出た橙子は大量の食料をたいらげた。
「あなたでしょうが。旅で食いはぐれたら死ぬから、食べれる時に食べろって言ってたでしょ」
異世界転生そのものに失敗したサナレスには、橙子の人生を止めることなど、到底できることではない。
勢いのまま、そうだったかなと気押される。
男というのは、関わった女の人生に責任を取りたいという思いが、少なくともどこかにあってしまう。でも、異世界転生のタイムリミット的に、そうできそうにはないと知っていた。
言葉少なく、2人はヤンゴン国際空港に到着した。
「サナレスは前みたいに、飛行機に乗れること嬉しくなくなった?」
橙子はチケットを取るカウンターに向かいながら、こちらに視線すら向けずにそう問いかけてきた。
日本語ではない、この世界の外国語を吸収して理解しようとしてしまうサナレスの習性が、橙子が問うてきた本心を聞き逃してしまう。
『え?』
「そっか」
橙子は言った。
アシアナ航空のカウンターに並んだので、何だかんだ言いながら橙子は日本に帰るのかと、サナレスは思った。
それなのにチケットに刻まれた行き先を見て、サナレスは唖然とする。
フランス!?
『橙子!?』
「サナレスがこの世界で一番さ、興味持った国でしょ?」
『いや……』
だとしても物価が高いし、入国税も高価だった。今、身重である橙子が向かう場所として妥当とは思えなかった。
『確かに一度は行ってみたいと思った国だ。ダビンチが生涯を閉じた国だったよな?』
「でしょ? サナレスが行きたいって思ってたのは知ってるから、今から行くのよ」
『身重の君が行く場所として、ーーふさわしいとは思えない』
サナレスと橙子は、二心同体の状態で会話し続けていた。
『賛成できない』
「私の人生に責任の取れない人は、私の行き先に反対はできないよ」
そんなやり取りが橙子と交わされた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー
 




