最後は財力が全てだよ
こんばんは。
頻度はゆっくりになっていますが、長編を書いています。
お付き合いくださっている方、ありがとうございます。
後書に、シリーズ紹介載せておきます。
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例え一緒にいられる時間が短くても、橙子を支えたい。
サナレスはそう考えていた。
自分が不在の間に、アセスとリンフィーナの関係性が変わってしまうかもしれないという、自らのリスクを考え、自身の人生を削っていたとしても、それがリンフィーナの幸せになるのであれば、それも受け入れなければならない。
そもそもがおかしい三角関係だった。
赤子から引き受けたリンフィーナは大人になり、別氏族の総帥であるアセスに惹かれているのを知った。娘のような存在として、リンフィーナを妹にした。妹の幸せを願えば、兄弟国とは言われたラーディオヌ一族の総帥だった男だったとしても、添い遂げてやりたいと心底願った。
国と国、一族と一族を巻き込んでの婚姻関係を自らが進めておきながら、どうして自分はヤキモチを焼いてしまったのだろう。
『兄様は将来私と一緒にいる。私はずっと兄様と一緒にいるんだから』
幼子のリンフィーナが、孤独なサナレスの日常に生きる糧を与えていた。
はいはい。
聞き流しながらも、ずっとリンフィーナから心の養分をもらってきた。
最愛の人、ムーブルージェを失った。
親友、ルカを失った。
せめてムーブルージェの妹で、ルカの子供を宿した人で、贖罪だと大切にしたいと思ったレイトリージェが自害した。
自分の過去の人間関係は全て失敗しているのだと、サナレスは自覚している。
だからせめてリンフィーナを取り巻く人間関係だけは、彼女が願うようにしてやりたいと思った。
「サナレスはどうせずっとはここにいないでしょ?」
橙子が聞いてきて、サナレスは彼女のことを傷付けると知って、何も言えなかった。
橙子は不倫男に振られた。
このホテルに滞在できる時間は短く、両親がいる日本に帰らせなければならない。
けれどずっと橙子と一緒にいられるなんて嘘は、サナレスはつくことができないでいる。
『私は帰るつもりだ。ここに滞在するつもりはない』
「そうだよね」
橙子はサナレスの考えをずっと前から把握している。橙子と自分の関係は、一つの身体に二つの魂だ。嘘なんてついても無意味だった。
『ただーー』
橙子のことも……。
「馬鹿っぽい」
サナレスが橙子にも感情移入していることを伝えようとすると、橙子は一笑してしまった。
「サナレスは期待させない人でしょ?」
『ああ。ーー私は橙子、君に対して何もできない』
橙子に対して、どんなことでもしてやりたいと思っていてもそれを隠して、あくまで自分ができる範囲に限りがあるのだと一線を引いた。
最優先で考えているのは、サナレスとして生きた時代のことだったからだ。
『私のことを馬鹿っぽいと言ってもいいけどな。橙子は今からどうしたい? どうするつもりなんだ?』
「不倫が解消されてしまったしね。子供を盾にして迫ろうとわざわざ海外にまできて、失敗した。泊まるところまで失った私が、どうしたいかって聞いてる?」
『そう。ーー不倫だけじゃなく、人の気持ちは移ろいやすい。そんなことが多々起こるのも人生の一つだと思うけど、この状況から君はどうしたい?』
橙子は急に掌で自分の両頬を強い力で打っていた。
いたっ。
二心動体のサナレスとしては、いきなり女性から頬を打たれた衝撃がある。
「ははは。ザマア見ろ。サナレスは私と一心同体なんだからね」
橙子はカラカラと笑っている。
笑っている場合かと、サナレスは吐息をついた。
ホテルに滞在できる期限は迫っていた。日本に帰るのかと思えば、橙子はそれを断固拒否してきた。
「サナレス、何のために私がお金至上主義で暮らしてきたと思う? 何があっても生きられるよう、お金を稼ぐために色々な経験をしてきたのよ」
『なるほど』
サナレスは橙子という女性を少し理解する。
「でしょ? こういう時女って財力がないと絶望するのよね。でも、私は違うの」
『曲解な気がするけれどーー』
「なんで? 自分1人で生きていけたら、誰を好きになって、誰の子を産んでも、自分で育てられれば問題ないでしょ? 例え不倫だってさ、私が好きになった人と、その人の子供をちゃんと育てられれば、それでいいやん」
『ーーそれは全国の財力がなく離婚する女性を敵に回す発言だな……』
サナレスは吐息をついたけれど、橙子は悪びれもなく首肯した。
「そうよ。1人で生きていくお金もないのに子供を産んで、それで相手に頼って裏切られて離婚なんて、そいつらの子供を集めて意見言わせれば、子供から言わせれば迷惑な話よ。親の私情で、子供が貧しくなるっての? しかも社会保障制度みたいなのに頼るなんて、私からすればあり得ないのよ」
言い過ぎだと嗜めたかったが、橙子は口がたった。
サナレスは彼女を責められない。だから彼女は金儲け至上主義だった。いつでも自分らしく居られるように、だ。
『日本に帰らないなら、どうするつもり?』
「この子を産む。でもどの国で産むのかは考えたいから、もう少し海外を散策する」
強い横顔からは、男と別れた悲しみなんて微塵も感じさせない。
「好きになれてよかったし、この子を産めて幸せ」
橙子はニカっと満面の笑みを浮かべた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




