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恋愛の負け

こんばんは。

またアップしています。

お付き合い頂いている方、ありがとうございます。

しかし、ドロドロになってきたなぁ。

       ※


 リンフィーナが橙子のママ?

 はあ?

 私とリンフィーナの子孫が異世界にいるなど、到底信じられなかった。


 兄様!

 一緒にいよう。

 いくら胸の中に、リンフィーナが気持ちをぶつけてきてくれても、サナレスは薄く笑う

だけだった。その熱量が弾丸のように鋭くても、今まで笑顔で誤魔化してきた。


 サナレスは、彼女が男女のなんたるかもわからないうちに、リンフィーナと出会った。

 赤子だった彼女を妹として育ててくれと言われ、サナレスは導かれるように了承した。


 異性とか、それよりも上位だと感じる感情で、サナレスは妹であるリンフィーナを愛していた。異性として愛した女より上位だなんて、尋常ではない。ムーブルージェ、君をリンフィーナが超えることがあっていいのだろうか……。


 真剣だった。自分の過去を振り返っているすぐ側で、男女の濡れ場が進行している。

「橙子、私はずっと君といたい」

「うん。私も」

 男女の息づかいが荒い。求めあう魂、それに肉体が伴うと、目を背けるほど生々しく不浄なのだろうかと思ってしまう。自分の一部だと思っている橙子とはいえ、人の性行為を覗き見るのは、あまり気分がいいものではない。まして橙子は身内みたいな感覚なのに、自分ごとのように恥ずかしい。


 海外に出て、不倫をとやかく言われる圏内を出た橙子と不倫相手は錯覚している。つまり本能のまま、お盛んだ。

 サナレスは頭を抱えていた。


 人間ってこんなものだったのかな、と過去の自分を振り返る。

 昨今人生100年時代とか、この世界の人間は言っているが、サナレスはもう123年生きてきた。多分123年だ。50歳を過ぎた頃から、数えるのも面倒になった。ただ神官は、神と言われる自分たちの年表を作るために、自分の年齢をしっかり数えてくれていた。


 年齢に興味はなかった。

 だって永遠に老けないし、死ねないのが王族だった。

 

リンフィーナを育てることになってやっと、自分は時の流れを再び確認し始めていた。


 妹が1歳になった。3歳になった。7歳になった。生誕祭を迎えた。

 10歳を超えた頃から、急に大人びてきて、2度目の生誕祭でサナレスは驚愕した。


 自分が預かって育ててきた赤ん坊が、なんだか女性になった。

 意識せざるを得ない。


 自分のことばかり追いかけて、ついて回ってきた雛鳥が大人になって、そして恋人まで作ってしまう歳になった。


 そうか。


 100年以上も生きてきた。

 だからサナレスは、もうすっかり恋愛感覚を忘れていた。

 橙子が再現してくれてやっと、恋愛っていうのは思い込みで走り出すという激しい感情を伴うことを思い出した。


 愚かだ。

 体を重ねるだけ。

 愚かだけれども、子孫を残すという本能がそこにあり、バカにできたものではない。


 ラーディア一族第三皇子のサナレスは、何度となく母親に見合い相手を勧められた。どの相手もスルーしてきたのは、ずっとムーブルージェとの鮮烈な恋愛経験を引きずってきたからだった。


 そうか。

 なるほど。


 今更妹として育てたリンフィーナが他の男と結ばれると知って、石化していた心が動いたことは認めたくなかった。醜く嫉妬して、そんな自分に見てみぬふりをして、死んでしまってこの世にいないムーブルージェにすがりついていた。


 リンフィーナの婚約者、アセスに言われた。

『勝負しよう』

『ああ』

 口ではそう答えていた。


 けれどサナレスの心は老いていた。

 負ける勝負に本気になるなんて、あり得ないと思っていた。大切にしてきた妹が幸せであれば、自分はそれでいい。


 でも恋愛は熱量なんだ。

 そんなことを橙子に見せつけられっぱなしだ。

 リンフィーナからも、確かに熱量を感じ取っていたというのに、愛情という括りの感情で彼女の側にいたに過ぎない。


 帰りたい。

 帰らなければならない。


 でもこの世に転生して、橙子と出会った意味は、単に自分の気持ちを確認するためだけにあったとは思えなかった。

 世界は滅びそうだから。

 今とても、不均衡になっているからだ。


 自分の意思で戻れるかどうかわからない今、すべきことを探さなければならないのかと考えた。


「橙子、私が言うことではないかもしれないんだが、君はとても刹那的だ」

「どういうこと?」

 不倫相手の男が布団の中で橙子に話しかけていた。

 たかだか不倫男だというのに、大学教授というだけあって博識で説教くさい。


「僕には家庭があってーー。家庭があることがわかっていても、ずっと僕についてきてくれる」

「うん。ーーだって……、先では一緒になれるかもしれないし」

 布団の中で橙子はつぶやくようにいい、すがりつくみたいに男の首元に細い腕を伸ばす。


「こんな海外の学会まで、君はついて来てくれて、妻と別れない僕に怒りもしない」

「だって教授、もしこの国が日本ではなくて他国だったら、社会学的に、ううん歴史的なものでも一夫多妻制とかもあるし、本当に大切なのは気持ちだって私に言ってたでしょ?」

「ーー」

 男が黙った。


 不穏な空気に、サナレスはゾッとして血の気が引いた。


 男と一緒に海外の学会に行くことができたという現実に橙子は浮かれすぎている。


 サナレスも想像していなかった。

 ーーいや、いつかはそうなると想像できていたことが、今起こる。


「ーー教授?」

 橙子は全然気が付いていない。

 無防備だ。

 だってつい今しがたまで、2人の間には熱量があって、体の芯さえ熱っている。


 男の腕の中で安心しきっている橙子を、今すぐサナレスは、自分の背中の後ろに庇わなければと思った。今すぐ人間の前で実体化する、と馬鹿げた考えが浮かんできた。サナレスは葛藤する。


「本当に君は純粋だ」

「?」

 橙子はわからないまま、笑っている。危機を予期できていない。


「海外に来て僕はわかった」

 橙子!

 武装しろ!

 サナレスは橙子に叫んだけれど、橙子は全然聞いていなかった。


 心を、武装しろ。

 出なければ、血を流すのは君なんだ。


「橙子、本当に純粋な君は、私にはもったいないよ」


 くそったれ!!

 サナレスはすぐさま橙子の耳を塞ぐために、もう一度実体化した。

 この世界の神ではない。実体化する度に感じるのはエネルギーの不足だった。


 でも護らないと、と思った。

「えっと……」

 橙子は、男が言った言葉を呟いて反芻する。

「もったいないって……なんかさ、陳腐な別れるときのーー」

 橙子は皆まで言えなかった。


『もういい!』

 サナレスは実体化した。

 瞬間的に怒りが脳天まで込み上げてきて、許せなくて、実体化して、橙子の腕を引っ張って自分の胸の中に抱きしめていた。


『もういい。これ以上彼女を傷つけるなら、私は許さない』

 手を広げて男を退けた。

 神の力が発動した。


 裸体の男が、ベットから床に転がり落ちる。


 卑怯だと思った。

 どうして海外まで橙子を連れ出した?

 どうして抱いた後に別れ話を切り出した?


 理路整然と考えれば、海外まで連れ出して別れ話をすれば、暴れられても平気だと防御壁を張ったのだ。それなのに橙子との体の関係に未練があって、ーーだから、抱いた後に切り出してきた。


『お前は、卑怯だ!!』

 許さない!

 さらに神の力が発動して、男は床を滑って裸体のまま壁に叩きつけられる。


「サナレス! もういい!!」

『何がいいんだ!? この男、君の気持ちをなんだと思っている!!』

 実体化して抱きしめた橙子は泣いている。

 声すら殺しているのに、瞳から涙が流れ続けていた。

 学生の頃、いじめられても絶対に涙なんて流さなかった橙子が、ホストの彼氏に裏切られて放心状態になっても泣かなかった橙子が、今泣いているのだ。


「いいよ、サナレス。好きになったものの負け」


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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