因果関係
こんばんは。
楽しみで書いています。
1週間に一回は更新している、書きたいことを書いている小説です。
お付き合いよろしくおねいがします。
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サナレスは思い出していた。
前の世界、ーーつまりサナレスが時代の統治者としてあったアルス大陸歴の現状、魔女ソフィアが覚醒したと言われ、地震という科学的な震災が起こった。
けれどこの時代、橙子と自分が一緒に存在する今では、まだそういった危機的状況は起こっていない。
戦争、アキとかガネーシャとかいうおっさんがいうには、あと数十年の間に起こるだろうと予想していた。その意見にサナレスも同意している。
『だったら、あんたさ。異世界情勢を知ってどれくらい危ないかを分かったら、どうするんだ? 神としてさ』
とズバリ聞いた。
『あ。わい? 危ないと分かったら、わいは異世界転生するし。そりゃそうやんか。ちょっとでも長く楽しく生きられる世界、探しとるわ』
サナレスは彼の意見を聞いて、絶望する。
それがガネーシャと言われるおっさんの本心だと思うけれど、それだったら、人って浮かばれない。所詮こっちの世界でも神なんて偽物なんだと吐息をついた。
『でもなぁ。もしこの世界が地獄真っ逆さまでも、対応可能ならその方法を示すんも神やから。 わい、警鐘はいっぱい鳴らすんやで』
『たとえば、どういった?』
『あんさんらに話しかけとる。この行為自体が、警鐘やんか』
なんとなく理解できてしまうけれど、サナレスは言葉でちゃんと説明を求めた。
『あんさんらの関係、この絶妙な異世界の神と、こっちの世界にいる嬢ちゃんの関係って、多分さ……、この世界の未来にすっごい重要なコンビなんやわ。だからやで。わい、そんな簡単に姿現さんのやて。パチンコ打ってたいんやて。断食してる民にも、そんな固いこと言わんでええって言いたいしさぁ。忙しいんやて』
橙子の不倫相手と別で過ごせる時間には限りがあり、サナレスは実体化したまま、ガネーシャとのやり取りを振り返っていた。
そして橙子に質問する。
『ねぇ橙子、私と君が血縁関係にあると聞いたが、君は何か心当たりがある?』
橙子は自分の体から抜け出た、実体化した私をじっと眺めながら、やはり不信感の募った視線をこちらに向けてくる。
『あのさ。大丈夫よ。君は何もおかしくない』
「頭おかしい人って、自分の頭がおかしくないと思ってるでしょ?」
やはり橙子は、自分自身の人格障害を疑っている。
『その考え方自体が、現代病だよね』
サナレスは吐息をついた。
『橙子、私は君にはいつもちゃんと話しかけている。これが事実だ。それなのに橙子はいつも自分の正気を疑っているね。最近の医者が悪いのかな? 通常と違うことを体験する人のことは大体はメンタルおかしい人にする。なんでもかんでも病気だっって診断されて病名を付けられるってのがそもそもおかしい。君が私の声を聞こえているのは事実で、君が悩んいることも事実。なのにそれを全て病気だって否定するのって、そもそも君自身を否定するってことになるんだよ。ーーまずは君が正常だってことを認めてから、対話しないか?』
「ーー」
だからこそずっと、確信に触れない関係でいた自分と橙子がいて、サナレスは琴線に触れる思いで提案していた。
「私が頭おかしくないって、そんな前提で話すの?」
『そう』
歩み寄りは一歩づつだ。
「じゃあサナレス、どうしてあなたホストっていうかーー。異世界の王子みたいな感じなの!?」
『橙子には残念なことに実際、異世界の皇子なんだよ。王位継承権で行くと第3位で、見た目について言及されれば、悪いねーーモテるし。こっちの世界でも北欧系は整った顔立ち多いよね。そっち系かな。それだけ。』
「男って黙ってた?」
『言ってたら何か違った? 私はーー。きつい言い方をするけど、自分の存在意義を異性には求めないよ』
想像していたけれど、橙子は表情を変えてきた。橙子は彼女の存在意義を常に異性に確認していたので、痛烈な皮肉だ。
この際だ、畳み掛けて言ってしまおうと、サナレスは思っていた。
『人ってさ、大体自分の存在価値を他人に求めるよね。特に異性にね。ーーでも歳をとって、伴侶だと思った人からの肯定感を失って、それでどうやって自己を肯定するんだろうね? それは見た目なの? 中身なの? 姿勢なの?』
「そんなの……」
にわかに橙子は答えられなかった。
『私はね。見た目でも中身でもないと思っている。その人の生き様、つまり姿勢だって思っているんだ、それってさ、自分自身の中にしかない』
「でも……、現にあなたはとても」
『見せよう』
サナレスはレテの川に飛び込んで、焼け爛れて溶けていく自分の姿を橙子の前に再現した。
橙子は目を覆う。
「やめて!」
橙子の言葉のまま、サナレスは自分が朽ちていく姿をその場に留めた。片頬が業火に焼かれて爛れ、髪の毛はない。残った右目さえも、やっとこさ視神経につながって落ちずに済んでいるだけの姿だ。
『橙子。これが人の姿だよ。神と言われた私だって、橙子と出会うまでにこんな姿になっている。いずれ土塊になる。私がいた元の世界でも、この世でもね、見た目って重視されているけれど、この世じゃメラビアンの法則なんてのもあるけれどさ。人の魂が動くのって、見た目じゃない』
そこは経験から強く主張できた。
『見た目じゃなく、生き様で、姿勢だって言える』
橙子は黙って聞いていた。
『君が出会った人たちと過ごした時間は尊い。そして私は否定しない。でも君の生き様について、君はもう少し考えたほうがいい』
「私、病んでない?」
『病んでいる人ってさ、こんなまっとうな意見が提示されるものなのかな?』
私たちは初めて、ちゃんと向き合った。ーーとサナレスは思っていた。
『何か私たちを結びつける縁って、思いつく?」
ガネーシャの言ったことを検証したくてサナレスは聞いた。
「それ……。私ってさ、二卵性双生児で生まれたらしいんだけど、死産で。それと何か関係あるのかな?」
橙子が口を開いた。
「単なる死産だったらしいんだけど、なんかーー」
ふうん。
全てのパズルが少し解けた。
『そうか』
サナレスは口の端を引き結んだ。
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