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ヤンゴンでの出来事

こんばんは。

忙しくなってますが、書いています。

お付き合いいただいている方に感謝!!

        ※


 人は老いる。

 だから相手が老いることに寛容なふりをしているらしい。

 橙子はまだ若いというのに、老いた男を責めいない。それどころか好意すら持っているようだ。


 貴族において老いるというのは怠惰の象徴であったので、サナレスにはこのあたり、世界の理が全く理解できずにいた。怠惰さえ美学だと己を甘やかす貴族もいたが、それは醜く太る肉体を甘やかすのと同じだと考えていた。


『潔癖すぎるのよ、サナレスは。だから好きな人にも本心で向き合えないんじゃない?』

 橙子に言われた。

『君は奔放すぎるよ』

 サナレスは苦笑した。


 ミャンマーのヤンゴン国際空港に着いた。

 この国の貨幣価値は日本の10分の1以下だ。未だ完全に陸路ですら整っておらず、電気も通っていない地域がある、貧しい国だ。


 おっさんは学会発表というだけあって、通訳を側につけ、おっさんと橙子はビップ対応だった。

 でもな。

『せまっ!』

 飛行機の中、座席の感想は一言でそんなものだった。

 あれでもビジネスクラスという席でランクは上だというのだから驚く。庶民はもっと狭い席に座っているとは、にわかには信じがたかった。


 あれ以上狭かったら、足がつかえる。

 今は橙子の身体だったので、ちんまりとおさまってしまったけれど、本来のサナレスは190センチほど身長がある。前の姿だったら、とても長時間、飛行機には乗っていられそうになかった。


 この世界では、お金や地位がその者の身分を表すようだ。

 世界が変わっても変わり映えしないものがあるのだと笑えてくる。実力主義が取り上げられる公平性があるぶん、この世界の方が貴族社会よりは幾ぶんマシだと思えたが、それでも金の力がとても強い。


「ホテルまでタクシーで行こう。学会は明日だから、今日は一日ゆっくりできるよ。観光するか?」

「うん。首都ヤンゴンって、黄金の街なんでしょ? 見てみたいわ」


 貧しい国だというのに、首都は黄金の街なのか?

 矛盾していた。

 サナレスは肩をすくめた。


 首都だけが富の象徴のように、パゴダ(仏塔)がいくつも点在しており、それらには金箔が貼られており、いくらするのかわからないほど高価な宝石が展示されている。


 民は宗教に、金を貢いでいるらしかった。

 なんだか似ている。ラーディア一族にも貴族制度という宗教がかった神があって、民は年貢を奉納しているのだ。信仰心ですら金で買えてしまうのは、この世のあの世も同じだなとサナレスは思った。


 世界には、どうしてこうも、強者と弱者が共存していられるんだろうか?

 同じ生命であるという括りにあるはずの人間なのに、この世界ではビジネスクラスとエコノミークラスっていう、移動する乗り物ですら、違う場所に座らされる。

 それでどうして、不満もなく共存できるんだろう?

 なんで納得できているのか?

 この世界の統治者は、ずいぶん巧妙な手口を使って、資本主義社会という社会を形成している。


 サナレスは心中複雑だったが、橙子は純粋に富裕層側の人間と一緒にいて、黄金の建造物をかなり楽しんで観光している様子だった。

 

 『この国の神はブッタという神らし』

  橙子とおっさんのデートに口を挟むのは無粋だったが、サナレスは神殿内で、せめて橙子に神の名前を伝えてやった。

 シュエダゴンパーヤーは夜になるとライトアップされて、真っ暗な空に浮かび上がる、ヤンゴンでは有名な観光スポットになっている。

 けれどミャンマー人は信仰が深い。暑かろうが寒かろうが多くの人々がお参りをしており、まぎれもなくそこは、神がいる地だ。

 それなのに、この日も観光客と信仰深い民が入り乱れていた。


 観光で写真を撮りまくる、軽い民。

 神に祈りを捧げる、地元の民。

 ほんと、どうして同じ場所にいるのが可能なんだか……。


 神仏は違えど、信仰心は同じなので、ラーディア神殿では物見遊山で写真を撮って楽しむなどという娯楽は不道徳だとされていた。


『ーー神殿で、いちゃつくな……』

 異形の民の風習とはいえ、サナレシスはおっさんと橙子に吐息をついた。


 この世界はずいぶん宗教に寛大だった。

 日本なんて、その最たるものだ。


 八百万の神々を神として祀ったというのに、仏教もあり、キリスト教もあり、儒教もあり、こうして異国の神々の存在も認めている。言い換えれば、ずいぶん信仰心が薄いのだ。


 それでいいけどさ。

 サナレスも理解していた。


 でも宗教を信仰して、一心に何かを願っている者の真横で記念撮影って、なんだかシュールだった。人は自由にあるべきだ。だからきっとそれでいいのだろうとは思うけれど、やはり慣れないでいるサナレスだった。

 正月に神仏に賽銭を投げる日本人を見た時から、その違和感は拭えない。


「橙子、明日は学会で、私はその準備もあるからホテルの部屋は別にしているよ」

「そうなんだ……。明日は何時に終わる?」

「懇親会もあるからね。多分夜遅くなる。ホテルのフロントに通訳を頼めるようにしてあるから、明日は観光するなり、ホテルでゆっくりするなり、好きにしていいよ」

 社会的立場上、別々の部屋をとってくれているようで、サナレスはガッツポーズを決めた。


『おや? 君は別の国の神か?』

 不意に話しかけられた。

 サナレスは身構えた。

 それ以上に橙子が驚いて、目を白黒させている。


「サナレス! なんか変な声が聞こえたんだけど」

 ホテルに戻り、橙子がくつろごうとしている矢先だった。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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