夢でしかない夢
こんばんは。
久しぶりに、書いています。
最近、課題提出ばかりに追われていて、文字数でいうと、そっちにエネルギーを取られています。
今後も書きたいものを書いていられますように。
今風の異世界転生や逆転性を書いていません。
※
長崎大輔は社会学者だった。歴史に知見が深く、その上芸術家肌だった。
「君の家は、いつも殺風景だ。ーーでも、それが君の着飾らなさっていうのかな……、悪くないなって思うんだけど、人ってさ、人生においてかなりの時間を家の中で過ごすだろ? 君はどんなところで暮らしたいのかな?」
面食らった橙子はずっと黙っていた。
「え?」
それはそうだ。彼女は住居費というコストを抑えることしか考えていない。
「どんなふうな生活をしたいと思っているんだ?」
長崎が質問した答えについて、橙子は初めておもちゃを手にした子供のように興味関心を惹かれたようだった。
「私はーー」
でも明確な意見を言えない橙子は、おし黙った。
そして少しだけ顔を上げた。
「今のままで満足だよ」
サナレスからすれば、それは嘘だった。
橙子はこの閉鎖された世界を、ずっと窮屈に感じてきたはずだった。
地方の田舎という狭い世界で、橙子は風よりも早く広まる流言に辟易していた。
だから東京に来たというのに、彼女は更に小さな箱のような部屋に移り住み、限られた人間関係だけと付き合っていた。
確かに彼女はホステスをして、多くの著名人の名刺を集めてはいたが、そもそも彼女は社交的ではなかった。残念ながら贔屓にされる器量ではない。好きな男ができ、虚像のホストの色恋に溺れ、今度は不倫するありさまだ。
長崎との恋愛は、金に塗れた色恋に比べれば、ずいぶん純粋なものだった。
少なくとも長崎は、橙子の幸せを願う男のようではある。
生涯彼女を支えていかないという点については、帰りたい場所が別にあるサナレスとて同じだった。それで、同罪のような気分になった。
ーーだが私は別に、彼女に手を出したわけではない。
出そうとしても、二心同体なのでーーつまり自分の体が橙子なので、手の出しようもないのだけれど。
サナレスはくすと笑ってしまった。
「とにかく君は、とても可能性に満ちている」
「はは。そんなこと言うのは教授ぐらいですけど……」
橙子の笑い方は乾いていた。
「来月私はミャンマーの学会発表に行くのだけれど、一緒に行かないか?」
橙子はもっと見聞を広める必要があると、枕詞として長崎は饒舌だった。
「でも、教授と一緒に行けるのはゼミの学生さんたちだけでしょ? 私は全然一緒に行ける立場じゃない。航空科だし……」
「ーーん、確かに私の講義は一科目しかとっていないからなぁ……」
長崎はそれでも諦めていない様子で、裸体の橙子を自分の肩に引き寄せた。
サナレスからすれば、おっさんに引き寄せられ、不快感を訴えたいくらいだったが、この世は橙子中心に世界が回っていた。自分の不快感など、鍛錬で耐えることができていた。
少し考えた長崎は、橙子にいいアイディアを思いついたとばかりに声色を高くした。
「来週さ、持続可能な発展的な世界をどう残していくかっていう会議がある。学生からもアイディアを募集しているんだ。橙子、君がそれに応募して採用すれば、一緒に行けるんじゃないか?」
たぶん、長崎は世界旅行、という言葉を飲み込んだ。
でも橙子には、広い世界にと変換されて聞こえたと思う。
「ーー私にもできるかな……?」
「修士論文並みのボリュームはいるけど、アイディアが良ければ採用されるよ」
長崎はそんなふうに橙子を有頂天にした。
「うん。頑張る!」
橙子は言ったけれど、サナレスは苦笑した。
どんなに肯定的に受け取っても、それは無理だ。
この時に水を刺したくなかったので黙っていたけれど、サナレスは思った。
サナレスだから、彼女が抱えた夢の、夢でしかない現実がわかっていた。
こんばんは。
特に、書くこともないのですが。
シリーズの紹介をしておきます。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




