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この世で大切な感覚

こんばんは。

最近、どんな社会になっているのって思うけど、昔の社会を知らない人が多いんだ。

てことでドクターストーンってアニメ、いいねって思うなぁ。

         ※


 橙子との共生は、決して心地が悪いわけではなかった。

 けれどこのままではいけない。ずっとそういうジレンマを感じていて、サナレスは自らの存在の曖昧さを憂いていた。


 そもそも、夜になれば完全に意識を失ってしまい、橙子が夜の間にどういう社会で、どんなめに遭っているのかすら把握できていない。せめて彼女に栄養ある食事を提供したくとも、意識がある時にアドヴァイスをするぐらいで、何の役にも立っていない。


『橙子、君はキャビンアテンダントになるという夢があると言った』

「ええ。そのとおりよ」

『それなのに生活費を削って、夜毎働いて金銭を稼ぎ、それが何の役にたつ?』

「人脈づくり。コミュニケーション能力向上。実社会を知るには手っ取り早い」

 自分が話しかけている時、橙子はいつも明瞭な回答を返してきた。


 でもサナレスは自分の意識がこちらの世界で混沌としている間に、橙子が酔っ払い、何かしらの悲鳴をあげているような事態を察知はしていたので、気丈ないつもの彼女の様子が気になって仕方がなかった。


 砂上の楼閣ろうかく

 橙子は聡明で、合理的で、それなのに根本的な問題を抱えているように思えた。


 精神的に脆い(もろい)。

 それはつまり、油断すればすぐに折れてしまう弱さが内在している危険因子を持っているということだった。


『社会勉強というのなら、そろそろ満足したんじゃないか?』

 何の手立てもないまま、この世界では半年という歳月が過ぎていた。

 この頃、明け方でも橙子の吐く息が酒臭く、彼女は化粧をしたままベットに突っ伏していることが多い。


「大丈夫よ、サナレス。オートミールをちゃんと食べるわ」

 そう言いながら彼女はボサボサの頭をかきながら、敷きっぱなしの布団から起き上がり、大きめのボールにオートミールを注ぎ込んだ。ガサツな仕草だ。

「あ、牛乳切らしちゃった。このままじゃパサパサするよね」

 そう言いながら、彼女は苦笑してオートミールを手で掴んで、スナック菓子のように頬張ってしまう。


『すまない。これじゃファーストフード以下だ。食事とも言えないよな……』

 サナレスは未だ満足な食事を橙子に与えられない自分を情けないと思っていた。


「えっとさ。現代人って忙しいから。エネルギーチャージできれば、それでいいし。だから飲むエネルギーもあれば、カロリーメイトとかソイジョイとか一本のバーになった食事、売れているわけだし、気にしないで。サナレスの提案は正しいよ」

 橙子の言葉を、サナレスは素直に受け入れられなかった。


 そんなサナレスを見て、きっと爆笑する者は多くいると思う。かつてのサナレスを知る者であれば、合理的に栄養素だけを摂取できればいいとか、下手すれば栄養不足でぶっ倒れない範囲であればいいとか、そんな人生を送ってきたサナレスだったので、橙子には何も言えなかった。


『今日は休み?』

「うん、図書館行く?」

 橙子はサナレスが好きなことを知っていた。


 けれどサナレスは吐息をついた。

『今日はやめておこう。君はさ、最近陽の光すら浴びていないから、散歩しないか?』

 サナレスは橙子に気づかさせたかった。


 意味がわからず戸惑っている橙子を近所の公園に連れ出した。

 午前中、東京都内とはいえ、公園内の地面は冷たい。これが自然だ。


『人間ってさ、生まれついた時には何もなかった。だって人間といったって、何もないところから始めたんだからーー』

 前置きをしながら、サナレスは自分の考えを述べた。

『だからいくら夜の街が賑わっていても、人は朝陽を浴びたほうがいいと思っているんだ』

 夜の民、ラーディオヌ一族のアセスに、言ってやりたかった言葉だ。


『夜の仕事を否定しているわけじゃないよ。でもさ、たまには太陽の光を浴びて、体内時間をリセットしないか?』

「ーーサナレス、あなたこれからの世界に逆行する意見を言うのね」

『これからの世界?』

「うん」

 橙子は公園で伸びをした。


「コンピュータが普及して、生産を糧としてきた社会から、今は情報が売れる世界になる。そうなれば人は、起きていなくても生活できるんだよ。極端に言えば、脳だけ起きていれば人生楽しく暮らせる未来が来るよ」


 橙子のつむぐ言葉は、橙子が暮らすこの文化的な社会にあっては、容易に想像することができていた。

『よくわかるよ。でもさ、今どんな気持ち?』


「ーー心地いいわよ。風が冷たい」

『だろ? どんなに世界が変容しても、人は感覚的な感情を失わない。科学的に言おうか? 撫でられるとか、体を寄り添わすということで、人は細胞自体が幸福感を感じるらしい』

「?」

『皮膚表面の神経細胞のことだよ』

 橙子は知らなかった。


『この世界は、人と人が触れ合うことが不足してきている。ーーまるで貴族みたいだな』

 サナレスは橙子に触れたかったけれど、一つの体に二つの魂で、それは叶わなかった。


「ーー意味はわかったよ」

 橙子は陽の光のなか、全身を伸ばし切るようにして、腕を天高く伸ばしていた。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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