短編 44 海老フライの逆襲
前話からのエビ繋がりで生まれた作品です。これはノリだけで書き切ったすごい短編なんですよ。
ちょっと正気は疑いますけどね。ふふふ。
海老フライ。
洋食の人気者にしてフライ界の御三家とも言われる海老フライに異変が起きた。
『海老フライって体に悪いのよねー』
『胃にもたれる』
『コレステロールがさぁ』
『痛風がぁ!』
若者を中心にそんな情報が拡散され、あっという間に海老フライは洋食屋から消えていった。不動の人気者が一夜にして看板から転落である。
海老フライはこう思った。
『なんでや!? なんで一夜のうちにこないなことになったんだぎゃー!?』
名古屋からも海老フライが消えた。海老フリャーと言った方が的確きゃー?
世は空前の健康ブーム。少しでも『体に良くない!』という情報があればそれで全てを否定される、そんな時代になったのだ。
フライは軒並み不健康。そんなレッテルがテレビやソーシャルメディアに横行し、多くのフライ店で倒産が相次いだ。
ただひとり、奴を扱う店を除いては。
『一日一枚とんかつを食べて健康になろう!』
豚肉はヘルシーさ!
豚肉は健康にいいのさ!
豚肉はカロリーだって実質0さ!
みんな、とんかつ食べようぜ!
そう、フライ界を壊滅に追い込んだ黒幕。それは誰もが知る『デブの好物』とんかつ野郎だったのである。
地下に潜った海老フライやカキフライ、その他フライメンズは唯一地上でブイブイ言わせているこいつに驚きを隠せなかった。
なんでお前が。
信じていたのに。
お前、わりとダメなフライじゃん!
追いやられしフライメンズは各々込み上げるものがあったという。
しかしとんかつ野郎の暴挙は止まらない。
妊婦はとんかつ。
幼児もとんかつ。
年寄りだってとんかつ食おう。
だってヘルシーなんだもん。
もりもり食って健康になろう!
フライメンズは遠くない未来、人々が『ぽっちゃり』を越えた『でっぷり』になることを確信した。
なんとしてもあの豚野郎を止めねばならぬ。
しかしとんかつ野郎のバックには政府が就いていた。国を挙げてのとんかつブームである。メタボを増やして国民を不健康にしたい。そんな思惑がフライメンズには透けて見えていた。
これは最早国の危機である。
地下に追いやられていたフライメンズは決起した。フライ業界同様に不健康とされたオリーブ油業界、イタリアンズも巻き込んでの国崩しである。
打倒豚国家。フライメンズとイタリアンズは立ち上がったのだ。しかし相手は政府。国家権力そのものでもある。
フライメンズとイタリアンズの反乱は、あっという間に鎮圧された。放水車で一撃必殺されたのだ。
フライメンズの湿気てゆくサクサクボディ。
水を浴びて分離していくのはイタリアン達。
すわ! これでお仕舞いか。
海老フライは天に煌めく星に願った。
『来世はエビチリがいいかも』
そして海老フライは息絶えた。フライメンズも皆、無念の想いを残して息を引き取った。オリーブ油テカテカのイタリアンズも、ごく一部を除いて全滅。世界から海老フライとチーズが消え去った暗黒時代の始まりである。
世界はとんかつ世界と成り果てた。
人々はこぞってとんかつを求める。
その先にあるのが『高脂血症』だと気にすることもなく。
そして海老フライが天に召されて八年の月日が経った世界。
ぶくぶくに太った人々は宇宙生命体『ポークピカタン』によって捕食される終末世界となっていた。
フライ達が追いやられた世界。全てがおかしくなった世界の全てはこの『ポークピカタン』が仕組んだ壮大な人類捕食計画だったのである。
美味しそうな名前をしている『ポークピカタン』であるが、その見た目は巨大なミミズである。政府のゆるキャラ『ポークピカタン』の皮からこいつがズボロロロと出てきたのでこの通り名となった。
太った人間を一呑みにする巨大なミミズ。それが大量に現れて世界は終わるかに見えた。実際に終わった感じなのだが、終わるかに見えて終わっていなかったのかも知れない。つまり一言で表すなら……まぁ終わってるんだよなぁ。
あのフライメンズ大粛清で唯一生き残ったイタリアンズの一人。『狂乱のアヒージョ』は人々が巨大なミミズに食われていくのをただ傍観していた。
彼はアヒージョ。オイル煮である。その本質は煮えたぎったオリーブ油にある。なので基本的に動くことが出来ない不動の存在なのだ。物理的に。彼だけは秘密基地に放置されっぱなしで難を逃れた感じである。
だが八年の月日で彼は油が尽きていた。残ったのはテッカテカのマッシュルームとブロッコリーである。八年ものなので多分食べたら腹を壊す危険物。
彼は自身の存在そのものが変わり果てた事で、ようやく外に出れるようになったのだ。
そんな『狂乱のアヒージョ』は世界の終わりをただひとり、冷めた瞳で見つめていた。
かつて散っていった仲間たち。
自分を置いていった仲間たち。
彼らの事が脳裏に駆け巡る。
『ざまぁ』
狂乱のアヒージョ君がそう思うのも無理はない。
彼は愛していたのだ。海老フライを。種族の壁はそこにあれど、彼女を心の底から愛していたのだ。
『ギトギトすぎなので……ちょっと』と断られたがそれでも愛していたのだ! アヒージョ君は!
宇宙生命体『ポークピカタン』の侵略は止まらない。地下に逃げ込んだ人々も入り口で詰まり、あれよあれよと捕食されていく。
『……飲み物?』
アヒージョ君がそう思うくらいに『ポークピカタン』のお食事風景はショッキングであった。
そして世界から人類が消えた。『ポークピカタン』達は合体して巨大なミミズへと変身すると宇宙に向けてうねうねと飛び出していった。
物理法則の完全無視であるが今更である。
そして人類が消えた地球に残されたアヒージョ君は……。
「ギトギトさん、近寄るなアル」
「そんなことを言わないで欲しい。生き残ったもの同士仲良く生きていこうではないかベイビー」
アヒージョ君、エビマヨちゃんにナンパして嫌われる。
何故か中華はこの世界で生き残っていた。ある意味一番カオスな料理なのに。
「ギトギト嫌いアル」
「そんなこと言わずに……アヒージョしようぜ!」
アヒージョ君はイタリアン。つまりは陽気なイタリア人。
ジャポン生まれのチャイナっ娘とは反りがいまいちである。
「この世界はこのエビエビ姉妹が支配するアル。ギトギトは要らないアル」
「……マヨネーズもギトギトだと思うんだけど」
「……お前は言ってはならない事を言ったアル」
アヒージョ君はこうして空の星となった。
その後、世界がエビまみれになったのかは誰も知らない。どうでもいいし。
今回の感想。
なげやりか! あと皮のルビがぬいぐるみって……逆じゃね? まぁ面白いからそのままにしましたが。