落穂拾い
動揺している。
ニュースは確認した。しかし、何故?
「ようやく、実りを刈り取れる時期まで来たのに」。
長い、長い「冬の期間」。
ようやく、ここまで回復させたのに。今なら1番になれたし、反対する人もいなかっただろう。
我々製造業や輸送業従事者は、まず感謝などされない。「出来て当たり前」。基本的に「バッシング」前提な業種である。
この方の「最初」も、リコール問題だったはず。当時、サプライヤー側従事者だった。
ニュースを見ていた当時、あまりにも意味がわからなかった。単なる言いがかりというか「調べる為に全ての図面や技術資料を開示しろ」という要求を見た時に、同盟国が謳う「自由」は「同盟国の自由」であって、他者を尊重する「自由」ではなかったのだと、酷く嫌な気分になった。
この方は、創業者一族のため、良くも悪くも「色眼鏡」が初めからかかっている状態で、引き渡されたタイミングも悪かった。
それでも、ここまで回復させ、持ち堪えさせた。他メーカーが外へ出ていく中、日本での生産を可能な限り維持し続けた。
ようやく、出口が見えてきた、我々550万人のトップは、本日、会長職になることを発表された。
せっかく、ようやく、ご自身の成果が、みんなからの「感謝」が受け取れるのに、後任に譲られてしまった。
何故?それこそ、ご自身を売りにして、キャラクターを作ってまで、クルマを愛し、本当に心血注いで、この産業を支えたのに。
動画が流れていた。綺麗な笑顔だった。
憂いがない、いい笑顔。
悔しくないのだろうか?一度しかない時間。捧げた労苦に見合うだけの「感謝」が受け取れたとは、思えない。
後任の方は判断材料が少ないが、どことなく人が集まってきそうな感じを受ける。気さくな笑顔に穏やかな声。
「クルマが好きです」。
この一言に嘘は無さそうだった。
きちんと熱が入っていた。素敵だな。
あまりにも、衝撃的なニュースに、思考が追いつけない。なるほど、これが「ファン心理」なのか。確かに「○○ロス」という気持ちがわかった。大変勝手なねがいだが、もっと報われてほしかった。
「これからは産業全体を良くしていきたい」と書いてあるメッセージ。
動画の最後の笑顔が曇らないように、頑張ろう。俺は「彼」のファンだと思う。それに、同業他社とはいえ「同じ釜の飯を食べる仲間」には違いないのだから。




