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小さな手

「ごめんね」

「いや、気にせず。子どもなんてそんなものかと。逆に大人しい子だな、と思ってます」


コロナ禍で会えなかった何個か前の会社の先輩。

久しぶりに会ってみたら、3歳の子どもがいた。


子どもを産んだことは知っていたが、現実に見たらもう立って歩いている。言葉も片言で話す。


驚異的だった。たった、3年間。

意味がわからない。


「子ども産んでから、白髪も増えたし、だいぶ変わったでしょ?」


改めて、先輩を見る。確かに白髪も含めて年月は経過している。だが、本質的に変化した感じはしない。


「お変わりないかと」

「そう?会社も辞めたし」

「本質的には」

「それはそうかもね」


斜め前でお子様ランチを食べている男の子。

まだ、うまく掬えないのか、なかなか食べることが出来ない。


「はい、ちょっと待ってね」

先輩が食べさせている。


このぐらいの年齢の記憶。

祖母は俺を「変わった子」だとあまり好かなかった。

祖父は俺を「変わった子」だと優しくしてくれた。


そんな祖父は癌で死んだ。俺が小学1年か2年ぐらい。

闘病生活が始まった後に見舞いにきた祖父の友人に論争ふっかけた記憶がある。


そのあと祖父は約2年に渡る闘病生活後、これ以上の延命措置不要として、終わりにした。そんな、時間。


本当に骸骨に近くなって、親族が集められたとき、祖父からどことなく甘い匂いがしていた。


叔母達や母親ですら、近寄るのを躊躇うぐらいにチューブに繋がれた骸骨だった祖父。


俺は何故か、母親が用意していた祖父の好物のメロンをその場にあったタッパーに入れて祖父に近づいた。


そして、祖父に食べてもらった。

「あーん」とフォークを差し出した。


祖父は起き上がるのも限りなく厳しかっただろう。

だが、上半身だけを少し起こして、俺が差し出したメロンを食べた。


本来、もう食事を取れる体力すらなかったそうだ。

だから、親族一同集まっていた。


他の孫達は、怯えて近寄らなかったそうだ。

俺は孫の中では最年少に近い。怖いもの知らずだったんだろう。


3個だけ食べて、祖父はほとんど聞き取れない声で言った。


「あとはお前が食べなさい」

「ありがとう」

と。


そして、チューブだらけの手で、俺の頭を撫でた。

俺は祖父を見ていた。祖父の目は思い出せる。だが、輪郭はホワイトアウトしたみたいに思い出せない。


「あー」

「あ、こら」


目の前の子は、一生懸命にオレンジジュースを飲もうとしている。


とりあえず、溢さないようにと彼から水を遠ざけたら、この子が指を握ってきた。


温かい。小さい。

目が合う。彼は彼なりに懸命に自己主張している。


祖父は、自分らしく死ぬ為に、延命措置をやめて、死んだ。結果として、あのメロンは最期の食事、となってしまった。


この子は、どんな時間を過ごすのだろうか。

彼の手を握り返した。

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