表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/93

幕間 男たちの密談

その部屋には十代から二十代の男たちが十数人集まっていた。

誰もが高貴な身分の者だった。


部屋に使用人はいない。

人払いがなされていた。


秘密の話し合い。

重大なもので万が一にも漏れるわけにはいかない。

どれだけ信用していようとも部外者に聞かせることなど許されない。


どの顔にも笑みはなく、真剣そのもの。見方によっては深刻そうなものだ。


「今回の一件はーー」

「あの方にはーー」


感情を排した話し合いが続く。

今この部屋にいる者たちにとってこの話し合いに己の感情など不要なものだった。

たとえどのような感情を抱いていたとしても冷静に公平に判断できない者などこの場には必要ないのだ。


またこの空間においては身分差もないものとされていた。

率直な意見が必要であり、他者に(おもね)る者などこの場には不要だった。


「二の君は動かなかった」

「言葉のみで静観されたようだ」

「時に静観も必要」

「何でもかんでも嘴を突っ込むようでは、困りもの」

「だが今回のことはーー」

「動くべき時に動かないのも困りもの」

「時機を見ていた可能性はーー」

「それにしては時機を逃している」

「御自分で動くまでもないと考えたのでは?」

「判断が甘い」

「情報不足では?」

「側近の力不足か?」

「そもそも情報を収集していたのか?」

「それも怪しいと睨んでいる」

「いやさすがに動向くらいは注視されているだろう」

「人材がいなかったとか?」

「今のは聞き捨てならない」


すかさず抗議の声が上がる。

彼は"東"の者だ。

人材不足だという言葉は"東"には(ろく)な人材がいないと貶められたも同然だ。


「二の君の周りに、という意味だ」

「同じことだ。今のは口が過ぎる」

「では今回のことは情報収集不足ではなく二の君の判断で動かなかったということか」


男はゆるりと首を振る。


「動かなかったわけではないだろう。彼女に声掛けはしたのだからな」

「声をかけただけだ」

「何かするつもりはなかったのではないか?」

「言わなかったのは彼女の判断だろう」

「王族に一介の令嬢が気安く声などかけられるものか」

「許可が出ていただろう」

「言葉では許可を出していたが、実際は手を煩わせるなという空気を纏っていたと聞く」

「それだとて思い込みかもしれないだろう。二の君は名分のために相談されるのを待っていたのかもしれない」


立場の違い。

視点の違い。

どちらも否定はできない。


「名分がなければ動けないと?」

「時と場合による。具体的に危険があったわけではないのに名分もなく動けるはずがない」

「親しくしているわけでもないしな」

「ああ。身内が迷惑をかけているから、では弱すぎる」

「逆に彼女を贔屓していると余計な波風が立った可能性もある」


それも一つの見方だ。

可能性としては確かにあった。


「それで言えば彼女のほうからも親しくない王族に声をかけるなど無理な話だ」


彼女のほうから声をかければ批判を受けたのは彼女のほうだっただろう。

一応声をかけられていたとはいえ、特に何の関わりもないのだ。

図々しいと批判された可能性は高い。

波風が立つとはそういうことだ。

それはわかっていることのはずだ。


「確かにそうだよな」

「余計な軋轢を生みたくない気持ちは彼女のほうが強いだろう」

「一伯爵家の令嬢だ。当然だな」

「利用してやるという野心を持っていなければそうなるな」

「そんな野心など持っていないことは行動でわかるだろう」

「そうだな」

「いや、それはどうだろう?」

「何?」

「彼女に野心があるとでも?」

「そうは言っていない。我々はそれを知っているが二の君はそれを知らない」


情報共有が絶対なのでどのような経緯を辿ってのことかは全員把握している。

だがそれはあくまでもここにいる者たちのみの共有だ。


ここで知り得たこと、話し合われたことは外部に漏らしてはならないと決められている。

漏らせば次代の王を選ぶ権利を失い、そこから生じた損失の賠償責任を負う。

さらには信用するに値しないというレッテルを貼られることになる。

それは不名誉なことだ。


貴族は名誉を重んじる。

高位になれば尚更だ。

だからこのことは何よりの抑止力となっていた。


「それは、確かにそうだな」

「二の君は伯爵令嬢のほうにも何かしらの野心があったと思っていたということか?」

「その可能性も考慮に入れていたということだ」


確かにそういう見方もあるだろう。

声掛けをして様子を窺っていたということか。

野心を持っていれば自分を頼ってくるかもしれない、と。


「なるほどな。確かに知らなければその可能性も考えられるな」

「自分を囮に見極めておられた、と」

「まあそういうふうに考えることもできるな」

「何?」

「二の君の考えもあくまでも推測することしかないので。判断できるのは言動のみだ」

「それは、そうだが」

「それのみで判断するのが原則だ」

「それはそうだが」

「推測や思い込みや固定観念はいらない」

「わかっている」


必要なのはどこまでも客観的な事実に基づく判断だ。

それ以上追及はしない。


「野心を見極めつつ手を差し出すこともできたはずだ」

「結果論だ」

「慎重に期過ぎたのでは?」

「それは、反論できないな」

「だが慎重に行動することは悪いことではない」

「程度の問題だ。慎重に期過ぎて対処が遅れる事態は避けなければ」


国の中心となる王族なら尚更だ。

慎重さに欠けるのも問題だが慎重過ぎて対処が遅れることもまた問題だ。


「それは、そうだな」

「どう動くのかを検討していた可能性はある」

「同じことだ。動かなかった。それが選択だ」

「それは、見方の一つだ」

「そうかもしれないな」

「だがやり方はいくらでもあった。それでも動かなかった」

「側近を使って一応調べてはいた」

「その結果は?」

「……表立っては動いていないな」


一つ小さな嘆息が落ちた。


「表立たずとも陰からさりげなくという方法もあった」

「三の君はそうされていた」

「それは認める」

「三の君は色々と陰で動いておられたな」

「苦情を聞いたり苦言を呈したりといろいろなさっておいでだった」

「確かにな」

「だがそれが活かされることはなかった」


いくつもの嘆息が落ちる。

それも事実なのだ。

活かされていればあるいは、といったところだったのだが。

色々積極的に動いていたのだが、結果が伴わなければ弱い。


「せっかく色々動いておられたのにな」

「むしろ三の君は補佐役のほうが向いているのではないか?」

「だが、此度(こたび)のことは見事な行動力を示されたぞ」

「行っていたことでは補佐としての能力を十分に示された」

「上に立つ者ではないと?」

「そのようなことは言っていない」

「三の君はうまく人を使って情報を集めていた」

「それは認める」

「人をうまく使うのも上に立つものの資質だ」

「同意する」

「だがそれはどちらも同じだろう」

「まあどちらも側近は動かしていたからなぁ」


話は平行線を辿りつつある。

今日も結論は出そうになかった。


幾度とない話し合い。

妥協するわけにはいかないからこその長い話し合いだ。


今日も結論の出ぬまま散会するかという空気が漂い始める。


ふぅと溜め息が一つ落ちた。


全員の視線が溜め息の主に集まった。

まるで計算されたかのようだ。


「言っておかなければならないことがある。一の君についてだ」

「何だ?」

「まさかまだ何かやらかしているのか?」

全員の視線を向けられた男は静かに一つ頷いた。


「何をやられたのだ?」

「これ以上のことがあればーー」

「それをわかっておられればいいのだがな」

「わかっていれば大人しくしているだろう」

「それでも動く必要があると判断すれば動くだろう」

「行動力はあるからな」

「しかし、思慮深さが足りない」

「いやわからないぞ。覆す一手かもしれない」

「それは相当難しいことだぞ」


ざわざわとした後で全員の視線が先程の発言者に向く。

全員の視線を集めた男が重々しく口を開く。


「実は一の君が令嬢に手紙を出した」

「「「は?」」」


何人もの声が重なる。

一様に驚き、信じられないという響きを持っていた。

それほど信じられないことだった。


「御自分が何をされているのかわかっておられるのか?」

「わかっていないからやっておられるのでは?」

「わかっていればいくら何でもやらないだろう」

「そうだな」


嘆息を漏らす。


「謝罪の手紙にしろ令嬢本人宛ではなく、当主宛にするべきだろう」


無言で何人もが頷く。


「それとも、当主宛にするのはまずい内容でも書かれているのか?」


ばっと全員が手紙のことを告げた男に視線を向ける。


「それで中身は?」

「謝罪だけではないのか?」

「謝罪だけではなかった」


誰かが溜め息を落とす。


「他には何が書かれていたんだ?」

「内容はーー」


聞いた全員が絶句する。

さすがにそれは悪手だと誰もが思った。

まさかそんなことをするとは考えていなかった。


「……もうこれは決まりではないか?」

「……そのようだ」


ぐるりと全員を見回し、口を開く。


「一の君はーー」


すっと表情を消した男たちが口を開く。


「異議なし」

「異議なし」

「異議なし」


最後に手紙の件を告げた男に視線が向けられた。


「勿論、異議なしだ」


読んでいただき、ありがとうございました。


今年も読んでくださりありがとうございました。

あと少しで完結です。

お付き合いいただけたら嬉しいです。


誤字報告をありがとうございました。訂正してあります。

来年もよろしくお願いします。


たくさんの誤字報告をありがとうございます。

申し訳ありませんでした。訂正してあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ