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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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63.第一王子から手紙が届きました

「お嬢様、こちらが届きました」


家令が手紙を持ってきた。


「ありがとう。どうしたの?」


どことなく家令の表情が硬い。


「失礼致しました。差出人の方が……」


家令が言い淀む。

緊張する相手なのか、歓迎できない相手なのか。

あるいは、両方か。


「誰からかしら?」


家令は答えずにトレーに載った封筒を差し出した。

封は開いている。


「封は開けさせていただきましたが、中身は見ておりません」


エドゥアルトや親しい友人から届く手紙の時と同じ言葉だが、そこから伝わってくる響きが違う。

何か仕掛けられていないかという念の為の確認と、すぐに読めるようにとの配慮。


「ありがとう」


アンリエッタは封筒を手に取った。

上質なものだ。

かなり高い身分の相手からの手紙だろう。


封筒を引っくり返して封蝋を確認する。

封蝋を確認させるためにか、封蝋は崩さずに上部を切ってあったのだ。

それから小さく書かれた差出人の名前もしっかりと確認した。


めまいがする。

家令が緊張した面持ちのはずだ。


「返事を受け取るために使いの者は待っているのかしら?」

「いえ。手紙を届けて帰っていかれました」

「そう」


差出人の名前から嫌な予感しかしない。

これは一人で抱えてはならないものだ。


「今、家族は誰かいるかしら?」

「奥様は本日は御在宅でございます。それから先程エドワール様がお帰りになられました」


それなら二人ともに話したほうがいい。


「それならお二人に話があると、伝えてもらえるかしら?」

「承知しました」


一礼し、家令が出ていく。

アンリエッタはゆっくりと便箋を取り出した。

正直に言ってしまえば見たくはない。

だが勿論そんなことは言っていられない。


意を決して便箋を開いた。

書いてある文章は短い。


その文章に目を通し、アンリエッタは溜め息をついた。

(こら)えられなかった。

本当に何を考えているのだろう。


「お嬢様?」


マリーが心配そうにこちらを窺っている。

アンリエッタは安心させるように微笑みかける。


「大丈夫よ」


マリーはまだ心配そうだったが、それ以上は何も訊いてはこなかった。

堪えたのだろう。

使用人としての()(わきま)えたのだ。

これ以上は使用人として踏み込んではならないものだ。


アンリエッタとしてもいくら信頼していたとしてもおいそれとは話せない。

知らないことで守れることもある。

さすがにこれくらいで身の危険を感じるものではないが、知る者は少ない方がいい。


マリーは微笑んで告げる。


「温かいお茶をお淹れしますね」

「お願い」


マリーは一礼して部屋を出ていく。

扉が閉まってからもう一度手紙に視線を落とした。


何度見ても溜め息をついてしまう。

すぐに返事を、と言われなかったのは幸いだ。


すぐに返事をしなければならなかった場合は了承という返事しかできなかっただろう。

そういう時は、よほどのことがない限りは了承の返事をすることが暗黙の約束だった。


そのような相手だ。

最終的には了承の返事をすることになるだろうとは思う。

ただそれにどれだけの条件をつけられるかだ。


アンリエッタ一人だけだと足らない部分が出てくるだろう。

それも含め家族に相談したかった。

きっと知恵を貸してくれるだろう。


それと母には念の為手紙の書き方の確認もしてもらいたい。

そんなところで揚げ足など取られたくない。


手紙を折り畳んで封筒にしまう。

返事は家族と相談してからだ。




*




マリーの淹れてくれたお茶を飲んでいると母が部屋を訪れた。


「お母様、呼び出すようなことをしてしまい申し訳ありません」


向かいに座った母にまずは謝罪する。


「いいのよ。貴女はまだ安静にしていなければならないもの」

「ありがとうございます」


マリーがそっと母にお茶を淹れる。

「ありがとう」とマリーに微笑んで言った後で母の視線がアンリエッタに向けられる。


「お兄様もいらっしゃるので」

「アン、顔色が悪いわ。大丈夫かしら?」

「はい。大丈夫ですわ」

「少し横になったほうがいいのではなくて?」

「本当に大丈夫ですわ。届いた手紙の件で、少々頭が痛いのですわ」


じっとアンリエッタの顔を見た母は少しして溜め息をついて折れてくれた。


「……わかったわ。でも無理はしないこと。今のアンはいつもと違うことを忘れては駄目よ。体調が悪ければすぐに言いなさい」

「わかりました」


本当に体調に問題はない。

ただ頭の怪我ということもあり、過保護になっているのだろう。

急に体調を崩すこともあるのが頭の怪我の厄介なところだ。

気をつけなければならない。


アンリエッタも少しでも違和感があればきちんと言うように、ということと、一人にはならないように、と言われていた。

先程は一時的にマリーに席を外させて一人になったが、マリーはお茶の用意を他の侍女に頼んですぐに戻ってきた。

アンリエッタを一人にしておけないからだろう。


今はマリーや母の専属侍女だけではなく他にも使用人が壁際に控えている。

母の表情が少し緩む。


そこへ小さく扉が叩かれた。

壁際に控えていた侍女が確認しに行く。


「エドワール様がいらっしゃいました」


アンリエッタが頷くと侍女が扉を開けた。

兄が入ってくる。


立ち上がろうとしたアンリエッタを兄が手で制す。

アンリエッタは素直に従って腰を下ろした。


「アン、どうした? 母上も一緒でしたか。お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

「わたくしが先に来ただけのことよ」


母が軽く言えば兄は小さく頭を下げる。


「お兄様、お座りください」

「ああ」


歩み寄ってきた兄がアンリエッタの隣に座る。


「お兄様、お呼び立てしてしまい申し訳ありません」

「いや、構わない。それより、」


アンリエッタの顔を見た兄が表情を曇らせた。


「アン、顔色が悪い。少し横になったほうがいいんじゃないか?」

「いいえ、大丈夫ですわ」

「だが……」


兄の表情は心配に曇ったままだ。

だが実力行使はしない。

あくまでもアンリエッタの意志を尊重してくれる。


ここにルイがいれば話も聞かずにアンリエッタを寝台に追い立てただろう。

ここにルイがいなくてよかった。

ルイが聞いたら怒り、嘆きそうなことを考えながらアンリエッタは言葉を重ねる。


「話が終わりましたら少し休みますわ。重要なことなのです」


じっとアンリエッタを見た兄が嘆息して言う。


「わかった。だが無理はしないようにな」

「はい。ありがとうございます」


兄の前にそっと紅茶が置かれた。


「それで話というのは何かしら?」


アンリエッタは傍らに置いておいた手紙を手に取った。


「こちらが届いたのです」

「誰からかしら?」


アンリエッタは無言で隣に座る兄に手紙を渡した。

手紙を受け取った兄は無言で封筒を裏に返した。


ぴくりと唇の端が震えた。

やはりそういう反応になるだろう。


兄が壁際にいる使用人に視線を向ける。

その中には手紙をアンリエッタに届けた家令もいる。

兄の視線がアンリエッタに戻る。


「アン、この手紙をアンに渡したのはジュストだな?」


ジュストは家令の名だ。


「はい」

「ということは誰からのものか知っているな?」

「はい」

「わかった」


再び兄は使用人のほうに視線を向けた。


「ジュスト以外は部屋を出てくれ」

「「「承知しました」」」


一礼して使用人たちが部屋を出ていく。

マリーも心配そうな顔をしながらも部屋を出ていった。


応じることになれば誰からのものかは話す必要は出てくるが、それは話し合いが終わってからのことになる。

現時点ではどのような話運びになるかわからないので知る者は最小限にしておきたい。

余計な秘密は抱える必要はない。


足音が遠ざかるのを待って兄がジュストを呼び寄せる。


「ジュストは近くに来てくれ」

「はい」


ジュストが近寄ってきて兄の斜め後ろに立ち、控える。


「それで誰からなのかしら?」

「第一王子殿下です」


母がゆっくりと微笑む。

……怖い。

やはりジュスト以外全員部屋の外に出して正解だったようだ。


「そう。一体どのようなご用事なのかしらね?」

「読んでいただければわかります」

「そう」


アンリエッタの顔色が悪かった理由だと悟ったのだと思う。


「……母上、先に読んでも構いませんか?」

「ええ。いいわ」


許可を受けて兄が便箋を取り出す。

無言で読み進めていくうちにその眉間に皺が寄ってくる。

読み終えると頭痛を堪えるように頭に手をやった。


「エド?」

「アンの反応もわかります。本当に何を考えておられるのか」


兄も溜め息を堪えきれないようだ。


「見せてちょうだい」


兄が母に手紙を渡す。

母が手紙を開き、視線を落とした。


無言で手紙を読み進める母の指に少しずつ力が込められていき、紙が不穏な音を立てる。

誰もが息を詰めて母が手紙を読み終わるのを待つ。

やがて静かに母が手紙を畳んだ。


母の視線がアンリエッタと兄に向けられる。

無表情だ。

ここで微笑んでいたら余計に怖く感じただろう。


「まったくどこまでラシーヌ家(我が家)とアンリエッタをコケになさるおつもりなのかしら?」

「まったくです」



厳しい顔で兄も頷く。

アンリエッタも同感だった。


第一王子は自分のしていることがわかっているのだろうか?

いやわかっていないからこそこのような手紙を送ってきたのだ。


「お父様のところにお手紙は来たのでしょうか?」

「ないわ。表向きは直接的に第一王子殿下は関わっていないから。実際自分の主にとって目障りだからという理由でのことだもの。あの方に直接の責任はないわ」


確かにそれでラシーヌ家やアンリエッタに謝罪するというのはおかしい。

まあ"誤解を与える言動をして危ない目に遭わせたから"という理由で謝罪の手紙を個人的に当主に送るというのであれば、それくらいなら常識の範囲だ。

それをすっ飛ばして被害者に直接手紙を送るというのは褒められた行為ではない。


一応冒頭で謝罪と怪我の具合を尋ねてはいるが、それはあくまでも挨拶程度のことであり用件は別にあるとなるとこれはもう非礼に当たる。


母がジュストに視線を向ける。


「ジュストは内容を知っているかしら?」

「いえ知りません」

「そう」


母が視線でいいか訊いてきたので頷く。


「では読んでみなさい」

「失礼します」


ジュストが母から手紙を受け取り、中身を読む。


「失礼ながらマナーのほうはどうなっておられるのでしょう?」


いつも冷静なジュストの眉根が寄っている。


「まったくよね。でも、これは受けないとならないわよね」

「残念ながら」

「アン、大丈夫よ。一人でなんて行かせないから」

「はい」

「いくらなんでも一人で来いとは殿下もおっしゃらないでしょう」


一応兄が形だけでも庇う。


「ええ、そうね。さすがにそこまで非常識ではないわね」


恐らくそう包んで包んで伝えることになるだろう。


「ジュスト、わかっていると思うけれどこのことは他言無用よ」

「心得てございます」


母が安心させるつもりか微笑む。

だが残念ながら敵を前に不敵に笑っているようにしか見えなかった。

それでもそれにアンリエッタは安堵した。

味方であるならばこれほど心強いことはない。


「あの人が帰ってきたら皆で話し合いましょう。返事は明日でいいわ」

「はい」

「ああ、アンは少し横になりなさい」

「そうします」

「マリーを呼んで参ります」


ジュストが部屋を出ていく。


「この手紙は預かるわ」

「はい」


母が手紙を持って立ち上がる。

兄も続いた。

見送るために立ち上がろうとして制される。


「アン、ゆっくり休むんだぞ」

「はい」


母と兄が部屋を出ていった。


「お嬢様」


入れ替わるようにしてマリーが入ってくる。

近くで待機していたのだろう。


「マリー、少し休むわ」

「承知しました」


マリーが足早に寝室に入っていった。

アンリエッタはゆっくりと立ち上がると寝室に向かった。


読んでいただき、ありがとうございました。


誤字報告をありがとうございました。訂正してあります。

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