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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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60.人を助けて気を失いました。

短めです。

前半アンリエッタ視点、後半シュエット視点になります。

それに気づいたのは、本当にたまたまだった。

何気なく校舎を見上げて視界に入ったのだ。


二階の窓際に人影があった。

何やら不穏な気配だ。

よく目を()らしてみる。

二人で壺か何かを抱えている。


さすがにあれを落とすつもりということはないだろう。

その結果がどうなるかは簡単に想像がつくはずだ。

そこまでのことをしてしまえば到底許されることではない。

退学の末、修道院送りになるのは確実だ。


だからさすがにそこまではしないだろう。

それならば、あの中に入っているのは恐らく水だろう。

粉類とも考えられなくもないが、周囲への被害も大きくなる。

現実的ではない。

やはり水だろう。


彼女たちの視線の先には一人の令嬢がいた。

彼女は二人に気づいていない。

もう少しで下を通りそうだ。


彼女に水でもかけるつもりなのだろうか?


二人がかりで持ち上げているからにはそれなりに水が入っているこだろう。

かなり悪意が強い。


水だってそれなりの量を上から被せればその衝撃はそれなりのものになる。

転倒などすれば怪我をするかもしれない。

それがわかっているのだろうか?

万が一にでも手を滑らせて壺を落としたら怪我どころではない。


咄嗟に身体が動いていた。


「え、アン!? どうしたの!?」


ミシュリーヌの驚いたような声が聞こえたが説明している暇はない。

今にも壺を傾けそうだ。

一刻の猶予もなかった。


彼女との距離はそれほどはない。

彼女は向かってくるアンリエッタに怪訝そうな顔をしている。


彼女とアンリエッタは面識がない。

彼女も、ついでに二階の二人も"東"の令嬢だ。

だから彼女が緊張感を漂わせるのも無理はないと思う。

アンリエッタが何かするかもと警戒しても仕方ない。


だが今はそれどころではないのだ。

今にも壷は傾けられそうだ。

急いで回避させないと大変なことになる。

だけど声をかけて立ち止まったら却ってかかってしまいそうだ。


「失礼します」


彼女の腕を引いて数歩ずらした。

その直後、先程彼女がいた場所の()()()、アンリエッタのすぐ脇に水が降ってきた。


それなりの水の量があったらしく、地面に跳ねた水がアンリエッタのドレスを濡らす。

彼女のほうにはかからなかったみたいでほっとした。


その時ーー


「あ!」


頭上で焦ったような声がした。

それから側頭部に衝撃があった。

視界が暗転する。

そのまま意識は闇に沈んだ。




*




「アン!」


ミシュリーヌが倒れたアンリエッタに駆け寄る。

周囲にいた者たちも動揺している。

まさかこんな傷害事件が起こるなど予想もしていなかったのだろう。


何人かが教師を呼びに行ったのか走っていき、何人かがアンリエッタに駆け寄っていった。

実に頼もしいことだ。

彼らの名前を頭の片隅に記憶する。


上に視線をやれば、壷を落とした令嬢二人が青ざめて震えている。

壷まで落とすつもりはなかったのだろう。


だがこうなることも予想はできたはずだ。

想像力が足りないのか、自分たちを過信したのか。


どちらにせよ、結果だけが彼女たちの今後を決定づけた。

これはさすがに許容範囲を超えている。

厳しい罰を受けることになるだろう。


まずは彼女たちを確保しなければならない。

視線を隣に向けた。

一緒にいたクロディーヌがシュエットを見て頷いた。

任せておけ、ということだろう。

シュエットが頷き返すとすっとその場を離脱していった。


シュエットはシュエットでやるべきことをやるだけだ。

倒れたアンリエッタのほうに足を向ける。


そろりとアンリエッタが庇った令嬢がその場を離れようとした。

シュエットが令嬢の腕を掴む。


「逃げるつもりかな? 逃がすつもりはないけどね」

「わ、わたくしは別に……」

「仲間だよね?」


彼女がアンリエッタをあの場に留める役目を果たしていた。

アンリエッタは気づかなかったようだが、少し離れた位置から見ていたシュエットにはわかった。


「い、いえ、違いますわ」


掴んだ腕から震えが伝わってくる。

明らかに動揺している。

手を緩めるつもりはない。


「無関係なら何故逃げようとしたのかな?」

「そ、それは……」


視線が泳ぐ。

人を呼びに行くつもりだったとでも言えばまだ筋は通るのにそれすら思いつかないようだ。

そんな言い訳をされたところで逃しはしなかったが。


動揺しているからこそではあるとは思う。

たぶん、アンリエッタがこんなことになって驚き、おののいているのだろう。


だがやったことの責任は取るべきだ。

こんな結果になるだなんて思わなかったなどという言い分は通らない。


最悪の想定をして動くのは常識だ。

そうでなければ領民を守ることなど無理だ。

貴族としての自覚が足りない。


"東"だからか?

一番危機感の薄い地域は"東"だ。

接する隣国とは川で隔てられていて交流がない。

対外的な緊張感が他の地域に比べてないのだ。

だからこそ危機感の薄さがこのような結果をもたらされたのだろうか?


今はその推察は置いておくべきだ。


「答えられないのかな?」


彼女は口を開きかけて、ぎゅっと引き結んだ。

答えるつもりはないらしい。

別の方向から問いかけてみる。


「友人を見捨てて自分だけ助かるつもりなのかな?」


彼女は視線を逸らしてうつむいた。

さすがに自分だけ助かるのは後ろめたいようだ。

どのみち上の二人が白状したら同じことだが。


「観念したらどうかな?」


それでもなお口を引き結んで認めることはしない。

心の中で溜め息をつく。

逃げられはしないのに。


いつまでもここで押し問答をしていても仕方ない。

周りの注目も集めてしまっている。

これ以上は彼女にも酷だろう。


「まあどのみち別室で話を聞くことになる。君が仲間でないのならあれは君を狙ったことになるからね。事情を聞かないと、ね」


アンリエッタを狙ったにしろ、目の前の令嬢を狙ったにしろ、やったことは悪質なのだ。

加害者にしろ被害者にしろ話を聞く必要がある。


「一緒に来てもらうよ」

「はい……」


それについては観念したようだ。

だからと言って腕は離さない。

隙をついて逃亡する可能性は排除できないのだ。

逃げたところで誰かはわかっているのだから無駄ではあるが。


教師が一人、二人に近寄ってきた。


「一緒に来てください」

「わかりました」


彼女も無言で頷いた。そのままうつむく。

ちらりと上を見ればクロディーヌが二人を連れていくところだった。


クロディーヌと目が合う。

クロディーヌが頷いたので頷き返しておく。

あちらも無事に確保したようだ。


それだけ確認し、彼女を促し教師の後に続いた。


読んでいただき、ありがとうございました。


誤字報告をありがとうございます。修正してあります。

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