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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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57.授業を受けさせてもらえませんでした。

今回は短めです。

アンリエッタたちは次の授業に間に合わなかった。

第一王子が声をかけてきたのはこれが目的だったのかとさえ思う。

廊下を歩いている時に教師が教室に入っていくのが見えた。


ルイとは途中で別れて授業に行かせた。

不満そうだったが、無理矢理にでも()き立てた。

それで正解だったようだ。


ミシュリーヌにも先に行っていいと言ったのだが、どうせ授業は同じだからとアンリエッタに付き合ってくれた。

結局ミシュリーヌも一緒に遅刻となってしまった。


「ごめんなさい、ミシュリー。貴女まで遅刻になってしまったわね」

「気にしないでいいわ」


それでもできるだけ急いで残りを歩く。

教室の前まで辿り着き、扉を叩いた。

中から許可が出てミシュリーヌが扉を開けた。

アンリエッタを先に入れてくれ、ミシュリーヌが後から教室に入った。


「遅れまして申し訳ありません」

「申し訳ありません」


二人で頭を下げる。

足音が近づいてきた。


「二人とも顔をお上げなさい」


言われて素直に顔を上げる。

目の前にいたのはこの授業ーー礼儀作法の担当教師であるアガト・リッド女史だ。


「サルマン侯爵令嬢は席に着いて」

「あ、はい」


自分だけとはどういうことだろう、とミシュリーヌは戸惑った様子だ。

アンリエッタもわからず困惑する。

リッド女史はアンリエッタを冷ややかな目で見た。


「ラシーヌ伯爵令嬢は授業を受けなくていいわ。出ていきなさい」

「……理由をお聞かせ願いますか?」

「貴女に私の授業を受ける意志がないようだから」

「おっしゃっている意味がわかりません」


リッド女史が溜め息をついた。


「貴女は休みが多いわ。そして今日は遅刻ね。授業を受ける気があるようにはとても思えないわ」


休んだと言っても二回だけで、一度目はエスト公爵令嬢に扇で叩かれそうになった時で、二度目はベルジュ伯爵令嬢に梯子を倒された時だ。

どちらの時も不可抗力できちんと説明はされているはずだ。

それを考慮するつもりはない、と言っているのだ。


教室内から嘲るような笑いが起きる。

ちらりと見回せば(わら)っているのは"東"の者ばかりだ。

他の地域の者はどちらかというと教師のほうに不審な視線や冷ややかな視線を向けている。


アンリエッタは心の中で溜め息をついてミシュリーヌに向き直る。


「ミシュリーは授業を受けて。わたくしは帰るわ」


もうこれで授業はないので早急に帰って話し合わなければならない。


「アン……」

「大丈夫よ。ありがとう」


そっと荷物を受け取る。

ミシュリーヌが持ってくれていたのだ。


「気をつけて。帰りに寄るわ」

「わかったわ」


真っ直ぐにリッド女史を見て略式の礼をする。

アンリエッタには何の落ち度もない。


「失礼します」


堂々と教室を出た。




*




「あら、アン、帰ってくるのは早いのではなくて?」


玄関を入ってすぐに母に出迎えられた。

学院の馬車で帰ってきたので様子を見に来たのだろう。


「ええ。お母様、少し相談したいことが」

「わかったわ。すぐのほうがいいかしら?」

「できれば。すぐに対応していただきたいので」


母の顔つきが変わる。


「わかったわ。このままそうね、居間のほうに行きましょうか」

「はい」

「ゆっくりでいいわ」

「ありがとうございます」


アンリエッタは母と共に居間へと向かう。

途中で母が侍女にお茶の支度を命じた。

居間で用意されたお茶を一口飲んだところで母が口を開いた。


「それで、何があったの?」


アンリエッタは静かにティーカップを置いた。

真っ直ぐに母を見て告げる。


「礼儀作法の授業を受けさせてもらえなかったのです」

「何ですって?」


母の顔つきが変わった。


「どういうことなの? 詳しく話して」


「はい」と頷き、アンリエッタも真剣な顔になる。


「休みが多いことと、今日の遅刻で授業を受ける気がないと判断したようですわ」

「まあ遅刻したの?」

「……第一王子殿下にお声がけいただきまして。ミシュリーにも遅刻させてしまいました」

「そう」


気のせいか部屋の温度が下がった気がする。

お茶に手が伸びる。

一口飲めば、身体の中に熱を取り込めた気がしてほっとした。


「後でわたくしのほうからもミシュリーには謝るわ」


アンリエッタはただ頭を下げる。


「ほら、アン、顔を上げて。貴女の責任ではないわ。これは母親としてミシュリーに誠意を見せたいだけなのよ」


アンリエッタは顔を上げる。


「問題は教師のほうね。お名前は?」

「アガト・リッド女史ですわ」


母が口の中で名前を繰り返す。

母がアンリエッタに真剣な眼差しを向けた。


「一つ確認しておくけれど、欠席も正当な理由があるものだけよね?」

「勿論ですわ。欠席したのは二回、エスト公爵令嬢に叩かれそうになった時と、先日ベルジュ伯爵令嬢に梯子を倒された時だけです」

「全部アンの責任じゃないじゃない」


アンリエッタも頷いた。


「ですが、何の反論も許されず一方的に追い出されました。今日の遅刻の理由ですら訊かれませんでしたわ」


母の眉根が寄った。


「それは怠慢ね」

「はい」


教師なら遅刻の理由を訊くのが普通だ。

理由が正当なものならそのまま授業を受けさせ、学生側に非がある場合は課題を出して提出させるのが通常だ。

他の授業で遅刻した者にはそのような措置が取られていた。


だがアンリエッタは理由も訊かれずに一方的に授業への出席を拒否された。

それはただの怠慢でしかない。


「我が家から正式に抗議します」

「お願いします」

「あの人にも話を通していたら遅くなるからわたくしの責任で抗議するわ。あの人には事後承諾になるけれど文句は出ないでしょう」


アンリエッタは頷いた。

父は仕事のために今屋敷にいない。

だがこの抗議はなるべく迅速にすべきものだ。

父の帰宅を待っているわけにはいかない。


「もう少し具体的に話してちょうだい」

「はい」


アンリエッタは教室でのやりとりを思い出しながらできるだけ正確に伝える。


「それだけわかれば十分だわ」


母は立ち上がった。


「すぐに抗議の手紙を送るわ」

「お願いします」


母は足早に部屋を出ていった。

アンリエッタはティーカップに手を伸ばす。


「新しいものをお淹れしましょうか?」

「いえ、これでいいわ。これを飲んだら着替えるから」

「承知しました」


すすっと侍女が壁際へと下がっていく。

アンリエッタはゆっくりとお茶を飲み干した。

気分もだいぶ落ち着いた。


ティーカップを置いて立ち上がる。

杖をつきつつゆっくりと歩いて居間を後にした。

読んでいただき、ありがとうございました。

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