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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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52.家族は怒ってくれました。

短いめです。

話を聞いた家族の身体がぶるぶると震える。

その中にはミシュリーヌとロジェも含まれる。

二人は授業が終わった後に駆けつけてくれたのだ。


「恩を仇で返すばかりか後ろ足で砂までかけるとは」

「何て恥知らずなのかしら?」

「父上ベルジュ伯爵家への抗議は?」

「勿論するに決まっている」


父の顔に笑みはない。


「たっぷりと慰謝料もふんだくってやる」


父の言葉が乱れている。それだけ怒ってくれているのだ。

当然というように皆が頷く。


「今までの迷惑料もよ、あなた」

「そうだな。しれっと追加しておこう。高いと言われようががめついと言われようが知ったことか」

「いくらぶんどろうとそんなふうに言う権利は向こうにはないよ」

「そうだな」


アンリエッタにも当然(いな)やはないが、家族が無茶をしそうでそちらのほうが怖い。


「安心しなさい、アン」

「ええ、お父様に任せておけば大丈夫よ」

「ええ。信頼していますわ」


微笑(わら)って言えば父は嬉しそうに微笑(わら)う。

そちらは父に任せておけば問題ないだろう。


これは家と家の問題だ。

当主である父が当たる案件だ。


「父上、私にも手伝わせていただけませんか?」


兄が申し出る。


「構わない。いい勉強になるだろう」


次期伯爵である兄にとっては今回の件はいい教材になるだろう。

一つでも利があるならよかった。


ルイがきゅっと(こら)えたのがわかった。

兄が次期当主としてこの案件に関わるならば、ルイは手伝いを申し出ることはできない。

将来兄の補佐についたり他の家に婿入りが決まっているならまた話は違うが、ルイは外交官になると決めている。


「慰謝料はアンの持参金にしましょう」

「そうだな。痛い思いをしたのはアンだしそれがいいだろう」


その考えはアンリエッタにはなかった。

家に迷惑もかけているので家に入れるのが当然だと思っていた。


「よろしいのですか?」


家族がきっぱりと頷く。


「アンが嫁ぐのは他国だからな。すぐに手助けできない場所に嫁ぐのだから、せめて持参金くらいは多めに持たせてやりたい」


それが家族の総意だというように皆頷く。

その気持ちが本当に、嬉しい。


「ありがとう、ございます」


不覚にも泣きそうになり、頭を下げて誤魔化す。


「そのためにはたっぷりとぶんどってやらないとな」

「そうですね」


父と兄のやる気に燃料を投下したようだ。


「妥協したりしないでよね」

「無論だ」

「だからアンは大船に乗った気でいなさい」

「はい」


そこに家族の話し合いだからと黙っていたロジェが口を開く。


「でも、さすがにまさかベルジュ伯爵令嬢がアンを攻撃してくるとは思っていなかったな」

「甘いよ、ロジェ。そんなんじゃ護衛にもならない」

「すまん」

「もうしっかりしてよ」

「ルイ」


(たしな)めるためにルイの名を呼ぶ。

ロジェが護衛のような真似をしてくれているのはあくまでも厚意でだ。多大な要求は駄目だ。


「甘いよ、姉上」


ルイがアンリエッタに駄目出しをする。


「ロジェは護衛を自認しているんだよ? これくらいの苦言は当然だよ」

「そうだ、アン。今回は俺が悪い」


更にロジェ自身にも言われてしまえばアンリエッタは退くしかない。


「ごめんなさい」

「いや、いい」

「それでアンの怪我は大丈夫なの?」


心配そうにミシュリーヌが訊く。


「しばらく杖生活ね」


帰ってきてから家の医者に見せたら杖を用意してくれたのだ。

思っていたよりひどい(ひね)り方をしていたらしかった。


ミシュリーヌの表情が曇る。

兄の怒りが一段階深まったのを感じる。 


……かなり苛烈にむしり取られるのではないだろうか?

同情する気はないが。


「それは不自由ね。わたくしにできることは言ってちょうだい」

「ありがとう。頼ることになるわ」

「任せておいて」

「姉上、勿論僕も」

「ええ、頼りにしているわ、ルイ」

「うん、任せて」

「アン、勿論俺にもな」

「ありがとう、ロジェ」

「当然のことだ」


さすがにこの足では迷惑をかけると遠慮もできない。

何か仕掛けられても避けられないだろう。

だから、当然のように頼っていいと言ってくれるのが有り難い。


「それにしても、」


ルイが顔をしかめる。


「本当に(たち)が悪いよね。姉上に近づいて信用させてから事に及ぶんだから」


ルイの言葉にミシュリーヌが同調する。


「本当よね。何度追い払ってもしつこくまとわりついていたのはこのためだったのよね」


そうだった、のかもしれない。

そもそもアンリエッタはベルジュ伯爵令嬢のことは何も知らない。

第一王子の恋人で、意外と押しが強くて図太いことしか知らない。


ルイとミシュリーヌがそっと視線を()わす。


「アンもこれでわかったでしょう? 彼女が信用ならない相手だって」

「そうね」


今回のことはアンリエッタの脇の甘さにも原因がある。

もっと警戒していればこんなことにはならなかった。


警戒していたはずなのにいつの間にか(ほだ)されていた。

彼女には害意はないのだと知らず知らず思い込んでいた。


彼女は"東"だ。

そんなはずはないのに。


「もういいんじゃないかしら?」


ミシュリーヌが静かな声で告げる。


「またいつ怪我をさせられるかわからないもの。わたくしはこれ以上アンが傷つくのは嫌よ」

「そうだな。ここまでされてまで協力する必要はない」


きっぱりと父が言い、皆が同意のためにはっきりと頷く。

アンリエッタも同意見だった。


第一王子に咎められてもこの件を持ち出せば向こうも強気には出られないだろう。

さすがに背中に庇っている者から刺されるとは思っていなかった。

これ以上はいくら第一王子の命令でも無理だ。


何ならきっぱりと振る演技をしたっていい。

そろそろそういう態度を取ったとしても不自然ではない。


「もうそろそろきっぱり振ってあげたら諦めもつくんじゃない?」


ルイも同意見だったようだ。

背中を押されたような気持ちで頷く。


「今が好機だろう。怪我をさせられたことを理由にすれば多少言葉が過ぎたところで周りからは同情で見逃される可能性が高い」

「ええ、そうします」


もうこれ以上付き合ってはいられない。

なけなしの信用も木っ端微塵に吹き飛んだ。

あとは自分たちでどうにかしてもらいたい。


読んでいただき、ありがとうございました。

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