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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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46.隣国の第二王子殿下の婚約者とお会いします。

「マリー、変じゃないかしら?」


この問いはこれで何度目のことかしら?


「大丈夫ですわ、お嬢様。とても素敵ですわ」

「本当?」


鏡に写った自分の姿を右左後ろと確認しながらマリーに確認する。


「ええ、本当ですわ。私を信じてくださいませ」

「そうね。マリーを信じるわ」


今日はこの国の第二王子殿下の婚約者であるヴァイツェン侯爵令嬢のお茶会に招待されているのだ。

ちなみに王太子殿下の婚約者は公爵家のご令嬢だ。


エドゥアルト経由で誘われた。

エドゥアルトは断ってもいいと何てことない様子で言っていたが、断るという選択肢を取れるはずがなかった。


今日の衣装もエドゥアルトが用意してくれていた。


「何があるかわからないからね。作っておいてよかったよ」


と笑っていた。


アンリエッタもさすがに王族の婚約者とのお茶会は想定していなかった。

エドゥアルトは第二王子殿下と親しいとは聞いていたからいずれはそういうこともあり得るとは思っていたがまだ先のことだと思っていた。

これはアンリエッタの先見が足りなかった結果だ。反省しなくては。

きちんと用意してくれていたエドゥアルトには感謝しかない。


今日のドレスはアンリエッタの瞳の色である(みどり)色のドレスだ。

スカートの部分に金糸と青色の糸で大きく繊細に刺繍が施されている。

アクセサリーは全てブルートパーズで揃えてあった。


身支度を手伝ってくれたシュタイン家の侍女たちも誇らしげに頷いている。

今日もシュタイン家にお邪魔して身支度を調えてもらったのだ。


「マリーも皆もありがとう」


笑顔でお礼を言えば、マリーと侍女たちが一斉に頭を下げた。


そこへ小さく扉が叩かれた。

シュタイン家の侍女が小さく扉を開けて確認する。


「エドゥアルト様がいらっしゃいました」

「入れてあげて」

「はい」


侍女が開けた扉からエドゥアルトが入ってくる。


「リエッタ、準備できた?」

「ええ。どうかしら?」


エドゥアルトが近寄ってきた。

アンリエッタの全身を見て満足そうに微笑(わら)う。


「うん、今日も素敵だ。僕の婚約者は世界一綺麗だ」

「ありがとう」


大袈裟だと思うがいつものことだ。

とりあえず前回のように挙動不審にならなくてよかった。

エドゥアルトが悪戯っぽく微笑(わら)う。


「今回はお茶会だからね、控えめな装いにしてもらったんだ」

「そうなのね」


確かにあまり華美なものは相応しくないだろう。

そう納得したのだが、隣でぼそりとエドゥアルトが呟く。


「殿下が惚れたりしたら困るからね」


冗談だと思いたいが、エドゥアルトの目は笑っていない。


「ご婚約者がいらっしゃるでしょう。仲睦まじいとも聞いているわ。そんな心配はいらないわ」

「そうだとしても、絶対はないからね」

「あらだったらルトも他の女性にふらっていくのかしら?」

「いかないよ!」


強い口調でエドゥアルトが言う。


「でしょう? だから心配はいらないわ」

「……そうだね」


渋々といった様子でエドゥアルトは引き下がる。

ここでごねれば自分に返ってくると気づいたのだろう。


「それよりそろそろ時間かしら?」

「そうだね。だから呼びに来たんだ」

「あらだったら急いだほうがいいんじゃないかしら?」

「大丈夫。僕がリエッタを堪能する時間込みで呼びに来たから」

「そ、そう」


何と返すか困る。

くすりと笑ったエドゥアルトが「行こうか」と腕を差し出してきた。

その差し出された腕に手をかける。


「「「行ってらっしゃいませ」」」


身支度を手伝ってくれた侍女たちが一斉に頭を下げる。


「手伝ってくれてありがとう」


一言声をかけ、アンリエッタはエドゥアルトにエスコートされて部屋を出た。




*




お茶会の場所はヴァイツェン侯爵家の王都邸だとエドゥアルトは言った。

密かに王宮ではなくてほっとした。

普通なら王宮ということはないだろうが、第二王子も参加なさると聞いてもしかしたらあり得るかもと警戒していたのだ。


エドゥアルトの手を借りて馬車を降りた。


亜麻色の髪を柔らかく結い上げた琥珀色の瞳の女性がいた。

ドレスの色は青みがかった緑色で銀糸と紫色の糸で繊細な刺繍が施されている。

宝飾品は全てイエロートパーズとアメシストを組み合わせたもの。

イエロートパーズは彼女の瞳の色である琥珀色に合わせてだろうから、アメシストは第二王子の瞳の色に合わせたものかもしれない。


彼女は微笑んでスカートを摘まむとゆったりと礼をした。


「ようこそおいでくださいました」

「お招きありがとうございます」


アンリエッタとエドゥアルトも礼を返す。


「申し遅れました。ヴァイツェン侯爵が娘、アデリナと申します」

「僕は何度か挨拶させてもらっているから。こちらは僕の婚約者のアンリエッタ・ラシーヌ嬢だ」

「ラシーヌ伯爵が娘、アンリエッタです。お会いできて光栄ですわ」

「急なお誘いでごめんなさいね。来てくれて嬉しいですわ」

「こちらこそお招きいただけて嬉しいですわ」

「そう言っていただけて有り難いですわ」

「アデリナ嬢が気にすることはありませんよ。全てはファルケ様の我が儘ですから」


そのエドゥアルトの物言いにまずいのではないかとアンリエッタは慌てる。

だがヴァイツェン侯爵令嬢は咎めるどころかはっきりと頷いた。


「あの方の我が儘にわたくしはもう慣れましたけど、ラシーヌ伯爵令嬢には迷惑極まりないことですわよね」


どうやら第二王子との仲は良好なようだ。


「本当にそうですよね」


アンリエッタにはとても肯定できるようなことではなかったが、エドゥアルトがあっさりと肯定してみせる。

それだけエドゥアルトはお二人と仲がいいのだろう。


「ふふごめんなさい。ラシーヌ伯爵令嬢を困らせましたね。さて、ファルケ様もお待ちですしそろそろご案内致しますね」


第二王子はすでに到着しているようだ。

って待たせたらまずいのでは?

アンリエッタは思わずエドゥアルトを見る。


「大丈夫ですわ。あの方は朝早くからいらしてますの。わたくしの支度に細かに口出ししていましたのよ」

「大丈夫だよ。あの方は待たされた、と怒るような方ではないから」

「ええ。それに時間通りですので」


少しだけほっとした。


「それにそんな理不尽なことで怒るようではこの国の先行きが不安になるよ」

「その通りですわ」


にこやかに話しているが内容は王族批判だ。

アンリエッタははらはらしてしまう。

屋敷内には本人もいるのだ。

いつ本人の耳に届くかわからない。


「ごめんごめん。大丈夫だから。アデリナ嬢」

「はい。ごめんなさいね。今度こそご案内致しますね」


ヴァイツェン侯爵令嬢が歩き出し、その後ろをエドゥアルトにエスコートされてついていく。






案内されたのは奥の庭だった。

大きな木が適度に日陰を作る場所に繊細な白のレースのクロスをかけられた丸テーブルが置かれている。


そこに青年が一人、優雅に座っていた。


日の光を透かしてきらきらと輝く金髪と宝石そのものであるような紫色の瞳を持つ彼が第二王子のファルケ殿下なのだろう。


「来たね」

「お待たせ致したようで申し訳ありません」


エドゥアルトが頭を下げる横でアンリエッタも頭を下げる。


「ああ、いい。早めに来ていただけだ」


エドゥアルトとアンリエッタは顔を上げた。

ファルケがアンリエッタを見る。


「エーヴィヒ国王が第二子ファルケだ」


紹介されるでもなく名乗られた。

視線で名乗るよう求められたのでアンリエッタも名乗る。


「ラシーヌ伯爵が娘、アンリエッタと申します。お会いできて光栄でございます」


ゆったりとカーテシーをする。


「楽にしていいよ」


ゆっくりと姿勢を戻して顔を上げる。

第二王子はアンリエッタから視線を逸らしていなかった。

観察でもされたのだろう。


「どうぞお座りになって?」

「はい」


侍女が引いてくれた椅子に腰を下ろす。

アンリエッタの正面が第二王子だ。


第二王子の唇の端が引き上げられる。


「ヘンリエッタ嬢、だったかな?」


確かにアンリエッタの綴りはこの国ではヘンリエッタと読む。


試されているのだろうか?

それとも覚悟を測られている?


アンリエッタが口を開く前にヴァイツェン侯爵令嬢が第二王子を咎める。


「意地悪するのはおよしなさいませ。ラシーヌ伯爵令嬢、申し訳ありません。アンリエッタ様とお呼びしても?」

「はい、お好きにお呼びくださいませ」

「じゃあ僕はヘンリエッタ嬢と呼んでも?」

「ファルケ様!」


ヴァイツェン侯爵令嬢が咎める。


「はい。ヘンリエッタでも構いませんわ」

「ほら、本人もいいと言っている」

「そういう問題ではございません。名前というものはとても大切なものなのですよ」


とてもしっかりとされた方だ。


「はいはいわかったよ。ラシーヌ伯爵令嬢、失礼をしたね」

「いえ」


ヴァイツェン侯爵令嬢がアンリエッタを見て微笑む。


「わたくしのことはアデリナと呼んでくださいね」


どう言葉を返せばいいかさっと思考を巡らせた。


「ありがとうございます」


そもそも格上の侯爵令嬢だ。

彼女からの申し出を余程のことでは断れない。

アデリナがきりっとした表情で第二王子に向き直る。


「そもそもファルケ様が会いたいと我が儘をおっしゃったのでしょう」

「いや、僕はアデリナに会わせたいと言っただけだよ」

「だったら同席なさらなくてもよろしかったのではありませんか?」

「アルトが同席するのに? あり得ないことを言うのはやめてよ」


軽く顔をしかめている。

第二王子とアデリナの仲は良好なようだ。


「同席していいとおっしゃったのはファルケ様ですよね。リエッタが緊張するから貴方の同席は遠慮していただきたかったですよ」


溜め息混じりにエドゥアルトが言う。


「僕相手に緊張するはずないでしょう」


第二王子が口許を笑みの形に歪め、鋭い瞳でアンリエッタをひたと見つめる。


「王族とも親しく付き合っているようだし、ね?」


これが目的だったのだろう。

我が国の第一王子がアンリエッタのことを口説いているというのは聞き及んでいるようだ。


側近の婚約者として相応しいかどうか見極めたいのか、相応しくないと断罪したいのか。


その気なら受けて立つ。

これは退けないものだ。


腹に力を込めてアンリエッタはにっこりと微笑んだ。


「そうですね」


肯定するとは思っていなかったのだろう、第二王子の瞳が微かに揺れる。

すかさず言を継ぐ。


「第二王女のミネット様とは親しくさせていただいております」


第二王子は固まった。

瞬き一つせずにじっとアンリエッタを見ている。


さすがに呼吸はしているわよね、と若干の混乱の中思ったその時ーー


第二王子の大きな笑い声が辺りに響いた。


「はははっ!」


いきなりの大笑いにアンリエッタは面食らった。


「ははっ! 面白い! 気に入った!」


アンリエッタは目を瞬かせた。

エドゥアルトとアデリナは額に手を当てて溜め息をついている。

それを全く気にせずにファルケは軽やかな声でアンリエッタに言う。


「アンリエッタ嬢、今後も夫婦でよくよく我が王家に仕えるように」


まだ婚姻はしていないなど言いたいことは多々あるが。


「……承知しました」


余計なことを言わずに深く頭を下げた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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