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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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45.お土産を買いに行きます。

今日はクラリッサとエヴァと街に買い物に出ていた。

ミネット様のお土産について相談したら一緒に買い物に行きましょう、と言ってくれたのだ。


エドゥアルトは自分も一緒に行くと主張したが、

「お義姉様にもたまには女性同士でのお買い物も必要ですわ」

とエヴァがすげなくエドゥアルトの同行を却下した。


そのやりとりを間近で見ていたルイは賢く立ち回ってにこやかに「楽しんできてね」と送り出してくれた。






今は三人で馬車に乗っている。馬車はシュタイン家のものだ。

馬車に乗っている間にどんなものがいいか話し合っているところだ。

エヴァは張り切っている。


「しっかりと我が国の良いところをアピールしなければ。せっかくお義姉様が作ってくださった好機なのですから」


そこまで大袈裟なものではない。


「そこまで構えなくていいわ」

「何をおっしゃっていますの。我が国を売り込む好機なのですよ」


きゅっと拳を握ってエヴァが主張する。


やはり王女という立場は一個人であることは難しいようだ。

友人からのお土産一つでもこうなってしまう。


ミネット様はこの国のことが知りたいのだからアンリエッタだけで選ぶという選択肢は最初からない。

この国のものならやはりこの国に詳しい者に聞くのが間違いない。


「そうよね。ごめんなさい」

「謝る必要はございません。お義姉様は王女殿下としてではなく御友人としての立場からお贈りしたいというお気持ちなのでしょう。そういう優しさに殿下も救われることもあると思いますわ」

「ありがとう」


そんなやりとりを微笑んで聞いていたクラリッサが口を開く。


「それにしてもアンは凄いわね。王女殿下と名前で呼び合う仲なんて」


クラリッサはリーシュ王国に嫁ぐからか、ずっと"アン"とリーシュ王国での愛称でアンリエッタを呼ぶ。

アンリエッタは微苦笑する。


「例の噂の副産物よ。あれでお声掛けくださったの。同母の妹王女殿下だから」


第一王子の件で唯一よかったことだ。


「そうだったのね」

「それでも御友人になられたのはお義姉様のお人柄ですわ」


エヴァはどこか誇らしげだ。

たまたま気が合っただけだと思うがそれは言わなくていいだろう。


「それで王女殿下はどのような方なのですか?」


どのような人物かわからなければ選びようがないだろう。

個人的な土産で国際問題にはならないだろうが情報収集は大事だ。

変なものを贈ればアンリエッタが失望されるだけだ。


「そうね、」


アンリエッタはその姿を思い出しながら告げる。


「好奇心旺盛な方だわ」

「あら」


意外そうにクラリッサが声を上げる。


好奇心旺盛というのは一番初めに上げる言葉ではなかったかもしれない。

だがアンリエッタの印象では一番それが強い。

それで、それで、と好奇心に輝いていた()がとても綺麗だった。


クラリッサとは逆にエヴァは納得したように頷いている。


「好奇心が旺盛な方だからこそ我が国のことを知りたいとおっしょってくださったのですね」

「そうね。外国にも御興味があって、この国のことを色々と知りたがっておられたわ」


だからこそ、幼い頃からこの国をよく訪問していたアンリエッタが仲良くなれたのだろう。


「そうなると一番は本ということになりますね」

「ええ、本は欲しいとおっしゃっていたわ。この国の言葉で書かれたものがいいそうよ」

「まあ!」


二人とも嬉しそうに微笑(わら)う。

やはり自国のことを知ってくれようとするのは嬉しい。

翻訳ではなくきちんと自国の言語で書かれたもので、というのは伝わってくる真剣度が違う。


ミネット様は王族なので友好国の言語は勿論不自由ないくらいには会得(えとく)している。

これは御本人から聞いていた。

だからこそお土産が何がいいかと尋ねて本という言葉が返ってきたのだろう。


クラリッサとエヴァはどんな本がいいかの相談を始める。

聞いていると堅い本ばかりが候補に上がっている。

しかしミネット様はまだ若い。

堅い本も勿論必要だがそれだけでなくてもよいはずだ。


二人の話にそっと口を挟む。


「きっと流行りの小説も喜ばれると思うわ」


二人の目が光った、気がする。


「それならお役に立てると思います」

「ええわたくしも」


どうやら二人ともお薦めの本があるようだ。

そちらのほうはこの国に住んでいないアンリエッタでは疎いから二人に任せたい。

クラリッサとエヴァが頷き合う。


「書店は最後に致しましょう」

「ええ、それがいいと思いますわ」


きっと時間がかかると判断したのだろう。

その辺りの差配は二人に任せることにした。


「アンもそれでいいかしら?」

「ええ」


折よく馬車が停まった。

少しして外から声がかけられた。

それに応じれば外から扉が開かれた。

御者の手を借りて順番に降りる。


「ここからは徒歩になります」

「この通りは貴族御用達のお店ばかりなの。だから買い物に足を運ぶこともよくあることよ」


クラリッサが説明してくれる。


「裕福な平民が買い物に来ることもありますけどね」

「そうなのね」


リーシュにもそういう場所があるから戸惑いはない。

先日エドゥアルトとデートした場所とはまた別の場所のようだ。


「ふふ、お義姉様、デートでのお買い物と、こうやってお友達同士で買い物に来る場所というのは分かれていますのよ」

「明確な線引きはないけれど、暗黙の了解でね」

「そうなのね」


昔からよく来ていたとはいえ、まだまだ知らないことは多い。


「はい。ではまずは小物から参りましょう」

「ええ」


意気揚々と歩き出したエヴァの後をクラリッサと共についていった。




贈れる物には限界がある。

吟味に吟味を重ねて小物を数点選んだ。




「いよいよですわね」

「ええ」


エヴァとクラリッサは戦に向かう歴戦の戦士のような顔で書店の扉を見ている。

アンリエッタは迂闊に声をかけられない。


「お義姉様、クラリッサ様、参りましょう」

「ええ」

「……ええ。」


エヴァの静かな掛け声にクラリッサに続いて応じる。

二人の後について書店に入った。


「いらっしゃいませ」


店員が丁寧に出迎えてくれる。


「もしお探しの本がございましたらお声がけくださいませ」


エヴァが鷹揚に頷くと静かに一礼して離れていく。

きちんと心得ている。

静謐で本が好きな者に居心地のいい空間が保たれている。

アンリエッタはこの書店に好感を持った。


エヴァとクラリッサが振り向く。


「お義姉様、何冊まででしょうか?」


アンリエッタは考える。

一冊ずつ、だと納得しそうにない。


「お薦めを二冊ずつで」


二人揃って難しい顔をする。

それでもそれで収めてほしい。

アンリエッタが言を翻さないのを見て取った二人は重々しく頷いた。


「わかったわ」

「ですが、少々お時間いただきますね」

「ええ」


エヴァとクラリッサはお互いに頷くと静かに目的の場所へと向かっていった。


散っていった二人を見送ることなくアンリエッタは店員に声をかける。

ここはプロの力を借りるのが確実だろう。


アンリエッタは店員と相談しながら数冊の本を選んだ。


「二人ともどうかしら?」


まだ難しい顔をしている二人に声をかける。


「あ、お義姉様、少しご相談が」

「どうしたの?」

「実はクラリッサ様とお薦めの本が一冊重なっておりまして、わたくしとクラリッサ様のお薦め二冊ずつと重なった一冊、計五冊でもよろしいでしょうか?」


アンリエッタは少し考えてから頷いた。


「ええ、構わないわ」


二人がほっとしたように顔を綻ばせた。


「ではこちらになりますわ」

「ありがとう」


二人から合わせて五冊の本を受け取る。

軽く確認すればどれも面白そうだ。


「面白そうね」


二人の目が輝く。


「よろしければお貸し致しますわ!」

「わたくしも」

「嬉しいわ。ありがとう」


二人ともにこにこの笑顔だ。

よほど好きなのだろう。


「あ、お義姉様、この後少し自分の本を見てきても構いませんか?」

「わたくしも」

「ええ、勿論。今日のお礼に贈らせてほしいわ」

「あ、いえ。せっかくのお申し出ですが本は自分で購入したいのですの」

「わたくしも。自分の娯楽本は自分でと決めているの」

「そう。ではお礼はまた別の機会にするわね」

「気にしなくていいのに」

「そうですわ」

「親しき仲にも礼儀あり。こういうことはちゃんとしておきたいの」


なるほど、というように二人は頷く。


「でも、アンにはこれからお世話になる予定だから。お互い様ということにしておいてくれると有り難いわ」


クラリッサが言うのはリーシュ王国に帰ってからのことだろう。

だが今のところ表立っての交流は難しい。

そのアンリエッタの心情に気づいたのだろう、クラリッサが言葉を足した。


「知り合いがいると思うだけで心強いものよ」


それは、そうかもしれない。

アンリエッタは頷いた。


「わかったわ。何かあったら言ってちょうだい。力になるわ」

「ありがとう」

「お義姉様」


今度はエヴァが申し出る。


「わたくしのほうはいずれ相談に乗っていただきたい場面が出てくると思いますのでその時に御力をお貸しくださいませ」

「わかったわ」

「ではお義姉様、少々お待ちくださいましね」

「わたくしも行ってくるわ」

「ええ、ゆっくりでいいわ」

「ありがとうございます」

「ありがとう」


素早い身のこなしで二人が奥へと消えていく。

それを見送っていると気配を消していた店員がすっと近づいてくる。

彼はずっとアンリエッタについて本の相談に乗ってくれていた。


「本を御預かり致します」

「ありがとう。お願いね」


店員が本を受け取って下がっていく。

ゆっくりと店内を見回す。


ふと目に留まったのは一冊の絵本だった。


何気なくその絵本を手に取る。

子猫が好奇心のまま世界を旅する絵本だ。

子猫が可愛い。


アンリエッタは戻ってきた店員を振り向き、この絵本も購入することを伝えた。




*




「お帰り、姉上。楽しかった?」

「ええ、楽しかったわ」


こちらの国での流行も知れて大変有意義な時間を過ごせた。


「よかったね」

「ええ」


笑顔で頷いたアンリエッタは何気なく訊く。


「でもルイは一緒に来たいとは言わなかったわね」

「王女殿下へのお土産を買うのに男である僕が一緒じゃないほうがいいと思ってね。まあ念の為だけどね」


ルイの懸念も(もっと)もだ。

どこにでも曲解したり勘繰ったりする(やから)はいる。

避けられるものは避けるのが無難だ。


「さすがね、ルイ」


褒めればルイは嬉しそうだ。


「批判されそうなことは避けないと。でも家族へのお土産は僕と買いに行こうね?」


その中には勿論ミシュリーヌのものも含まれる。


「そうね」

「あいつ抜きだからね?」


思わず苦笑してしまう。

だがたまにはそれもいいかもしれない。

婚約者以外の男性と二人の外出は問題だが、ルイは実弟なので問題はない。


「ええ、いいわ」


ルイが嬉しそうに微笑う。


「約束だからね。あいつが一緒に行くと言ってもちゃんと断ってね?」

「わかったわ」

「やった」


嬉しそうなルイは普段の大人びた様子ではなく年相応に見える。

それならたまにはこういうのも悪くないか、とアンリエッタは思った。


読んでいただき、ありがとうございました。

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