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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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44.我が国に嫁ぐ伯爵令嬢と婚約者たちとお茶会をします。

「聞きましたわ、先日の夜会は大変だったようですね」


同情したように言ったのはヴルツェル伯爵令嬢であるクラリッサだ。

彼女の隣には婚約者のテランス・フリュイ侯爵令息がいる。彼は第三王子の側近ジルベール・フリュイ侯爵令息の実兄だ。

彼もまた婚約者に会いにきたのだ。


その二人にアンリエッタとエドゥアルトを加えた四人でお茶会をしている。

場所はヴルツェル伯爵家の庭。

大木が程よく日陰を作っている場所に丸テーブルが置かれ、それを四人で囲んでいる。

アンリエッタの隣にはエドゥアルトとクラリッサが座り、向かいにフリュイ侯爵令息という席位置だ。


「少し、絡まれただけですわ」

「もてる男は大変だな」


テランスがエドゥアルトを揶揄(やゆ)する。

エドゥアルトは肩を(すく)めた。


「お互い様だろう」


その言葉に素早く反応したのはクラリッサだ。


「まあ、やはりテランス様はお国元でもてるのですね」


顔は微笑んでいるが、目は笑っていないようにも見える。


「いや、俺はそんなにもてない。なぁ、そうだろう、アンリエッタ嬢?」


必死だが、残念ながらアンリエッタに明言はできない。

いくら幼馴染みに当たるとはいえ、さほど一緒にいるわけでもない。


「ええと、申し訳ありません、テランス様。わたくしにはわかりかねます」


テランスは愕然とした顔をするが嘘はつけない。


はっきり言ってしまえばクラリッサとの婚約がなければ接点など生まれないのだ。

領地が接しているわけでもなく、誰か兄弟姉妹同士が友人ということもない。

幼馴染みとはいえ、リーシュ王国では接点のなく見える間柄だ。

迂闊に話すこともできない。

付き合いはお互いの婚約が決まった時からだから長いのだが。


「アンリエッタ嬢……」

「申し訳ありません。表向き接点がないので、国ではほとんど話したことはありませんので」

「それはそうだが、話していなくても見ればわかるだろう?」


テランスは必死だ。

そう言われても困ってしまう。


「兄やルイなら証言できるかもしれませんが……」


残念ながら二人ともこの場にはいない。

クラリッサは明るく微笑(わら)う。


「いえ、大丈夫です。テランス様がおもてになるであろうことはわかっておりましたから。だってテランス様は大変魅力的な方ですもの」


テランスは複雑そうな顔だ。

クラリッサは両手を握る。


「事前に覚悟を持っていけば実際に見ても平気なはずです」

「いや、本当にそれほどもてないからな」


テランスのぼやくような言葉にもクラリッサは揺らぐ様子はなかった。

エドゥアルトはそんなやりとりを微笑(わら)って見ているだけで口は挟まない。


アンリエッタはクラリッサの言葉が引っ掛かった。

クラリッサとは普段はこの国の言葉で、敬語もなしに話している。

立場としては対等であるし、何より友人だからだ。


だが今は全員がリーシュの言葉で話しており、クラリッサとアンリエッタは敬語で話している。

そう頼まれたからだ。


エドゥアルトはリーシュの言葉も堪能なので何の問題もない。

リーシュ王国に、アンリエッタのもとに遊びに来たいと身につけてくれたのだ。


この状況が指すのは(すなわ)ち。


「いよいよですのね」

「はい。入学時の試験も無事に受かりました。夏休み明けから学院のほうに通うことになりましたの」

「まあおめでとうございます」

「ありがとうございます」


リーシュ王国に他国から嫁いだり、婿入りしてくる場合、学院への入学は任意だ。

だが大抵のものは学院へと入学する。

人脈作りにも役立つからだ。


入学すれば必要な単位を取らなければ卒業できないのは他国の人間でも変わらない。

さすがに必要な単位は自国の貴族に比べれば少ないが。

学院には寮というものがないので、大抵は婚約者の屋敷から通うことになる。


「フリュイ家の屋敷から通われるのですか?」

「ええ、そうです」


フリュイ家の屋敷に滞在するならクラリッサの夫人教育も本格的に進むことになるだろう。

いよいよ輿入れも視野に入ってきたということだろう。

学院に入学したということはすぐにというわけではないだろうが。

そもそもテランスもまだ学院に通っている。彼にもまだ婚姻の資格はないのだ。


「いよいよ本格的に嫁入りするんだね」


今まで口を挟まなかったエドゥアルトが訊く。


「その準備に入った、ということですわ」


頷いたエドゥアルトがちらりとアンリエッタを見る。


「少し、羨ましい、かな」

「アンリエッタ嬢の卒業の時期とは恐らくたいして変わらないと思うぞ」

「ああ、違うよ」


エドゥアルトは軽く手を振る。


「婚約者と一緒に暮らせるのが羨ましい」

「ああ、それはな」


テランスがエドゥアルトにぐっと顔を近づけ、声を落として言う。


「だが結婚するまでは手が出せない」


幸いにしてアンリエッタとクラリッサにその言葉は聞こえなかった。


「あー。それは、うん、生殺しかもね」


エドゥアルトの声に同情が混じる。


「だが毎日会える。朝晩も顔を見られる」

「喧嘩売っている?」


作った笑顔で訊くエドゥアルトにテランスは唇の端を上げた。

気の置けないやりとりができるくらいには二人も仲のいい友人だ。


声を落としたやりとりはアンリエッタにもクラリッサにも聞こえない。


クラリッサがおっとりと首を傾げ、そんな二人に声をかける。


「二人で何をこそこそ話しているのです?」


ぱっと二人で顔を上げる。

そして揃って似たような微笑みを浮かべる。


「んー、男同士の内緒の話、かな」

「そうだな。少し二人で話したかったんだ」


アンリエッタとクラリッサは顔を見合わせる。

まあ二人で話したいこともあるだろう。


「まあ、仲のよろしいこと」


ころころとクラリッサが微笑(わら)う。


「ええ、存分に。こちらはこちらで二人でお喋りしているので」


気を遣ったつもりだったが、何故か二人ともが焦り出す。


「もう話は終わったから」

「うん。僕たちもそのお喋りに混ぜて」


何故そんなに焦っているのだろう?

クラリッサと二人で首を傾げた。


「積もる話もあるでしょう?」

「わたくしたちのことはお気になさらず」


本心から言ったのだが、二人は何故か余計に焦った様子だ。


「せっかく婚約者と過ごせる貴重な時間なんだぞ。そちらを優先するのは当然だ」

「そうそう。男同士の話なんてもう十分」


アンリエッタはクラリッサと顔を見合わせた。

本人たちがそう言っているのならもういいのだろう。

アンリエッタとクラリッサは小さく頷き合った。


「わかりました」


エドゥアルトとテランスはほっとしたようだ。


「学院は夏休み明けから通うことになるの?」


気を取り直したようにエドゥアルトがクラリッサに訊く。


「はい。ですのでテランス様の帰国時に一緒に行きますの」

「羨ましい」


ぼそりとエドゥアルトが呟く。

アンリエッタはあえてその呟きを拾わなかった。


「慣れるために少し早めに行くのですか?」

「ええ、そうです」


クラリッサはにこにこと微笑(わら)っている。

不安もあるだろうが、楽しみにしているようだ。


そんな彼女がリーシュに来たらいろいろ手助けしようとあれこれ考えていた。

だが状況がそれを難しくさせた。


「本当はいろいろと手助けをしたいと思っていましたが、わたくしが親しくしていると思われれば目をつけられてしまうかもしれません」


この国に嫁いでくるアンリエッタとリーシュに嫁ぐクラリッサ。

立場は同じ。

大切な友人でもある。


だから精一杯手助けをするつもりだったのだ。

こんなことにならなければ。

思わず溜め息が漏れた。


「噂はこちらの国にも届いています」


顔を曇らせてクラリッサが言う。


「一緒に学院に通えることを実は楽しみにしていました」

「わたくしもですわ」


本当に残念だ。

アンリエッタと関わりがあると知られれば嫌がらせを受けるかもしれない。

アンリエッタは真っ直ぐにテランスに視線を向ける。


「テランス様、必ずクラリッサ様を守ってくださいね」


国外からの嫁入り・婿入りの場合、学院に入学した時点で婚約の発表がなされることが多い。


「当然だ」


しっかりとテランスが頷く。


「わたくしも負けませんわ」


クラリッサは小さく拳を握って宣言する。


「いや、勝負しなくていい」

「敵を前にして尻尾を巻いて逃げたりは致しませんわ」

「いや敵はいないからな」

「殿方は鈍感ですもの。淑女には淑女の戦いというものがあるのですわ」


高らかにクラリッサが(のたま)う。

それにこっそりと頷けば、目が合ったエドゥアルトが複雑そうに微笑(わら)う。

心配はしてくれているのだろうが同時に信頼もしてくれているのだろう。


それが嬉しい。


必死にクラリッサを止めるテランスの声を聞きながらアンリエッタはエドゥアルトに微笑み返した。



読んでいただき、ありがとうございました。

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