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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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幕間 婚約者と第二王子

次の日。

エドゥアルトは第二王子であるファルケに密やかに呼び出された。

用件は恐らく昨日の夜会のことだろう。

あの夜会にはファルケも参加していた。

アンリエッタとシュトローム侯爵令嬢とのやりとりを見ていたはずだ。

そうでなければこの呼び出しはない。


「来てもらって悪いね」

「いえ、お呼びとあらばいつでも御前に参上致します」


ファルケが僅かに顔を歪める。


「その馬鹿丁寧な話し方()めてくれない? いつも通りでいいよ」

「承知しました」


エドゥアルトはファルケと年齢が近く、彼に(はべ)ることが多かった。

それは王太子である第一王子と第二王子である彼の仲が非常に良好だからこそである。

ファルケは兄である王太子を支えると公言している。

だから貴族は第一王子派、第二王子派と分かれることなく、年の近い王子と子息を交流させているのだ。


「それで今日はどのような後用件でしょうか?」


いくら親しくしていても最低限の礼節は必要だ。


「わかっているとは思うけど昨日の夜会の件だよ」


そこまでは見当がついたが、具体的なところまではわからない。


「もう少し具体的にお願いします」

「ん? まあ、そうか。でもその前に詳しく教えてくれるかな?」

「わかりました」


昨日の内にアンリエッタとエヴァには聞き取りをしてある。

どこまで知っているかわからないのでできるだけ詳しく説明する。

隠すべきことなど何もない。


聞き終えたファルケは思わずといった様子で深い溜め息をついた。


「シュトローム侯爵令嬢にも困ったものだね」

「全くです」


アンリエッタにちょっかいをかけなければ放っておいたものを。


「それだけお前が魅力的、とも言えるな」


どこかからかう調子だったのでこちらも遠慮なく顔を歪めた。

エドゥアルト自身ではなく、地位や容姿が魅力的なのだろう。

ははと短くファルケが笑う。


「私は婚約者以外に興味はありません」

「そこまできっぱり言われると小気味いいな」


ただの事実だ。

それに、アンリエッタ以上に可愛く美しい女性はこの世にいない。

彼女を婚約者に持てたエドゥアルトは世界一幸運な男だ、と自負している。


「恐れ入ります」


一応殊勝な態度で頭を下げておく。

くくっとファルケが思い出し笑いをする。


「彼女、お前の婚約者、面白いね。シュトローム侯爵令嬢をお子様扱いとは」

「見ていらしたのですね」

「うん。でも彼女の機転で助かった」


ファルケが真っ直ぐにエドゥアルトを見た。その目の奥が真剣だ。


「アルトの婚約者には感謝している」


場合によっては国際問題だ。

それをシュトローム侯爵令嬢はわかっていなさそうなところが頭が痛い。

アンリエッタはしっかりとわかっていたというのに。


あれで同い年なのだ。

信じられない。

アンリエッタの爪の垢でも煎じて飲めばいいのに。

少しはあのおつむがマシになるだろう。


「危うく国際問題だ。シュトローム侯爵令嬢は気づいたかな?」

「さて、どうでしょう?」


あえて(とぼ)ける。


「気づいてないと問題だけどね。あれで侯爵令嬢だというのが頭が痛い。エーリッヒ王国(うち)の貴族も質が落ちたか?」

「一部、だとは思いますが、断言はできません。ですが、個を全体に広げるのは判断を誤ることになりかねないでしょう」

「ああ、そうだね。気をつけるよ」


もともと思慮深い方だ。軽率な判断はなさらないだろう。

それでも軽率な判断のもと行動されるなら(いさ)めなければならない。

エドゥアルトの懸念をわかっていると言うようにファルケは軽く手を振る。

一応大丈夫そうだ。

心の中だけでほっとする。


「アルト」


静かな声で名を呼ばれて思わず背筋を伸ばした。

ファルケが真剣な目でエドゥアルトを見る。だがその奥ではどことなく楽しそうな光がちらついている。


「それで、お前自身はどうするつもりだ?」


あの場はアンリエッタが収めたのでシュタイン侯爵家としてはこれ以上動くことはない。

動けばアンリエッタの差配が足りないことになってしまう。

だが、個人的にやる分には、婚約者を侮辱された仕返しだと取られるだけだ。


エドゥアルトは綺麗な微笑みを浮かべる。


「そろそろ彼女には婚約者を斡旋してあげましょう」


婚約者がいないからエドゥアルトの婚約者の地位を欲するのだ。

ならばそれを潰すまで。


「……お前のことだから家ごと潰すと言うかと思ったが」


潰していいと思っているのか、潰すと言ったら止めるつもりだったのか。

できるかできないかと問われればできるが、そこまでやってアンリエッタが恨まれでもしたら大変だ。

それに。


「父親はまともでしたからね。彼女の家にも相手の家にも双方に利益があるのでとんとんとまとまるでしょう」


今回の一件での貸しもある。家の利にもなるから断らないだろう。


「既に準備済みか」

「前から両家が組めば新しいものができると思っていたので。国の利益にもなるでしょうから三方よしです。……相手は伯爵家ですが」


シュトローム侯爵令嬢からしたら格下の伯爵家に嫁ぐことは不本意かもしれないが。

これで将来的にはアンリエッタのほうが立場が上になるので少しは安心できる。


「不本意なのは本人たちばかりか」

「案外気が合うかもしれませんよ」


相手は穏やかな気性の令息だ。

気の強いシュトローム侯爵令嬢とは案外うまくいくのではないかと思う。

あの令息がうまくシュトローム侯爵令嬢の手綱を引いてくれればこちらが煩わされることもなくなるだろう。


この手を打ったのは、シュトローム侯爵令嬢がアンリエッタに対して"リーシュ王国の第一王子の愛人"などと言わなかったからだ。

そのようなことを一言でも言っていればこの縁談はなかった。

いくら遠ざけたかったとはいえ、そこまでされれば良縁を用意したりはしない。


「まあ、人の相性は会ってみないとわからないしな」

「はい」


エドゥアルトとしてはうまくいくように願うばかりだ。

これ以上煩わされたくない。

アンリエッタにも絡まれたくない。


「是非うまくいってもらいたいですね」

「そこまでか」


エドゥアルトははっきりと頷く。


「彼の領地はうちの領地とは遠いですから、彼女が煩わされずに済みます」


領地が遠くなればその分会う確率も減る。

社交の場で全く会わないというのはさすがに無理だろうが。


「……お前、絶対それが目的だろう」


にっこりと微笑(わら)うに留める。

それだけでも伝わるはずだ。

ファルケは嘆息した。


「お前は本当に婚約者を中心に回っているんだな」


エドゥアルトは微笑()みを深くする。

そんなこと当然じゃないか。

わざわざ口に出す必要はない。

こほんと咳払いをして気を取り直したようにファルケは口を開いた。


「さて、お前の婚約者、ヘンリエッタ嬢だっけ?」

「はい。正確に言うとアンリエッタですが」


アンリエッタの名前の綴りはうちの国ではヘンリエッタと読むのだ。


「ああー、彼女はどう呼ばれたいかな?」

「恐らく我が国に合わせるかと。その覚悟はありますよ」

「得難いね」

「恐れ入ります」

「では、ヘンリエッタ嬢、一度僕の婚約者に会わせたいな」

「彼女がいいと言えば構いませんよ」


ファルケが苦笑する。


「お前は本当に婚約者が第一だな」


当然だ。

アンリエッタ以上に大切なものはない。


「だがそれでいい。打診しておいてもらえるかい?」

「承知しました」

「ああ、初対面で一人は不安だろうからアルトがエスコートして来てあげるといい」

「心遣いに感謝します」


きちんと頭を下げた。


「勿論、私も同席させてもらう」

「……承知しました」

「不満そうだね?」

「いえ。彼女が緊張するのでは、と心配になっただけです」

「お前と結婚するならば慣れてもらわねば。それに、王子になど慣れているのではないか?」


意識して深く息を吐く。

まさかここで入れ込んでくるとは。

とはいえ、情報収集の一環として正確なところを知りたいと思うのも当然ではある。

好奇心ではないと思う。

そう思いたい。


「慣れてなどいるはずがありません」

「そうなのか? 向こうの第一王子と親しくしているというじゃないか?」


口角だけを上げてファルケを見る。

それくらいでファルケは怯まない。

同じように口角を上げて訊いてくる。


「実際のところはどうなんだ?」


エドゥアルトは嘆息する。


「一方的に言い寄られているだけですね。彼女もはっきりと婚約者がいると断っているのですが、なかなか諦めてくれないようで……」

「おや、向こうの第一王子は意外と愚かか? 評判では優秀だと聞くが」


さらりと毒を吐かないでほしい。

人払いもされていない場だ。耳目は多い。

友好国の王子を貶すなど、足を引っ張りたい者がいれば悪意を持って広がる。


「ああ、アルト、心配はいらない。ここにいる者たちは皆口が堅い。万に一つ内容が外に漏れたら……誰からかはすぐわかる」

「……そうですか」


それ以上は深く聞くまい。

人払いしてはいないが、実質しているようなものだと言いたいのだろう。

だからと言ってエドゥアルトまでもが他国の王子を悪く言うわけにはいかない。


「それでお前の本音は?」


どことなく楽しそうに訊かれてにっこりと笑って返す。


「彼女は魅力的なので想いを寄せる気持ちはわかるのですが、いい加減諦めてもらいたいのが本音ですね」

「なるほど。それも確かに本音だろうな」


顎に手を当ててファルケは頷く。

ここで退いてほしいと切に願う。

ここでそれ以外の本音など言えるはずもない。

ちらりとエドゥアルトを見たファルケが頷く。


「まあ、いいか。じゃあ、アルト、婚約者の件、頼んだよ」

「承知しました」


エドゥアルトはほっとしながら頭を下げた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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