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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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41.いよいよデート本番です。

馬車がゆっくりと止まった。

少しして扉が外から叩かれ「開けてもよろしいでしょうか?」と声がかけられた。

エドゥアルトが了承すると扉が開いた。


まずはエドゥアルトの従者が降り、マリーが続いた。

エドゥアルトが降り、アンリエッタに手が差し出される。

アンリエッタはその手に手を重ねて馬車を降りた。


瀟洒(しょうしゃ)な建物だ。

店の前には男性が立っていた。


「お待ち申しておりました」


丁寧に男性が腰を折る。


「支配人、今日はよろしくね」

「精一杯努めさせていただきます。皆様中へどうぞ」


そのまま奥の個室に通された。

アンリエッタはエドゥアルトと並んでソファに腰を下ろした。


「リエッタは彼は初めてかな。」

「そもそもこのお店に来るのも初めてよ」


いつも宝飾品はエドゥアルトが用意してくれており、この宝飾品店に来るのは初めてだ。また屋敷に呼んだ時も立ち会ったことはない。

勿論それはエドゥアルトに関連することで、であり、国では勿論経験しているし、友人や母と一緒に宝飾品を別の店に見に行ったことはある。


エドゥアルトは目を(またた)かせる。


「そうだった?」

「ええ。宝飾品はいつもルトが用意してくれていたから」

「あーそうか、そうだった。また来ることもあるから紹介しておこうかな。リエッタ、彼はこの店の支配人のアルミン・グラオペだよ。アルミン、彼女は僕の婚約者のアンリエッタ・ラシーヌ伯爵令嬢だ」


アンリエッタは支配人に微笑みかける。


「アンリエッタ・ラシーヌです。本日はよろしくお願いしますね」

「丁寧な御挨拶をありがとうございます。私はこの店の支配人のアルミン・グラオペと申します。この先も長くお付き合いいただけますよう、本日は努めさせていただきます」


アンリエッタに礼を取った支配人は顔を上げると、エドゥアルトとアンリエッタ二人に向き直った。


「本日はどのようなものをお探しでしょうか?」

「いくつかの夜会やお茶会の予定が入っているから宝飾品一式を揃えに来たんだ」

「左様でございますか」


なるほど、と一つ頷いた支配人は問いを重ねる。

「ちなみにどのようなものをお考えでしょう? ドレスの色や形もお教えいただけますか?」

「宝石の色を僕と彼女の瞳の色にしたい」

「それでしたらブルーサファイアかブルーダイヤモンド、エメラルドか翡翠あたりでしょうか」

「うん、その辺りで見せてもらえる?」

「かしこまりました。ちなみにドレスはどのようなものでしょうか?」


エドゥアルトはアンリエッタに向かってにっこりと微笑(わら)う。


「リエッタ、ちょっと耳を塞いでおいてくれる?」

「え?」

「お願い」


これは、アンリエッタが折れるしかなさそうだ。


「……わかったわ」


アンリエッタは大人しく両手で両耳を塞いだ。

その上からエドゥアルトが手を重ねてさらにしっかりと塞がれる。

二重に塞がれている耳では明確に音は拾えない。


これ、わたくしがいる意味あるのかしら?

ふと疑問が湧く。


そうしている間に話し合いは終わったらしくエドゥアルトの手が離れた。

それから優しくアンリエッタの手を耳から引き剥がした。


「リエッタ、ありがとう、もういいよ」


素直に手を下ろす。

エドゥアルトはマリーに視線を向ける。


「マリー、リエッタに詳細は漏らさないように」


マリーはアンリエッタをちらりと見てから頷いた。


「……承知しました」


マリーはアンリエッタの害になるようなら了承はしないだろう。

支配人の微笑ましそうな顔がいたたまれない。


「それでは用意して参ります。しばしお待ちくださいませ」


一礼して支配人は部屋を出ていく。


「ねぇ、ルト、わたくしがいる意味はあるのかしら?」


思った疑問を率直に訊く。


「勿論あるよ。実際に身につけてもらって似合うか見ないと」

「そう」

「仲間外れにしてごめんね」

「別にいいわ」


少し、素っ気なくなってしまったかもしれない。

きゅっとエドゥアルトに手を握られる。


「リエッタ」

「本当に気にしていないわ」


本当だろうか、というようにじっと見てくるので微笑んでおく。

さらに探るように瞳をのぞき込んできたエドゥアルトだったが、小さく咳払いが聞こえてくると身を離した。恐らくマリーだろう。


「うん。でもその分の成果は出してみせるよ」

「ええ」


そうこうしているうちに支配人が戻ってきた。


「お待たせ致しました」


一礼した支配人がテーブルの上に装飾品の載ったトレーを置く。

他にも数人の従業員がトレーを運んできており、テーブルの上に並べて静かに退室していった。


「このようなものを御用意致しましたがいかがでしょうか?」

「見せてもらうね」


エドゥアルトに促されて二人で宝飾品をのぞき込む。


「支配人、つけてみてもいいかな?」

「ええ、勿論でございます。鏡はこちらをお使いくださいませ」


卓上用の鏡をアンリエッタの前に置く。


「お嬢様、お手伝い致します」

「ありがとう、マリー。お願いね」


マリーに手伝ってもらいながら一通り身につけた。


「リエッタ、これとこれ、あとこれも、もう一度つけてみてくれる?」

「ええ」


言われたものを順につけていく。


「うーん」


エドゥアルトがしっくり来ないような顔をする。


「失礼致します」


途中退室していた支配人が追加で宝飾品の載ったトレーを持ってきた。


「このような感じのものもありますがいかがでしょうか?」


新しく追加された宝飾品を見てエドゥアルトの目が輝く。


「ああ、悪くないかも」


エドゥアルトに促されて身につけてみる。

エドゥアルトがふわりと微笑(わら)う。


「うん、いいね。支配人、これをもらうね」

「ありがとうございます」

「それと、」


他にもいくつかの宝飾品を購入する。


シュタイン家(うち)の屋敷に届けて」

「承知しました」

「よろしく」


エドゥアルトが立ち上がる。そしてアンリエッタに手を差し出した。


「行こうか」

「ええ」


その手に手を重ねて立ち上がる。

また支配人に外まで案内され、彼らに見送られて店を後にした。





昼食はエドゥアルトが予約しておいてくれたレストランで取った。





それからいくつかお店を回った。

そして最後に、


「さあ、リボンを見に行こう」


楽しそうにエドゥアルトが言う。


「ええ。ルト、何だか楽しそうね」

「楽しみだからね。どんなリボンを贈ろうかなって」

「そう。わたくしも選んでいい?」

「勿論。一緒に選ぼう?」

「ありがとう」


程なくして店に着く。

エドゥアルトの手を借りて馬車を降りるとそこは可愛らしい外装の店だった。


「贈ってくれたリボンもここで買ったの?」


エドゥアルトが苦笑する。


「さすがにここに一人で入る勇気はないかな。屋敷に商人を呼んだんだ」

「そう」


よかった。

この店内ではエドゥアルト一人だったら確実に浮いていただろう。


エドゥアルトにエスコートされ、彼の従者が開けた扉から中に入る。


「いらせられませ」

「少し見させてもらうよ」

「はい。ごゆるりとご覧くださいませ」


きょろりと店内を見回せば、どうやら小物を扱っている店のようだ。

小さな置き物や小物入れ、手鏡などが置かれており、そのどれもが一見してわかるほど品がいい。


「リボンはあっちだね」


エドゥアルトがアンリエッタの手を引いてリボンの置いてある一角に向かう。

リボンは日常使いのものから、高級品まで色も材質も様々なものが置かれていた。


「色々あるわね」

「そうだね」


リボンからアンリエッタに視線を向けエドゥアルトが訊いてくる。


「リエッタはどれが好み?」

「そうね、」


改めてアンリエッタはリボンをじっと見る。


「これとかかしら?」


アンリエッタが触れたのはレース編みで作られたリボンだった。大小様々な花の模様が紡ぎ出されていて繊細で美しい。

エドゥアルトが手に取ってアンリエッタの髪に当てる。


「うん、似合う。リエッタの美しさに繊細さが加わったようだよ」


エドゥアルトが微笑んで褒めてくれる。


「よろしければこちらをお使いくださいませ」


音もなく寄ってきていた店員が布張りのトレーをそっと置いて下がっていく。

そこにエドゥアルトはレースのリボンをそっと置いた。


「リエッタは好きなリボンを選んで。僕もリエッタに似合いそうなものを選ぶから」

「ええ」


どれがいいかしらと眺めるアンリエッタの隣でエドゥアルトは次々にリボンを手に取り、アンリエッタの髪にあてる。


「これも似合う。でもこっちもいい。あ、こっちも捨て難い」


何故だろう。

装飾品を選んでいた時よりも真剣な気がする。


思わずアンリエッタの手が止まる。

一つ選んだことだし、あとはエドゥアルトに任せたほうがいいかもしれない。

アンリエッタとしてもエドゥアルトにリボンを選んでもらえるのは嬉しいのだから。





たっぷりと時間をかけてエドゥアルトはリボンを選んだ。

それらを購入し、満足そうなエドゥアルトと共に店を出た。




*




時刻はもう夕方だ。

帰りの馬車の中。

エドゥアルトは満足そうな表情でアンリエッタの向かいの席に座っている。


「今日は色々ありがとう」

「こちらこそ付き合ってくれてありがとう」


アンリエッタは手持ち鞄から包装された細長い箱を取り出した。


「これをもらってくれる?」

「ありがとう。開けてもいい?」

「ええ、勿論」


エドゥアルトが丁寧な手つきで包装を解き、箱を開けた。

中に入っているのは(みどり)色に金の螺旋が入った万年筆だ。


エドゥアルトの目が輝く。その口許にもはっきりとした笑みが刻まれる。

もうそれだけで彼が喜んでくれているのが伝わってくる。


喜んでくれたのが嬉しい。

アンリエッタの顔にも笑みが浮かぶ。


エドゥアルトがアンリエッタを見る。


「ありがとう、リエッタ。本当に嬉しい」

「喜んでくれてわたくしも嬉しいわ」

「でもいつの間に用意してくれたの?」

「試験が始まる前に注文していたものよ。本当は昨日渡せればよかったのだけれど」


やはり緊張していたらしく、うっかりと持っていくのを忘れてしまったのだ。

気づいたのは馬車が動き出してしばらく経ってからだった。


だから今日こそはとマリーにもしっかり頼んでおいた。

マリーもしっかりと請け負ってくれ、今日無事に渡せた。


実は襲われかけたあの日、入荷したとの連絡を受けてこの万年筆を見に行っていたのだ。

少し気になったのでペン先を調整してもらい、こちらの国に来る直前に引き取りに行ってきた。間に合って本当によかった。

先日襲われかけたこともあり、受け取りにはロジェが一緒に行ってくれた。


そんなことを言えばエドゥアルトが嫌な気持ちになるだろうから秘密だ。


「昨日だと渡される機会が難しかったかもしれない。今日で正解だったよ」


そう言ってくれるエドゥアルトは本当に優しい。

万年筆を優しく一撫でしてエドゥアルトが言う。


「でも万年筆というのは意外な選択だね」


少し理由が恥ずかしい。だけど思いきって告げる。


「わたくしもルトの傍に何か置いてほしいと思ったの。カフスボタンやネクタイピンも考えたのだけど筆記具のほうが使う(たび)にわたくしを思い出してくれるかしら、って」


これくらいの乙女思考ならば許されるだろうか。

エドゥアルトが嬉しそうにふわりと微笑(わら)う。


「うん。この万年筆を使う度にリエッタのことを思い出すよ。本当にありがとう。大切にするね」

「ええ。わたくしもリボンを大切にするわね」

「身につけてくれる?」

「勿論。わたくし、毎日ルトにもらったリボンを身につけているわよ?」

「今日もつけてくれているしね。嬉しい。よく似合っているよ」

「ありがとう」


二人で微笑(わら)い合う。

馬車の中は柔らかな空気に包まれていた。



読んでいただき、ありがとうございました。

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