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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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幕間 侯爵家との話し合い

まさかの思いがけない方向に行きました。

すいません。

エドゥアルトに連れられてアンリエッタが退室した後。


部屋の空気が一変した。

ここからはラシーヌ家とシュタイン家で現状の認識と今後に対する擦り合わせの時間だ。


「そちらはどうなっている?」


侯爵の言葉にルイはそっと手紙を取り出した。


「まずはこちらを。父からの手紙です」


侯爵が受け取り、手紙を読むとそれをそのまま夫人に渡した。

夫人も手紙を読むとそのままエヴァに渡す。

エヴァも読み終えると、手紙を侯爵の手に戻した。


「後でアルトに読ませてから燃やす」

「承知しました」


ルイが了承すれば、侯爵は手紙を(ふところ)に仕舞った。

それから改めてルイに視線が向けられる。


「そちらの現状は理解した」

「はい」


ルイは知らず緊張した面持ちになる。


「こちらの方針は先程エッタにも話した通りだ」

「承知しました。帰りましたら父たちにも伝えます」

「私のほうでも手紙を書こう。帰国する前には渡す」

「ありがとうございます」


軽く頭を下げた後で緊張しつつ切り出す。


「あの、姉の噂の件で御迷惑をおかけしていませんか?」


父にそれだけは確認してこいと厳命されていた。

これは重要なことだった。


「父が、噂のせいで御迷惑をおかけしていたら申し訳ない、と……」


侯爵がルイを見据える。

ルイは無意識に唾を飲み込んだ。

侯爵が口を開く。


「先程も言った通りだ。何の迷惑もかかってはいない。むしろその噂を利用させてもらっているからな」

「そうですか」

「その旨も手紙には書いておこう」

「ありがとうございます」

「ロラン殿も水臭い。親戚になるのだからこんなこと迷惑にも思わないのにな」


ロランは父の名だ。


「本当よね。もう長い付き合いだし、これからも長い付き合いになるというのに」


侯爵夫人までそう言ってくれる。

迷惑になっていないという言葉に嘘はなさそうだ。


「ありがとうございます」


一先ずほっとしていいだろう。

少しルイが肩から力を抜いた時、侯爵がぽつりと言った。


「シアン・ヴァーグ侯爵令息」


ぴくりと反応してしまう。

シアン・ヴァーグ侯爵令息のことも書いてあったか。

まあ、それはそうか。報告しないわけにはいかない。

しかしほっとしたところで放り込んでくるとは。

やはり油断ならない。


「申し訳ありません。父も兄もかなり突っぱねたようなのですが、力及ばず……」

「仕方ない。相手は格上の侯爵家だ。そのうえ責任を持ち出されればなかなか断るのが難しいだろう。それに、」


にやりと侯爵が笑う。


「婚約を解消しなけば済むだけのことだ」

「そうよ。それだけのこと」

「ええ。お兄様がお義姉様を手放すはずがありませんわ」

「勿論我が家としてもだ」

「ありがとうございます」


エドゥアルトがアンリエッタを手放さないことはほぼ確定事項だったが、シュタイン侯爵家としてはどうか、一抹の不安はあった。

よほどのことがない限りこの婚約は覆らないとはいえ。


だが当主が家としてもアンリエッタを手放す気はないと明言してくれたお陰で杞憂だったとすることができる。

想定以上にアンリエッタは可愛がられている。

これなら嫁いだ後も大丈夫だろう。


ルイがひっそりと安堵していると侯爵が何やら力を込めて言う。


「そもそも見ただろう、あの独占欲丸出しのリボンを」

「ええ、見たわ」


侯爵夫人も重々しく頷く。


「ええ、見ましたわ。何ですの、あれは。お義姉様はお優しいから身につけてくださっていますが、あそこまで寸分狂いなくご自分の瞳と髪の色のリボンはさすがに気色悪いですわ」


エヴァは淑女らしくなく顔を嫌悪に歪めている。


家族に散々な反応をされている。

だが、エドゥアルトに贈られたリボンがアンリエッタの心を守っていることをルイは知っている。

いつもエドゥアルトに贈られたリボンを身につけていることからもそれが窺える。


だからルイはエドゥアルトのリボンじゃなくて自分が贈ったリボンをつけてとは言わないのだ。

一緒でいいから、と言ったのはルイも味方だと伝えたいがためだった。

せめて傍にいられない時でもアンリエッタの心を守りたかったから。


ただルイとしてもあれだけ自分の色を再現させているリボンはさすがに引くが。

あれはさすがに国でも身につけてはいなかった。

ルイもさすがにあそこまで自分色のものは贈っていない。


エヴァは嘆息して言う。


「わたくしも婚約者の色を(まと)うことはありますが、あそこまで彼色なことはありませんわ」


確かにこの国でも婚約者の色を纏ったり、色を合わせたりすることは一般的だとは聞いたことがある。

だからこそエドゥアルトも自分の色の入ったリボンをアンリエッタに贈ったのだろう。


家族にもドン引きされるほどのリボンを身につけるアンリエッタが心配になる。

後で一応一言言っておいたほうがよさそうだ。


この国では婚約者の色を纏うのは当然だよ、と丸めこまれかねない。

友人に会えば指摘されて必ずしもそうではないと気づくかもしれないが、微笑ましく見られて何も言われないかもしれない。


「リボンだけというのが余計に独占欲を感じさせるな」

「いえ、全身自分の色を纏わせるほうが独占欲が強くありませんか?」


思わず口を挟む。

侯爵が少し考え、かぶりを振る。


「いや、(かえ)ってリボンだけというのが目を引く」


侯爵夫人とエヴァも頷く。


今日のドレスはアンリエッタがマリーと相談して選んだものだから全身婚約者色にならなかっただけではないだろうか。

エドゥアルトが準備したドレスなど下手したら全身あの男色になってもおかしくはない。


「エッタはあのリボンをつけることに抵抗はないのか?」

「エドゥアルト様から贈られたリボンを姉は毎日つけていますね。今日のリボンは初めて見るものですが」


訊かれなければ言うつもりはなかった。

エヴァが視線を斜め上に投げて思い出したように言った。


「そういえばお兄様は何本もリボンを贈っていましたね」

「ええ。姉上も嬉しそうにしていました」


嘘ではない。


「それならいいが」

「エッタがアルトを好いて受け入れてくれているのは有り難いわ」


何やら侯爵夫人が言い淀んだような気がした。


「大丈夫ですの? お義姉様は学院で(わら)われてません?」


エヴァは心配そうだ。

ちらりと見てみれば侯爵と夫人も同じような心配顔だ。

本気でアンリエッタのことを想い心配してくれているのが伝わってきた。


しかしここでは告げておかねばなるまい。

ルイは貴族的な微笑みを浮かべて告げる。


「実は今、我が国ではこっそりと婚約者の色を入れたリボンで髪を結うことが流行っていまして」


それに反応したのはエヴァだ。


「ああ、聞いたことがありますわ。最近そちらの国では婚約者の色を密かに入れたリボンを婚約者から贈られて身につけるのが流行っていると噂になっていますわ」

「ええ、その通りです」


侯爵がはっとした顔をする。


「まさか……」


侯爵の言葉にルイは頷く。


「ええ、流行の火付け役は姉上です」


婚約者に贈られたものを身につけたい。

婚約者に自分の色が少しでも入ったものを身につけてもらいたい。


その想いを体現していたからこそ流行しているのだと思う。

案外、と言っては何だがお互いを想い合っている者たちが多いということなのだろう。


「まあ!」


思わずといった様子で声を上げたのはエヴァだ。

侯爵と夫人は頭の中で想像しているのか顔を引きつらせている。


今の話の流れでは今日アンリエッタがつけていたようなリボンを身につけていると思われたと推察される。

誤解は解いておかなければ。


「さすがに学院では婚約者の色そのままのリボンをつけるのは婚約を(おおやけ)にしている者くらいで、婚約者と自分の色を組み合わせるのが主流ですね」


それでも学院につけてくるのはあくまでも似た色のものだ。

そのままの色をつけてくるのはよっぽどの強者だ。


だが領地に向かう途上、ミシュリーヌがしていたのは兄色のリボンだった。

案外、領地や婚約者の家では同じように婚約者の色を纏っている者は多いのかもしれない。


我が国では婚約を発表していない限り、結婚した後でなければ相手の色を堂々と纏うことはない。


「まあ、でもそちらとエドゥアルトのは違うだろう。そちらのはささやかな表明というところではないか?」

「……そうですね」


全面的に同意できないのがつらい。

そうだろう、そうだろうと侯爵は満足そうだ。

エドゥアルトのはいきすぎた独占欲だとしたいようだ。

実の息子のはずなのだが。


いや、先程婚約者の色のリボンを批判したからだろう。

我が国の流行にケチをつけたのではなく、あくまでもエドゥアルトの独占欲に引いただけ、と主張したいのだ。

というか、それが事実だろう。


ふと侯爵が難しい顔になる。


「しかしそれでは婚約者に勘づく者も出てくるのではないか?」

「あくまでも似た色ですし、全部が自分の色でなくていいのです。大事なのは自分の贈った自分の色の入ったリボンを婚約者が身につけてくれることなので」


いかにバレないようにさりげなく自分の色を入れられるかが腕の見せ所だと婚約者のいる友人は言っていた。

彼女の色の傍に自分の色を置けたらなおいい、とも。


結局のところ、婚約者に自分の色を入れたリボンを贈り、婚約者がそれを身につけるということは、二人の仲が良好でもあるということなのだ。


密かな顕示欲。

我々の仲には入れないとの宣言とも取れる。

婚約者は自分だというささやかな表明。


バレたらバレたでいいと思っているのかもしれない。


「なるほど」


侯爵が頷く。


「ふふ、どこの国でも同じね」


侯爵夫人がどことなく楽しそうに言う。

ごほんと侯爵が空咳をする。


「お父様もお母様も社交の場ではお互いの色をどこかに入れてますものね」

「普段からよ、エヴァ」

「そうでしたね」


またごほんと侯爵が空咳をする。


「言っとくが、私はアルトほどではないからな」

「ええ、わかっているわ」

「ええ、承知していますわ」


夫人もエヴァも楽しそうな笑顔だ。

女性二人を前にすれば侯爵もさすがに勝てないようだ。

分が悪くなった侯爵はルイに視線を向け、強引に話を戻した。


「もともと我が国では隠していないのだから、いざとなったらうちのほうは公表して構わない、とロラン殿に伝えてほしい」

「承知しました」


もともと我が国で公表していないのは、我が家の、というより我が国の事情だ。

それだけ暗黒時代の傷が深いのだろう。


それに婚約者が隣国の者だと知られれば、婚約者が近くにいないから、と侮ったり、ちょっかいをかけたりする者が出てくる懸念もあった。


だがここに来て事情が変わってきた。

隠しているほうが危険だと判断すれば公表することになる。


我が国の事情で我が国では公表していなかったのだが、侯爵は言葉にしてきちんと許可を出してくれた。

有り難い。


感謝を込めてルイは深く頭を下げた。


読んでいただき、ありがとうございました。


侯爵家の家名が間違っていました。訂正しました。申し訳ありません。

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