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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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48/90

35.隣国での滞在先は叔父の屋敷です。

少し短めです。

次の日は朝早くに辺境伯家を発った。

ロジェが馬に乗って国境近くまでついてきてくれた。

検問所で通行手形を見せて、軽く馬車の中を(あらた)められ、入国の許可が下りた。


「アン、気をつけてな。何かあったらすぐに連絡してくれ。それと、帰りには必ず寄ってくれ」

「わかったわ」

「ルイもアンを頼む」

「当然」


そこでルイにアンリエッタのことを頼まなくてもいいと思うのだが。

しかしルイもロジェも当然のこととしてやりとりしている。


もう少し信用してほしい。

それにいつまでも弟に頼るわけにはいかないのだ。

ルイの姉離れと同時にアンリエッタもしっかりと弟離れしなければならない。


決意を胸に仕舞ってアンリエッタはロジェに声をかける。


「ロジェも気をつけて帰ってね」

「ああ」


ロジェに見送られてアンリエッタたちの乗った馬車は国境を越えた。

国境を越える前も越えた後も森が続いている。


アンリエッタたちは国境を越えてから言葉を隣国の言葉に切り替えた。

アンリエッタやルイだけではなく、マリーやリュカも隣国の言葉が話せる。

だから隣国の言葉に切り替えても問題はない。

マリーはアンリエッタに付いてきてくれるため、リュカもルイに付き従うには必要ということで共に覚えてくれたのだ。


今回目指すのは王都だ。

比較的リーシュ寄りに王都があるとはいえ、馬車で五日の旅だ。

のんびりと馬車に揺られながらもこれからの予定の確認やら勉強やらに余念がない。

滞在できる日数は限られているのだから使える時間は一分でも無駄にはできないのだ。




*




順調に馬車は進み、予定通り五日で王都に着いた。


エーヴィヒでのアンリエッタたちの滞在先は外交官として赴任している叔父の屋敷だ。

大使の下に何人もの外交官や事務官が赴任しているが、その多くは大使の屋敷の庭に建てられた官舎に住んでいる。

だが叔父は外のほうが情報が集めやすいと、官舎ではなく外に小さな屋敷を借りていた。

この国に親戚や友人のいる叔父は彼らが気軽に訪ねて来られるようにしておいたほうがいろいろと話を聞けると言っていた。




「やあ、アン、ルイ。元気そうでよかった。疲れただろう、中にお入り」


叔父が笑顔で出迎えてくれた。


「叔父様お久しぶりです。お元気そうでよかったですわ」

「叔父上、変わりはない?」

「積もる話は腰を落ち着けてからにしよう」

「はい」


叔父について屋敷内に入る。

荷物はマリーたちに任せて叔父とともに腰を落ち着けたのは家族用の居間だ。

アンリエッタはルイと並んで叔父の対面に座っている。


「改めて、よく来たね。会えて嬉しいよ」

「叔父様、お世話になります」

「ああ、そういう堅苦しいことはいいから」


叔父は苦笑して手を振る。


「はい」

「それより最近はどうだい? 面倒なことに巻き込まれているって聞いているけど」


叔父の言葉にルイがすっと懐から手紙を取り出した。


「父からこれを」


ルイが手紙を叔父に渡した。


「ありがとう」

「読んだら燃やすように、と」

「ああ、わかったよ」


叔父が手紙を懐に仕舞う。


「後で確認する」


重要な内容の手紙なのだろう。ルイがはっきりと頷く。

アンリエッタには何も知らされていない。


「最近の姉上のことが書かれているんだ」


こそりとルイがアンリエッタに囁く。

つまりは第一王子の件ということだ。

叔父はラシーヌ家の者なので教えることに何の問題もない。

ただ他の者に知られるわけにはいかないので読んだら燃やせということなのだ。


アンリエッタは浅く頷く。

情報の共有は大切だ。

それに一方的に想いを寄せられているということになっているが、曲解されて浮気している、とこちらの国まで噂が流れてくるかもしれない。

正確な情報なしでは対処できない。


叔父は侍女が淹れたお茶をゆったりと飲む。

ティーカップを置いて改めてアンリエッタとルイを見た。


「二人ともしばらく見ないうちに成長したね。もう立派な淑女と紳士だね」

「ありがとうございます」

「姉上に恥を掻かせるわけにはいかないからね」


本当にルイはぶれない。


「ルイ自身のためでしょう。それと家のため」


こそりと注意する。


「ううん。姉上と一緒にいる僕が礼儀知らずだと姉上まで恥を掻くでしょう? だから頑張ったんだよ」


そこはどうしても譲れないところのようだ。


「……そう。ありがとう、ルイ。貴方はいつでも紳士だわ」


ルイは嬉しそうに微笑(わら)う。

結局、これも甘やかしになるのだろうか?

うんうんと叔父は満足そうに頷く。


「アンもルイも立派になって本当に嬉しいよ。兄上や義姉上、エドも元気かな? 父上や母上も」

「はい、皆元気ですよ」

「それはよかった」


叔父は一口お茶を飲む。


「エドとミシュリーの仲も順調かな?」

「兄上はミシュリーを溺愛しているよ」

「それは重畳」


叔父が満足そうに微笑(わら)う。


「私は結婚なんて考えてないからね。兄上のところに立派な子供が三人もいるしエドは婚約者との仲も良好。私が結婚しなくても問題ないから有り難い」


叔父は女性不信気味だ。

外交官という職業柄か色仕掛けとかいろいろあったらしい。

詳しくは知らないけれど。

聞けるような雰囲気ではない。


叔父が普通に接することができるのは身内と長く仕えている使用人くらいだ。マリーも平気だ。この屋敷にいる女性使用人は全てラシーヌ家から連れてきている。

仕事だと割りきれば普通に接することはできるようだが。


叔父の言う通り、ラシーヌ家の後継には兄もいるし、ルイもいる。無理に結婚する必要がないのは(さいわ)いなのだろう。

これ以上女性不信をこじらせてはまずいと祖父母も叔父の結婚については何も言わない。

後継がいるからこそできることだが。


「僕も兄上をけしかけないと」


ルイがぼそりととんでもないことを呟いた。


「ルイ」


(たしな)めるように呼ぶと無害そうな顔でアンリエッタを見る。

その後ろでリュカが無言で首を振っている。

ここで追及しても無駄だということだろう。


帰ったらミシュリーヌに伝えておこう。

兄に伝えていいか迷うが、必要ならミシュリーヌが言うだろう。

あとは念の為両親にも。


うっかり忘れないようにしないと。

後でマリーとも情報を共有しておこう。

言っておけば侍女長にも伝えてくれるはずだ。

マリーは部屋を整えてくれているためこの場にはいない。


リュカも家令に報告してくれるだろう。

ちらりと彼を見れば小さくだがはっきりと頷いてくれる。


三人で情報を共有しておけば、誰かは覚えているだろうし、それぞれが適切に伝えておけばルイの暴挙も兄の暴走も防げるだろう。


「ルイ」


叔父がルイを呼ぶ。

一瞬叔父がルイを窘めてくれるかと期待した。

だが、叔父は真面目な顔でルイに助言する。


「さすがに学生のうちはやめておきなさい。醜聞にでもなればエドが後継を外され、ルイにその座が回ってくるよ」


ルイは真剣な顔で頷く。


「なるほど。そこまで考えてなかったよ」


……まさか叔父も同じことをしたのだろうか?

だとしたら女性不信は仕事柄というより、もっと前からだったのだろうか?

叔父の傷に触れないようにと聞かないで来たが、後でこっそり祖父母に確認しておいたほうがいいのだろうか?


真剣に話し合いをしている叔父とルイをぼんやりと眺めながら思う。

それほど根深い女性不信なら叔父はもう一生結婚はしないだろう。


だがルイは。

いつかルイにも一生を共にしたいと思える相手との出会いが訪れるといい。

そして幸せに生きていってほしいとアンリエッタは密かに願った。



読んでいただき、ありがとうございました。


誤字報告をありがとうございました。修正してあります。

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