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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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30.第二王女殿下にお呼ばれしました。

夏休みまであと一週間を切った休日、アンリエッタはミネット様からお茶会の招待を受けた。

参加者はアンリエッタだけだから気楽に来てほしい、と言われて今日、王宮のミネット様の部屋に来ていた。


「ようこそアンリエッタ。待っていたわ」

「御招待いただき、ありがとうございます、ミネット様」


ゆったりとカーテシーをする。


「もう。わたくしたちの間でそういう堅苦しいことはなしよ」

「ふふ、ありがとうございます、ミネット様」


そうは言われてもある程度の礼儀は必要だ。

ミネット様が少し拗ねたようにアンリエッタを見て、それから顔を(ほころ)ばせた。


「あら、そのブローチ、可愛いわね」

「ありがとうございます」


今日のアンリエッタの服装は青地に白いレースをあしらったドレスだ。そこに(みどり)眼の黒猫のブローチをつけている。アクセサリーはエメラルドで揃えた。

黒猫のブローチをつけたのはちょっとした遊び心だ。


「ふふ、わたくしたちみたいね」

「失礼ながら見つけた時にミネット様だと思いましたの」


さすがに琥珀色の眼ではなかったが、王族特有の琥珀色は滅多なものに使えるものではないのだ。

似た色の金色は金髪の者もいるので問題なく使える。


「失礼なんてとんでもない。嬉しいわ」


本当に嬉しそうにミネット様は微笑(わら)ってくださる。

それが嬉しくてアンリエッタも微笑む。


「ミネット様のリボンも素敵ですね」


ミネット様の髪には(みどり)色の地に金色の縁取りがされたリボンが結ばれている。

黒髪にそのリボンは華やかでよく似合っていた。

言うまでもなくアンリエッタの色だ。


「ありがとう。アンリエッタも気に入ってくれた?」

「ええ。嬉しいですわ」


その歓迎してくださる気持ちが嬉しい。


ミネット様が控えている侍女に目配せする。

一礼した侍女が一度下がり、すぐにリボンのかけられた小袋を持って戻ってきてミネット様に差し出す。

それを受け取ったミネット様がその小袋をアンリエッタに差し出した。

アンリエッタは小袋を受け取った。


「開けてみて」

「はい」


言われた通りに開けると、中には今ミネット様が髪に結んでいるのと同じリボンが入っていた。


「わたくしとお揃いになってしまうけれど、それでもよければもらってくれると嬉しいわ」

「ありがとうございます。嬉しいです。大切にしますね」

「気に入ってくれたならよかったわ」


ミネット様のお揃いのリボン。

それを許されるということは友人になれたことの何よりの証だった。

それが嬉しい。


アンリエッタがにこにこと微笑(わら)っているからか、ミネット様も嬉しそうな笑顔になった。

それからテーブルセットのところに招かれる。


「いつまでも立たせてしまってごめんなさい。どうぞ座って?」

「ありがとうございます」


ミネット様が座られて、その対面にアンリエッタも座った。

ミネット様の合図ですぐにお茶とお菓子が饗される。


「どうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」


促されたアンリエッタはティーカップを持ち上げ、ゆっくりと中身を口に含んだ。

飲み込んでから口を開く。


「何とも爽やかな香りと味ですね。わずかに甘さも感じます。花をお茶に混ぜてありますか?」

「ええ、そうよ。マンサーナという花が混ぜてあるわ。どこの国のものかわかるかしら?」


ミネット様は悪戯っぽい笑顔だ。


「フロールでしょうか? 確かあの国ではお茶に花を混ぜる風習があったかと思います」

「ええ、その通りよ。お菓子もどうぞ」

「いただきます」


ぼったりとしたバタークリームを使ったケーキだ。

フォークを手に取り、ケーキを一口切って口に運ぶ。

その軽い口当たりに驚く。

見た目と食感が違う。


思わず目を丸くしたアンリエッタに、悪戯が成功した子供のような微笑()みをミネット様は浮かべた。


「驚いたかしら?」

「はい、驚きました。見た目と違ってとても軽い口当たりで。ですが、とても美味しいです」


もう一口食べてお茶を飲む。


「お茶とお菓子がお互いの良さを引き立て合っていますね」

「ふふ、気に入った?」

「はい。とても美味しいです」


ミネット様が嬉しそうに微笑(わら)う。


「よかったわ。それにしてもお母様がアンリエッタは舌が確かだとおっしゃっていたけれど本当ね」

「光栄です」


アンリエッタも微笑んだ。

お菓子を一口食べてお茶を飲んだミネット様が頬を緩める。


「やっぱり美味しいわね。わたくしのお気に入りなの」

「お気持ちわかります。とても美味しいですもの」

「やっぱり。アンリエッタならわかってくれると思ったわ」


ミネット様は嬉しそうに微笑(わら)った。

……誰かに何か言われたのだろうか?


「きっとわたくしたちは食の好みが似ているのでしょうね」

「ああ、そうかもしれないわね。ふふ、それもいいわね」

「はい」


ミネット様がどこか吹っ切れた様子を見せた。

やはり誰かに何かを言われたのだろう。

楽しそうな様子にほっとする。


ミネット様はお茶を一口飲んで話題を変えられた。


「アンリエッタは夏休みはどうするの?」

「領地に行きます」

「婚約者のところは?」

「ええ、勿論行きますわ」


この長期休みの時が、婚約者は誰かなどという情報を得やすい時期である。

嫁入り・婿入りする者たちが相手の領地に赴き、領地のことや領政について学ぶことが多いからだ。


動向を探れば知ることができることも充分有り得る。

そのため目眩(めくら)ましのために友人のところを訪れることも多い。


それが(わずら)わしくて婚約を公表している家もある。

ただ婚約を公表すると横槍を入れられたりすることもあり、別の煩わしさがあるのも事実だ。


「そう。やはり夏休みの間は会えそうにないわね」

「ミネット様も御公務でお忙しいのでは?」

「そうだけれど、友人と会えないほどではないわ」

「そうなのですね。お会いできなくて残念ですわ」


それはアンリエッタの本心であった。


「手紙のやりとりくらいは大丈夫かしら?」

「ええ、大丈夫ですわ。ただ、日数がかかってしまうかと思いますが」


領地に届いたものならば、さらにそこからアンリエッタのもとまで送ってくれるだろう。

問題ない。

念の為、家令に言付けておこう。

ただ、その分余計に日数はかかってしまう。


「まあ、それなら待つ楽しみができるわね」


ミネット様は前向きだ。


「その考えは素敵ですね。わたくしもミネット様からのお手紙を楽しみにしています」

「お土産話も楽しみにしているわね」

「はい」


お土産話と言えばとアンリエッタはお土産繋がりで言っておこうと続けた。


「夏休みは隣国の親戚のところにも行きます。ミネット様、お土産も楽しみにしていてくださいね」


こう言っておけば、ここにアンリエッタのことを探る人間が紛れ込んでいても目を(あざむ)くことができるだろう。


「まあ。楽しみだわ。あ、一つお願いしてもいいかしら?」

「何でしょう?」

「あちらの言語で書かれた本が欲しいの。頼めるかしら?」

「勿論ですわ。どのようなものがよろしいでしょうか?」

「そうね、迷うわね」

「すぐに決められないようでしたら手紙で知らせてくださっても構いませんよ」

「そうしようかしら。ああ、でもアンリエッタのお勧めの本もあると嬉しいわ」

「わかりましたわ。ミネット様が楽しめそうな本を探してみますね」

「ええ、楽しみにしているわ」


これは心して探さなければならない。

下手な物は贈れない。

エドゥアルトやおばたちにも相談してみよう。


アンリエッタがそんなことを考えていると、ミネット様が頬に手をあててほぅっと息を吐く。


「でも羨ましいわ。わたくしも外国に行ってみたいわね」


安易に何か言えない。


アンリエッタは隣国に親戚がいるから隣国に行く機会に恵まれているが、貴族はそう簡単に外国には行けない。

王族は尚更だろう。

特に王女であるミネット様はよほどのことがなければ外国にはいけない。行けたとしても自由に歩き回ることはできないのだ。

外への憧れが強いミネット様だ。余計に窮屈に感じられているかもしれない。


安易に隣国に行くなどと言わないほうがよかったかもしれない。

アンリエッタに配慮が足りなかった。

だがここで謝罪するわけにもいかない。


「ふふ、アンリエッタは賢いわね」

「ミネット様?」

「ここで安易な言葉を言わないのがいいわ」

「……恐れ入ります」


アンリエッタは軽く頭を下げた。


「ふふ、先程の言葉は困らせたわね。気にしないでちょうだい。隣国では楽しんできてたっぷりとわたくしにお土産話を聞かせてね」

「はい」


ミネット様に楽しい土産話と土産を持ち帰ってこよう。

アンリエッタは密かに決意した。




ミネット様はお茶会で飲んだお茶の茶葉をお土産に持たせてくださった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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