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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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29.馬車の中で話し合います。

今回は短めです。

第一王子の前を()して迎えに来ていたラシーヌ家の馬車に乗り込む。

ここまでお互いに無言だった。

馬車が走り出してからルイに訊かれる。


「それで姉上、お昼にベルジュ伯爵令嬢を見ていたのはどうして?」


昼食の時のことを訊かれて驚く。

さすがにあの時には訊けなかったのだろう。

だが隠すほどのことでもない。素直に答える。


「彼女のことを何も知らないと思ったのよ」

「別に知らなくていいんじゃないかな」


ルイはいっそ冷淡とも言えそうなくらい素っ気なく言う。

だが知りたいのにはきちんと理由がある。


「でもわたくしに執着する理由が知りたくて。それと、卒業したらどうするのかしら? と思って」

「普通の人なら姉上が魅力的過ぎるからって答えられるけど、彼女は、何かありそうな気がするね」


姉馬鹿な発言の部分はとりあえず流しておく。


「全面的には信用はできないわね。彼女は"東"だもの」

「ほんの少しだって信用したら駄目だよ」


ルイに圧をかけられる。


「ええ、そうね」


……少し(ほだ)されていたかもしれない。

ベルジュ伯爵令嬢は友人でもなければ、利害の一致を見せている相手でもない。それどころか"東"の人間である。信用してはいけない相手だ。


「姉上、もう一度気を引き締めて? ベルジュ伯爵令嬢を信用したら絶対に駄目だからね?」

「ええ」


ルイの目を見てはっきりと頷いた。


「姉上は優しいから心配だよ」

「お人好しになった覚えはないわ」

「うん、姉上はお人好しなんかじゃないよ。ただ優しいだけだ」


(たい)して変わらない気がする。

だがルイの中では明確に分かれているのだろう。


「だからこそ厄介や奴らに目をつけられて(まと)わりつかれているんだよ」


それは、アンリエッタの脇の甘さのせいだろう。


「ごめんなさい……」


ルイが驚いたように目を見開く。


「どうしたの? 姉上が謝るようなことは何もないよ」

「わたくしが見くびられているから利用できると思われているのよ」

「そんなことないよ。実際、利用できているのは、盾としてだけだ」


今、馬車にはマリーもいる。


第一王子との約束を破ることにはなるがマリーには他言無用として全て話してあった。

知らないことで守られることもあるだろうが、知っているからこそ守れることもある。


第一王子は使用人のことまでは考えていなかっただろう。

もし万が一、あり得ないと思っているが万が一、マリーから情報が()れたとしてもそれは主人であるアンリエッタの責任だ。


「でも見くびっていなければ恋人の友人の打診とか、押しかけ友人とか、手紙のやりとりがしたいだなんて言われないでしょう」

「押しかけ友人……」


その言い方が可笑(おか)しかったのか、ルイが口許を手で覆って笑う。

ひとしきり笑った後で何もなかったかのような顔で口を開いた。


「それは、姉上が素晴らしいからだよ」

「ルイ、それは違うと思うわ」

「事実だよ。そうでなければ利用するだけだ。今のこの状況で友人になりたいなんて向こうにとっても不利益なほうが多い」

「……不利益が多いのは認めるわ」


事実、ベルジュ伯爵令嬢は"東"の中で孤立しているようだ。

他の地域にしてもそんなベルジュ伯爵令嬢に手を差し伸べるほどの友人はいないようだ。

最近見るベルジュ伯爵令嬢はいつも一人だ。


アンリエッタが一部納得したとみるやルイはさっと話題を変えた。


「それと、殿下のことだけど、」

「何故手紙のやりとりなんて言い出したのかしら?」


ルイが殿下といったことで先程のやりとりが頭に甦った。

あの時も何故急にそんなことを言うのだろうと思ったのだ。


今まで当然ながら手紙のやりとりもしていないし、そんな話が出たこともなかった。

夏休みに入るとはいえ唐突な印象は拭えない。


ルイの眉根が少し寄る。


「あんなにしつこくやりとりしたいと言うなんて殿下も何を考えておられるのか」


それには深く頷く。


「わたくしは彼女とも殿下とも友人ではないのに」

「そうだね」


ルイは少し考えるかのように黙る。

それから真面目な声で言った。


「殿下は姉上がベルジュ伯爵令嬢と友人になったと思って姉上と手紙のやりとりがしたいと言い出したのかもしれないよ?」

「わたくしからベルジュ伯爵令嬢のことを聞きたくて?」

「それと橋渡ししてもらいたいとかもあるかもしれない」


アンリエッタはぱっと扇を広げて顔を隠す。

思わず顔をしかめてしまったのだ。

淑女にあるまじきことだ。


「姉上、別に隠さなくていいよ。今は僕たちしかいないから」


馬車の中にはアンリエッタとルイとマリーしかいない。


アンリエッタはそろそろと扇を下ろした。

きちんと表情は整え直してある。


「もしそうなら迷惑だわ」


何事もなく話を続ける。


「本当にね。まあ、どちらも無理だけど」

「前提が成り立っていないもの」


ルイも頷く。

それとは別の可能性も頭をかすめる。


「でも、」


先程の第一王子の演技を思い出す。

あれは真に迫っていた、気がする。


「片想いの相手に手紙を送るのは、あり得ることね」


実際に送ってくることはなく、ただそう懇願した演技だった可能性もあるのだ。


「それに返事を返さないこともね」

「失礼にならないかしら?」

「手紙を返したかどうかなんて本人が吹聴しなければわからないよ。殿下はさすがにそんなことしないでしょ」

「それは、そうね」

「だからね、」


ルイは真面目な顔でアンリエッタに言う。


「噂を助長させないためにも姉上は殿下に愛想よくしなくていいから」

「愛想よくなんてしていないわ。微笑みは淑女の(たしな)みよ」

「うん、嗜みの微笑みはいいけど気遣いとか本当にいらないから」


アンリエッタはきょとんとしてしまう。


「した覚えはないけれど」


ルイがきゅっとアンリエッタの手を握る。


「姉上の優しさは本当に美点だと思うけど、そんなに振り撒かなくていいから」


ちょっと言っている意味がわからない。


「ルイ?」


困惑してルイを見て首を傾げる。


「姉上の優しさは身近な者たちだけに向けておいて」

「勿論、そのつもりだけれど」


アンリエッタは博愛主義者ではない。


「よかった。約束だよ?」

「え、ええ」


ルイから何故か圧を感じ、内心で困惑しながらアンリエッタは頷いた。

それにルイが満足そうに微笑(わら)う。

何か対応を間違ったかもとアンリエッタは今更ながら心の中で冷や汗を流した。


読んでいただき、ありがとうございました。

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