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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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幕間 馬車の中

今回、短めです。

ラシーヌ家の屋敷からボワ辺境伯家王都邸に向かう馬車の中でロジェとエドゥアルトは対角に座っていた。

デザイナーは二人の付き人と共に後ろの馬車に乗っている。


夜闇に紛れたほうが顔を見られずに済むとの屁理屈のままごねられ、夕食を取ってからの帰宅となった。

当然辺りは夜の闇に覆われている。


エドゥアルトの顔には笑みが一切浮かんでいなかった。

夜目の利くロジェには馬車の外から入る(わず)かな明かりでもエドゥアルトの表情がよく見えた。


「ロジェ、何かわかったら連絡くれるよう騎士たちに頼んでいたでしょ? 連絡来たら僕にも教えて」


低い声でエドゥアルトが言う。


「様子を見るんじゃなかったのか?」


エドゥアルトが冷笑を浮かべる。


「僕が様子を見ると言ったのはあくまでも、第一王子殿下とその恋人、エスト公爵令嬢に関してだけだよ」


ロジェは溜め息を押し殺す。

よりによって、という時期ではあった。

普段、この国にはいないエドゥアルトがいる時とは。


勿論、アンリエッタを助けられたからいなければよかったとは言わないが。

面倒なことではある。


国を乱すわけにはいかないのだ。

できればエドゥアルトを介在させずに処理をしたい。


まだ目的も何もわかっていない状況なのだ。

個人的な恨みか、もっと根深い何かか。

それを受けて対応しなければならない。

それをエドゥアルトに邪魔されたくはなかった。


「動くなよ?」

「リエッタに危害を加えようとした者を許すわけないでしょ」


いっそ冷気でも垂れ流していそうな表情(かお)でエドゥアルトは当然という声で言う。

絶対にアンリエッタには見せない表情だ。


当然ロジェも許すつもりはない。

"西"の宝は姫様であるシュエット・ウェスト公爵令嬢だが、"西"の辺境伯家の宝はアンリエッタとその母親であるアレクシアだ。


辺境伯家では何故か女児が生まれにくい。

従兄弟は全員男だし、父の兄弟もアレクシア以外はみんな男だ。

だからこそ生まれたらそれはそれは大切にするのだ。


アンリエッタもアレクシアも知らないことだ。

過保護なのは女だからだと思っているに違いない。


辺境伯家に嫁いできた女性たちには別に過保護でも何でもない。

むしろ彼女たちもそれに不満はなく何故か辺境伯家の宝への過保護側に回る。


「ロジェだって人のこと言えない顔しているよ?」

「当然だろ」


許すという選択肢は最初から持ち合わせていない。

だがロジェは辺境伯家の人間だ。

国を揺るがすことは看過できない。


「だがそれとこれは別だ。お前は手を出すな」


ロジェを見るエドゥアルトの表情は冷ややかだ。

その程度でロジェは(ひる)んだりはしない。


「お前に動かれると邪魔なんだよ」

「邪魔するつもりはないよ?」

「どうだか」

「リエッタを誰がどんな目的と理由で害そうとしたか知りたいんだよ」

「知るだけで気が済むのか?」

「まさか」


即答される。

ロジェは冷ややかな表情でエドゥアルトを見る。


「それで教えると思うのか?」

「え、教えてくれるでしょ?」


何故当然というように言うのかわからない。

昔からエドゥアルトの思考は読みにくい。

アンリエッタのことを中心に()えているからその点を考慮すればある程度は推測できるが、時折突拍子もなく暴走するので読みにくいのだ。


「教えるかよ」


エドゥアルトは首を傾げた。

不思議そうにされる理由がわからない。


「ロジェは国を乱しさえしなければ、犯人がどうなろうが構わないんでしょ?」

「まあな」


あくまでも国の平穏のためにエドゥアルトを止めているだけであり、犯人の処遇に待ったをかけているわけではない。


「ならいいじゃない」

「いや待て、何が、なら、だ」

「うん? なら教えてくれるでしょ」

「言い方を変えても同じだからな? 教える理由にはならない」

「別に国を乱すつもりはないよ?」


疑わしい。


「リエッタとの婚約が揺らぐようなことはさすがにするつもりはないよ。だからこその"様子見"なんだから」


"様子見"というのも不本意ではあるのだろう。

アンリエッタは安堵しただけだったようだが、ロジェは意外に思った。恐らくエドワールやルイもだろう。


自分の気持ちとアンリエッタとの将来を天秤にかけてアンリエッタとの将来を取ったということか。


アンリエッタとエドゥアルトの婚約は政略的なものだが、お互いに相手を想っている。

だからこそその婚約が揺るがないように、傍若無人に見えて慎重に動いているのだ。

許可が出れば容赦はしないが、それまでは頼まれた通り静観するつもりなのだろう。


……まあそれもアンリエッタがひどく傷つけられるようなことがあれば別なのだろうが。

その時はどんな手を使ってでも許可をもぎ取るだろう。


その真意を確かめるためにじっと見る。

アンリエッタとの婚約が揺らぐのが嫌なのは本心だろう。

国を乱すつもりはないというのも信じたいが、どうだろう?


「リエッタの暮らす国だよ? 乱すはずがないでしょ。リエッタが平穏に暮らせなくなっちゃうようなことはするつもりはないよ」


アンリエッタを行動の真ん中に置いているエドゥアルトらしい。

それを信じてやりたいが懸念も残る。

暴走すると厄介なのだ。

主犯と理由によっては暴走の危険がある。


今日のアンリエッタの件と一緒にエドゥアルトのことも姫様に報告しなければならないかもしれない。

ウェスト公爵家はラシーヌ家とシュタイン家の婚約関係を知っており、姫様もアンリエッタとエドゥアルトのことはご存知なのだ。


第一王子との件があり、姫様はアンリエッタの安全を気にかけてくださっている。

万が一のことを考えれば報告しておいたほうがいいだろう。


あとはエドゥアルトに情報を与えていいのかどうかだ。

エドゥアルトは少し首を傾げてロジェを見ている。

何故頷かないのかという様子だ。


「僕は別に独自に調べてもいいんだよ?」


さりげなく脅しをかけられている。


「……わかった。だから余計な手出しはするなよ?」


エドゥアルトはにっこりと微笑(わら)う。


「国を乱すようなことはしないよ」

「それだけは守れよ?」

「勿論」


ロジェは溜め息を(こら)える。

姫様には要報告だな。


「手の届く範囲に入ったら容赦はしない」


暗く響いたその声には聞こえないふりをした。

エドゥアルトの言う通り、国が乱れさえしなければ、犯人がどんな目に遭おうとロジェにはどうでもいいのだから。


読んでいただき、ありがとうございました。

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