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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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24.昼食はギスギスしています。

今日もアンリエッタたちの昼食にちゃっかりベルジュ伯爵令嬢は紛れ込んでいた。

最近よくあることだ。

そして毎回同じやりとりが繰り返される。


「何で貴女はここにいるのかしら?」


ミシュリーヌが冷ややかな声で言った。


「そんなに邪険にしないでください。一緒にご飯を食べたいだけです」

「わたくしたちの迷惑を考えないのかしら?」

「迷惑、ですか?」


少し首を傾げてベルジュ伯爵令嬢が訊く。


「当たり前でしょう」

「何故でしょうか?」

「はっきり言わないとわからないの?」

「わかりません」

「はっきり言うわ。迷惑よ。他のところで食べてちょうだい。せっかくの料理が台無しよ」


きっぱりはっきりとミシュリーヌが告げる。


「一人で食べるのが寂しいんです」

「お友達がいるでしょう」


答えずにベルジュ伯爵令嬢は寂しそうに微笑む。

今はもう、一緒にお昼を食べていた友人たちが離れてしまった、ということだろう。

実際はどうかはわからないが、何となく嘘ではない気がする。


「アン、同情しては駄目よ。どうしてそうなったか自分でわかっているでしょうに」


ミシュリーヌが強い視線をベルジュ伯爵令嬢に向ける。

ベルジュ伯爵令嬢はただ微笑(わら)うだけだ。

自覚していて、どうすればいいのかも本当にわかっているのだろう。


「そんなに警戒しなくても何もしませんよ。……私には何もできません」

「そうかしら? その図太い神経があれば何でもできそうだわ」


本当に見た目に反してかなり図太い。

アンリエッタを盾にしなくとも自力で何とかできたのではないだろうか?


……第一王子の前では隠しているのかもしれない。

誰だって好きな人の前では可愛らしくいたいだろう。

その気持ちは、わかる。

アンリエッタだってそうだ。

婚約者の前では少しでも綺麗で可愛く見られたい。


……思考がずれてしまった。


「こう見えて小心者ですから。ですから何もできません。警戒しなくても大丈夫ですよ」

「アンの親友として、アンに近づく"東"の者を警戒して当然でしょう? 何を企んでいるかわかったものではないもの」

「企んでいるなんてひどいです。私はただアンリエッタ様と仲良くなりたいだけです」

「わたくしは別に仲良くなりたくはないわ」


きっぱりとアンリエッタも拒絶した。

こういう時に曖昧な態度はよくない。


「私は諦めません」


何故そこまで意固地になるのか。


「諦めてくださるほうがいいですわ。……そのほうが貴女のためではありませんか?」


本心だった。

今のこの状況は何一つベルジュ伯爵令嬢の益にはならない。

むしろ状況はどんどん悪くなり不利になるだけだろう。


それはたぶん、ベルジュ伯爵令嬢にもわかっているのだろう。

それでも固執する理由は……


ベルジュ伯爵令嬢が顔をうつむける。


「だって、会いたいんですもの……」


本当に小さな声だった。

それでもその場にいた全員の耳に届く。


「アン、もてもてね、なんてからかう気にもなれないわ」


ミシュリーヌは冷ややかに言う。

ミシュリーヌは身内ではないから第一王子とベルジュ伯爵令嬢のことは知らないということになっている。

それ(ゆえ)の言葉だ。


ベルジュ伯爵令嬢は口をつぐむ。

彼女も会いたいのはアンリエッタではなく第一王子だとは口が裂けても言えない。


「もてても嬉しくないわ」


アンリエッタも素知らぬ振りでそう返す。

それから何度目になるかもわからない忠告をベルジュ伯爵令嬢に告げる。


「ご自分を大切にされたほうがいいですわ。いざとなった時に助けになってくれるのは友人ですわ。今のままでは一人ぼっちになってしまいますわよ」


第一王子との関係がいつまで続くかは知らない。

だがこのままでは終わった時に周りに誰もいなくなってしまうだろう。


婚約者もいまだいないと本人も言っていた。

婚約者探しにも支障が出るだろう。

社交界から浮いている存在など価値はほとんどないと言っていい。


ましてやこれで"東"の公爵令嬢から目の(かたき)にされでもしたら"東"での縁組みは絶望的だ。

下手したら家から縁を切られる。


そこまでしてアンリエッタの友人の座に(こだわ)る必要はないと思うのだが。それも偽物の友人の座だ。

本当に何の利点もない。

彼女に残るものは何もなくなってしまう。


今ならきっとまだ間に合う。

ベルジュ伯爵令嬢は微笑んだまま何も言わない。

何故そこまで頑なになるのか。


アンリエッタは内心で深々と溜め息をつく。

そこへルイが声をかけてくる。


「姉上、ミシュリー、勝手にいる人間なんて構ってないで食べよう? 時間なくなっちゃうよ」

「そうね」


ミシュリーヌが同意する。


「ええ」


アンリエッタもベルジュ伯爵令嬢から視線を外して昼食に向き直った。

今日は学院内にある芝生に布を敷いてそこでお昼にしていた。

メンバーはラシーヌ三兄妹とミシュリーヌとロジェだ。


「そもそも私とアンリエッタ様とのことです。貴女方には関係ないじゃありませんか」


同じように持参のお弁当を食べながらベルジュ伯爵令嬢が蒸し返す。


「わたくしは姫様からアンのことを頼まれているのよ」

「俺もだ。アンの護衛のようなものだ」


最近ずっと一緒に昼食を取っているロジェも言う。


「あなたは"東"なんだから何か企んでいると考えるのが当然でしょう」

「心外です。私はただアンリエッタ様と仲良くなりたいだけです」

「そもそも姉上のことを利用している奴がよく言えるよね」


ルイが冷ややかに言う。


「利用って何のことでしょう?」


とぼけるようにベルジュ伯爵令嬢は首を傾げる。


「本当に最悪。自分のしていることに自覚が持てないなんてどれだけ頭の中がお花畑なんだ。それが許されるのは物語の中くらいだよ」


ルイが辛辣に吐き捨てる。


「まあ、頭の中がお花畑とは失礼です」

「事実を言って何が悪いの?」

「この国で頭の中がお花畑では貴族としてやっていけませんよ?」

「じゃあ貴族辞めれば? それとも自分はしたたかな腹黒と認める?」

「どちらもお断りします」


ルイの辛辣な物言いにもベルジュ伯爵令嬢は(ひる)まなかった。

ある(しゅ)開き直っているのかもしれない。


「本当に図太い」


ルイが思わずといった様子で顔をしかめる。


「やめましょう。(はた)から見たらわたくしたちが彼女を(いじ)めているみたいだわ。放っておきましょう」


ミシュリーヌの言葉に皆が頷く。

確かにミシュリーヌの言う通りだ。


本当にベルジュ伯爵令嬢は何を考えているのだろう?


ミシュリーヌの言う通り友人になりたいというのを隠れ蓑にして何かを企んでいる可能性もある。

だが、本当にただ第一王子と少しでも話がしたいだけということも考えられる。

そちらのほうが可能性は高いと思う。


アンリエッタは心の中だけで深く溜め息をついた。

本当に何でこんなことになってしまったのかしら?

アンリエッタは平穏な昼食が恋しくなった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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