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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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35/89

23.第一王子の恋人に付き纏われています。

ベルジュ伯爵令嬢はやはりなかなかしたたかな人間だったようだ。


アンリエッタは第一王子よりもベルジュ伯爵令嬢に付き(まと)われるようになった。

アンリエッタを見かけると近寄ってくる。

邪気のない顔で、まるで友人同士かのように。


傍目(はため)から見ても不審らしくひそひそと(ささや)かれている。

当たり前だ。

今まで接点がなかったのに急に接近し出したのだから。


しかも、彼女は"東"だ。

アンリエッタに友好的に近づいてくるなど、普通に考えてあり得ない。

何か裏がある、そう思われても仕方ない。

アンリエッタは第一王子に会いたいだけだろうと思うが、アンリエッタにしてもそこまで利用される()われはない。

それとも他に目的でもあるのだろうか?




ベルジュ伯爵令嬢はいつ見ても一人だった。

友人たちから距離を置かれ、"東"の輪の中から弾かれているようだ。

そこまでしてアンリエッタの友人になろうとしている彼女の気持ちが本当にわからない。


第一王子はこの状況を見て何とも思わないのだろうか?

……それとも案外気づいていないのだろうか?

…………気づいていないのかもしれない。

それはそれでどうかとも思うが。


まあ、アンリエッタには関係ない。

それにベルジュ伯爵令嬢が何も言わないのであればアンリエッタが口出しすることではない。


ベルジュ伯爵令嬢も知られたくないのかもしれない。

好きな人に心配かけたくない気持ちは、アンリエッタにもわかる。

ならアンリエッタに声などかけなければいいのにと思う。


ベルジュ伯爵令嬢は本当に何を考えているのだろう?




ベルジュ伯爵令嬢を振り切れずにたまたま一緒にいる時に、運の悪いことに第一王子と遭遇した。


「やあ、アンリエッタ。それに、君はベルジュ伯爵令嬢だったな。二人は仲良くなったのか?」


どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいか?


アンリエッタとベルジュ伯爵令嬢はカーテシーをする。

今回はベルジュ伯爵令嬢も声をかけられたので顔を上げた。


「そう見えますか?」


嬉しそうにベルジュ伯爵令嬢は訊く。


「ああ、見える」

「それなら嬉しいです」


二人で外堀を埋める気かしら?


「いいえ、友人ではありませんわ」


ここはきっぱりと否定しておかなければならない。


「そうなのか?」

「私は友人になりたいのですが、なかなか心を開いてはくださらないのです」


ベルジュ伯爵令嬢の眉尻が少し下がる。

それだけの仕草で彼女の容貌なら十分に庇護欲をそそられる。

アンリエッタにはまったく響かないが。


ちらりと見た限りヴァーグ侯爵令息も同じようだ。

表情が少しも動いていない。

できれば止めてほしいが、今ここでは無理なのだろう。

そもそも彼はいつもほとんど第一王子を止めることはない。

期待するだけ無駄だろう。


「だがアンリエッタの懸念もわかる」


本当にわかっているのだろうか?

わかっていればこんな提案も外堀を埋めるようなことも言わないはずだ。


「懸念、ですか?」


ベルジュ伯爵令嬢が小首を傾げる。

どうでもいいがベルジュ伯爵令嬢の仕草はいちいち可愛らしい。

あざとくはないので意識してやっているわけではないのだろう。

アンリエッタの心には全く響かないが、第一王子は心の中ででれでれしているのかもしれない。


ベルジュ伯爵令嬢の言葉には直接答えずに第一王子は心配そうな視線をアンリエッタに向けた。


「彼女は"東"だろう? 大丈夫なのか?」


わざとらしい。

それがわかっているのなら最初から提案しないでもらいたい。

だが好機なので第一王子の話に乗る。


「わたくしはそもそも"東"には敵視されていますし、仲良くなる気はありませんので問題はありませんが、彼女にはよくないと思いますわ」

「わ、私は大丈夫です」


大丈夫だと言うのなら最初からアンリエッタを巻き込まないでもらいたい。


「わたくしはそうは思いませんわ」


第一王子の()を真っ直ぐに見つめる。


「殿下からも諦めるように説得してもらえませんか?」


第一王子が考える素振りを見せた。

少しして第一王子がベルジュ伯爵令嬢に視線を向けた。

本当に考えてみたようだ。


「あまり、交友関係に口出しするのもよくないのだが、もし危険な目に遭うようなら、諦めるべきかもしれないな」


そもそも友人の打診をしてきたのは第一王子だ。

ベルジュ伯爵令嬢の身の安全のためにアンリエッタに無理矢理片想いの相手役を押しつけたのにその友人にするなど本末転倒だともっと早く気づいてほしかった。

そうしたらベルジュ伯爵令嬢も変な考えを持たなかっただろうに。


こうやって話しているだけでも、"東"の公爵令嬢の目に留めれば、何をされるかわからない。

それにアンリエッタと仲良くしようとしているということも加われば、嫌味だけでは到底済まされることではない。

直接的に危害を加えられるかもしれないのだ。


その危険性を全く考えていなかったのだろうか?


あんなにはっきりとアンリエッタもアンリエッタの友人もベルジュ伯爵令嬢を守らないと告げたのに。

あれは脅しでも何でもなく、忠告だったのに。


実際、アンリエッタは足を引っかけられそうになったり、ぶつかられそうになったり、水をかけられそうになったりしている。

アンリエッタはうまくかわすことができたから大した被害はないが、ベルジュ伯爵令嬢はどうかはわからない。

アンリエッタよりひどい目に遭うかもしれないのだ。


アンリエッタは姫様のお陰で守られている。

友人を失うことなく、庇ってもらっている。

だが、ベルジュ伯爵令嬢はーー。


恐らく第一王子が考えている以上にベルジュ伯爵令嬢の立場は危うくなっている。

知らないところで嫌がらせを受けている可能性だってあるのだ。

アンリエッタと分散されているだろうから嫌がらせは大したことはないかもしれない。大半の嫌がらせはアンリエッタに向かっているだろうから。


以前は友人と一緒の姿を見かけることもあったが、今はいつ見ても一人だ。

友人が離れていったのだ。

まだ少し離れて様子を見ているだけかもしれないが、このままアンリエッタに付き纏っていれば完全に離れていくだろう。


それをベルジュ伯爵令嬢はわかっていないはずがない。

それなのに、だ。


「私は大丈夫です」


何故かベルジュ伯爵令嬢はそう言うのだ。

ここで第一王子の言う通りに諦めてしまえばこれ以上悪化することはないのに。

本当に何を考えているのだろう?


第一王子のベルジュ伯爵令嬢へ向かう視線に、心配そうな案じているような感情が微かに混ざっていた。

本心が無意識に漏れているのかもしれない。


ふと気づいた。

先程の大丈夫か? もベルジュ伯爵令嬢に向けられたものなのかもしれない。

現状を把握しているのなら、尚更説得するべきだろう。


「大丈夫、ではないと思いますわ」


そっと言葉を挟む。

これでベルジュ伯爵令嬢が退いてくれるのであれば、アンリエッタにとっても彼女自身にとってもいい。

第一王子も小さく頷く。


「本当に何かあったら危ない。それならば諦めるのも考えたほうがいい」


第一王子もベルジュ伯爵令嬢を危ない目に遭わせたくはないのだろう。

だから最初からアンリエッタはそう言っているのに。

こうなってしまってから気づくのでは遅い。

ただアンリエッタとベルジュ伯爵令嬢が友人になるのが嬉しいのも、ベルジュ伯爵令嬢が危険な目に遭ってほしくないのも、どちらも本心なのだろう。


ベルジュ伯爵令嬢は微笑んだ。


「お気遣いをありがとうございます。ですが、大丈夫ですので」


ベルジュ伯爵令嬢は(かたく)なだ。

内心で深く溜め息をつく。

いつまでたってもこれでは平行線だ。


ちらりとアンリエッタはヴァーグ侯爵令息を見た。

こういう時、ヴァーグ侯爵令息は役に立たない。


いつも(いさ)めきれないが、今ここでは人目もあり特に何もできないだろう。

今回、諌めてほしいのはベルジュ伯爵令嬢なので余計に、だ。

彼の管轄には入っていないのだろう。


だとしたら後は二人の時にでも第一王子がベルジュ伯爵令嬢を説得するしかないだろう。

あまり長く立ち話しているのもよくない。


ふとヴァーグ侯爵令息と目が合い、彼は小さく頷いた。

そして周りにそっと視線を走らせたヴァーグ侯爵令息が第一王子に声をかける。


「クロード様、そろそろ……」


第一王子が、次いでアンリエッタもそっと周囲を見る。

思っていた以上に人が多い。

これではアンリエッタはともかくベルジュ伯爵令嬢は、少し、まずいかもしれない。


「ああ、そうだな。では、またな、アンリエッタ、……ベルジュ伯爵令嬢」


アンリエッタはカーテシーをして頭を下げる。

隣でベルジュ伯爵令嬢も同じようにしている。


数瞬だけ名残り惜しそうにベルジュ伯爵令嬢を見て第一王子が歩き出した。

その背にヴァーグ侯爵令息が付き従う。


その足音がある程度離れてからアンリエッタは顔を上げた。

ほぼ同時に隣でベルジュ伯爵令嬢も顔を上げていた。


「本当に諦めたほうがいいですわよ」


一言だけ忠告してアンリエッタは(きびす)を返した。

返事を聞く気はなかった。

ベルジュ伯爵令嬢は何も言わなかった。


アンリエッタはベルジュ伯爵令嬢がどのような表情をしているかを見ることなくその場を離れた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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