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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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幕間 ジャクリーヌ・デ・ラ・リーシュ

客人たちが帰ったテーブルでそのままジャクリーヌはお茶を飲んでいた。

客人の一人を思い出して口許を緩める。




クロードがちょっかいをかけている令嬢がいると聞こえてくるようになった。

クロードも立場はわかっているはずだから、と最初は静観していた。

どうせ一時的なものとたかをくくっていたところもあった。


だがいつまで経ってもクロードはその令嬢を諦める様子はない。

これは一度釘を刺しておかないと駄目かしらね。

そう思い、彼女をお茶会に呼んだ。

勿論釘を刺すだけだから他の者は呼ばなかった。


どんな娘が現れるのか、クロードが惹かれたという娘はどれほどのものか、と少しわくわくしていた。

こういうところは娘のことが言えない。


現れた娘は噂とは随分と違った。

さすがに噂通りの娘が来るとは思っていなかったが、その片鱗くらいはあるかもしれないと思っていたのも事実だ。


だがいい意味で予想を裏切られた。


(おく)することなく凛とした振る舞いは好印象を与えた。

カーテシーを含め所作が随分と洗練されていた。

何より一切媚()びるような様子がないのがよかった。


総合してアンリエッタ・ラシーヌ伯爵令嬢はなかなか面白い娘だった。


噂なんて本当にあてにならない。

あれは彼女の存在が面白くない誰かが故意に流した悪評だろう。


ラシーヌ伯爵令嬢がどのようにその噂を(さば)いているのかも気になるところだ。後で誰かに調べさせよう。

悪評を知らないということもなく、かといって、全く気にしていないというわけでもないようだったから。


傷ついても顔を上げていられるだけの強さがあるのだろう。

婚約者との仲が良好なことも一因だろう。

婚約者は少なくともクロードとラシーヌ伯爵令嬢との仲を疑ってはいないようだ。


ラシーヌ伯爵令嬢は好意的に取っているようだが、リボンは牽制(けんせい)の意味もあるのだろう。

普段使いのものに自分の色のものを贈るなど、彼女は自分のものだと喧伝(けんでん)しているようなものだ。


随分と独占欲の強いこと。

ジャクリーヌはふふと笑う。

何とも甘酸っぱいではないか。




ティーカップを持ち上げ唇を湿らす。


それにしてもリボンの件は何故あんな中途半端な報告だったのかしら?

自分の目でどういう娘か確かめろ、ということだったのかもしれない。


報告を上げてきたのはジャクリーヌが公爵家から連れてきた腹心の侍女だ。

彼女には情報収集も任せている。

その彼女がリボンの色や婚約者から贈られたものだという情報を掴んでいないはずはない。

万が一にもその情報を掴んでいなければ彼女には引退してもらうしかないだろう。


自分でも気づかないうちに噂に感化されていたのかもしれないわね。

予想を裏切られた、と感じた時点でそうなのだ。

それに気づいた彼女が一計を案じた。

そんなところだろう。


時にジャクリーヌを(いさ)めてくれるからこそ彼女を重用しているのだ。

媚を売るだけで都合のいい話しかしない人間は必要ない。




ゆっくりと一口飲む。

今飲んでいるお茶はラシーヌ伯爵令嬢に出したものと同じだ。


それにしても。


アリメントのお茶とお菓子に気づくとは思わなかった。

知っているか試した面もあるけれど、別に知らなくても問題はなかった。

ちょっとした見識(けんしき)を広める手助けになればという軽い気持ちであった。

わざわざ足を運ばせたのだからそれくらいの手土産を持たせてあげようと思っただけだ。

だから気づいたどころか、きちんとかの国のことを知っていたことに驚いた。


アリメント王国の事柄は"西"の必修ではない。

それなのに知っていたということは、興味を持って調べたのではなければ、必要だということ。

つまり、婚約者はアリメント王国について知らなければならない地域の者である可能性が高い。


アリメント王国の者かとも一瞬思ったが、可能性はかなり低い。

かの国では黒髪に(みどり)の瞳が一般的だ。

それにそれほど馴染みがあるようには見えなかった。

婚約者の国のものならそんなことはあり得ないだろう。



一体、どんな婚約者なのかしらね?

いいえ、一体誰なのかしら?



興味が引かれた。

娘の好奇心旺盛なところはジャクリーヌ譲りだ。

クロードが興味を持つのもわかる気がした。

個人的興味は置いておいても、誰なのか、どこの家の者かは知っておかなければならない。

何かが起きてからでは遅い。

王族を害するとは思えないが油断はできない。


恋は人を愚かにする。

恋に囚われて通常ならしないようなこともしでかすことがある。


独占欲を見せているような相手だ、今の状況はいい気がしないだろう。

それがいつ暴走するかわからない。

用心しておくにこしたことはないだろう。


ラシーヌ伯爵令嬢が漏らした婚約者の情報を思い出す。


確実な情報は二点だ。

婚約者の瞳の色が青色というのは意外と重要な情報だ。

この国の者ならそれだけでどの地域の者かおおよそ見当がつく。

地域を越えての婚姻関係もあるので例外というものはあるが。

それに、今はこの国にいないという。


その二点でかなり絞れるのではないかしら?

条件に合う者の洗い出しとラシーヌ伯爵家の周辺を探らせることと……。

これからのことを頭の中で算段をつける。


何事もなければこの胸に秘めておけばいい。

ラシーヌ伯爵令嬢が結婚するまでの数年のことだ。

それくらい何でもない。

悪用するつもりもない。


"西"の公爵家は"ラシーヌ伯爵令嬢はクロードの被害者だ"と公言し、彼女を守る態勢だ。

一地域丸々敵に回すのは得策ではない。

下手をすれば内乱になりかねない。

そんなことは望んでいない。

ジャクリーヌの望みも役割も、国を乱すことではなく国の安定と発展だ。




ふぅと息を吐きまた一口お茶を飲んだ。



婚約者のことは置いておいてももっと話してみたかった。

ソフィーとエロディーが来ることになって途中でお開きになってしまったのは残念だ。

また今度呼んでみようかしら。


読んでいただき、ありがとうございました。

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