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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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22/89

16.第二王女殿下は好奇心旺盛な方でした。

アンリエッタには断るという選択肢を取れるはずもなく、粛々(しゅくしゅく)と第二王女の誘いに応じた。


第二王女は案内役の女官に「案内はいいわ」と告げていたが、彼女は「仕事ですから」と第二王女の住まう一角まで案内してくれた。

第二王女の侍女に、アンリエッタが帰る時は自分を呼ぶように、と申しつけて彼女は下がっていった。


「侍女も連れてきていいわよ」と言ってくださったので部屋までついてきたマリーは今壁際に他の侍女たちとともに控えている。


「ふふ、わたくし貴女と話してみたかったのよ」


アンリエッタは困惑と警戒の両方を(いだ)いた。

アンリエッタは今日初めて第二王女と言葉を交わした。

認識されているとしたら、第一王子に構われている令嬢、というくらいしか思い当たらない。


「わたくしと、ですか?」

「ええ。今学園でリボンが流行(はや)っているでしょう? そのリボンを流行らせたのが貴女だって聞いたわ」


思わぬ方面からの興味だった。


年齢が達していない第三王女以外の王子・王女殿下は皆学院に通っている。

だからアンリエッタのリボンのことをどこかで聞いたり見たりしていてもおかしくはない。


「あら、でも今日はしていないのね」

「ええ。あれらは日常使いのものですので、こちらに身につけてくるには相応(ふさわ)しくないものですので」


第二王女が目をしばたたかせて小首を(かし)げる。


「質のいいリボンにすれば問題ないのではなくて?」


第二王女はあのリボンが婚約者からの贈り物とは知らないようだ。

アンリエッタは緩く首を振る。


「リボンなら何でもいいのではなく、あのリボンらが特別なのです」

「特別な、リボン?」

「はい。あれらは婚約者から贈られたリボンなのです」

「婚約者から? お兄様ではなく?」


特別なリボン、と聞いて第二王女は誤解したようだ。そもそも第一王子との関係も誤解しているのだろう。


「ええ。青いリボンです。クロード殿下の色ではありません。婚約者の瞳の色のリボンなのです」

「あら!」


第二王女の顔が輝く。こういう話は好きなようだ。


確か王子・王女殿下方は誰も婚約者が決まっていなかったはずだ。

さすがに王族が婚約したともなれば発表される。婚約者が発表されるかどうかはその時の情勢によって変わる。


「婚約者の色を身につけているの? 素敵ね!」

「ふふ、ありがとうございます」

「わたくしも婚約者ができたらしてみたいの」

「きっとお相手の方も喜ばれると思いますよ」

「そうだと嬉しいわ。でもそう言うと言うことは貴女の婚約者は喜んだのね?」

「え、ええ」


急に恥ずかしくなった。だがここでやめてしまうと誤解を与えてしまいそうな言い方になってしまった。

頬に朱が(のぼ)るのを自覚しつつ続けた。


「その、一つ目のリボンを贈られた時に、"貴方が傍にいてくれているようで心強いです"とお礼状を送りましたら、その、思いの(ほか)喜んでくださって、たくさんリボンを贈ってくださったのです……」

「まあ!」


喋りすぎてしまった。そこまで言わなくてもよかったはずだ。

アンリエッタは恥ずかしくなって扇を広げて顔を隠す。


「まあまあ!」


第二王女が声を上げる。


絶対に余計なことを言った。

今は顔を見せられない。

初めてまともに言葉を交わした相手だろうが王族だろうが関係ない。

いや、なおさら今の絶対に赤くなっている顔は見せられない。


顔は見えずとも第二王女が楽しそうに微笑(わら)っている気配は伝わってくる。

それ以上何も言われないのが余計にいたたまれない。


何とか顔の熱を冷まして扇を閉じる。


「失礼致しました」

「いいえ。ふふ、そんなに素敵な婚約者がいるのね。でも、婚約者のいる方を口説くなど、クロードお兄様も何を考えていらっしゃるのかしら。あまりにも迷惑をかけるなら遠慮なく言ってちょうだい」


さすがに学院に通っているのでしっかりと第二王女にも第一王子のことは耳に届いているらしい。


「ありがとうございます。わたくし"西"の王都よりも国境のほうに近い伯爵家の者なので物珍しいだけだと思います。すぐに飽きると思われますわ」


第二王女の顔が輝く。


「まあ、ではエーヴィヒ王国のことも詳しくて?」


エービィヒ王国は西隣にある友好国だ。


「ええ。交流が盛んですし、親戚が向こうにおりますので、授業でやるよりは詳しいかと思います。御興味がおありですか?」


王族は交流のある国の授業では一通り取ることになっている。

当然友好国である隣国のエーヴィヒ王国のこともある程度は知っているはずだ。いくつか授業も取っているだろう。


「ええ。母が"南"出身でしょう? 実はわたくし、幼い頃から"南"に何度も行って、外国船を眺めたり商人の話を聞いたりして外国のことに興味を持ったの」


随分と活発な方のようだ。


「エーヴィヒ王国はまた違った(おもむき)でしょう。よかったらどんな国なのか話してもらえないかしら?」

「わたくしでよろしければ、喜んで」


こういう話題であれば歓迎だ。

第一王子とのことをつつかれるよりよほどいい。


「ありがとう!」

「殿下はどのようなことが知りたいのでしょうか?」


第二王女は少し考え込む。

具体的にこういうことが知りたいということではなく、漠然(ばくぜん)と知りたいのだろう。


アンリエッタは口を挟まずに第二王女が考えをまとめるのを静かに待つ。

第二王女は頬に手を当て小首を(かし)げた。


「改めて訊かれると難しいわね。授業でやらないようなことを知りたいのだけど。貴女は親戚が向こうにいると言ったわね。誰か向こうに(とつ)いだの?」

「はい。祖父の妹があちらに嫁ぎました」

「それなら親戚を訪ねて向こうに行ったりもするのかしら?」

「はい。毎年向こうに行っています。友人もいますし」

「あら、社交の場にも顔を出しているの?」

「向こうでは十五、六歳でデビュタントをした後は社交の場に顔を出すのは一般的ですから」


アンリエッタは慎重に答える。

第二王女は話しやすい方でつい余計なことまで話してしまいそうになる。


「ああ、そうだったわね。リーシェ王国(うち)とは違うのだったわね」


この国ではデビュタントは学院に入学する時に国王陛下並びにお妃様方に挨拶することを指す。

一応他国ではこのデビュタントをもってその国でのデビュタントと同じ扱いを受けることになる。


「殿下、どちらかというと我が国が特殊なのですよ。他国ではエーヴィヒ王国のようなほうが一般的です」

「そうだったわね。ついついこの国を基準に考えてしまうけれど、それでは駄目なのよね。反省しなくちゃ」


アンリエッタは微笑む。


「そこで反省できるのは立派なことです。反省を生かすことができれば今のことは無駄ではありません」


ついそんなことを言ってしまったのは、第二王女がルイと同い年だからだろう。


第二王女が目をしばたたかせる。


アンリエッタはやってしまった、と内心で真っ青になった。

相手は王女殿下だ。失礼なんてものじゃない。


内心で慌てるアンリエッタをよそに第二王女はふわりと微笑んだ。


「ラシーヌ伯爵令嬢、いいえ、アンリエッタと呼んでもいいかしら?」

「光栄でございます」

「わたくしのことも名前で呼んで」

「ありがとうございます、ミネット様」


だが、何故急に?


「ふふ、アンリエッタありがとう。わたくし、貴女のことが気に入ったわ」


何故?

アンリエッタは内心で首を傾げる。

気に入られるような言動をした覚えはない。


「ありがとうございます」


内心の困惑はともかく、こう言うしかない。

ミネット様は何故か機嫌よく話の続きに戻った。


「それで、向こうの社交界はどういう感じなのかしら?」

「そうですね、向こうではーー」


アンリエッタは記憶を辿りながらこの国と比較しながらできるだけわかりやすくなるような説明を心がけた。

ミネット様は質問上手で次から次へと質問を重ねていく。

アンリエッタはそれに時には必死に、時には楽しく答えていった。




思いがけず話が盛り上がってしまい、控えめに侍女に「ミネット様、そろそろ……」と止められるまで話し込んでしまった。


「まあ、もうこんな時間! アンリエッタ、随分と引き留めてしまったわ」

「いえ。わたくしも楽しゅうございました」

「本当? また付き合ってくれるかしら?」

「わたくしでよろしければ喜んで」

「ありがとう!」


本当にお可愛らしい。


話しているうちにアンリエッタはすっかりミネット様が好きになってしまった。

ミネット様は人の心に入り込むことがとてもお上手だ。

油断していたつもりはないのだが、気づけばだいぶ心を許してしまっていた。

本当に恐ろしい方だ。


「気をつけて帰ってね」

「お心遣いをありがとうございます」


アンリエッタは立ち上がってカーテシーをする。

顔を上げると先程の案内役の女官が近くに来ていた。


「では、ご案内致します」

「お願いします」

「またね、アンリエッタ」

「はい。またお会いできるのを楽しみにしています」




アンリエッタはミネット様に見送られ、マリーとともに今度こそ王宮を辞した。


***


「お嬢様、楽しそうでしたね」

「ええ、楽しかったわ」

「よかったですね。ですが……皆様心配なさっているでしょうね」

「そうね……」


時刻はもう夕方だ。

まさかそんなに長く王宮にいるとは思わなかった。

家族はさぞかし心配しているだろう。


「マリー、今日は付いてきてくれてありがとう」

「私はお嬢様の専属侍女ですから付いていくのは当然です」

「マリーがいてくれて心強かったわ。でも、ずっと待機で疲れたでしょう? 屋敷に戻ったら今日はもう休んで」

「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。さすが王宮ですね。私のような者にも心を配ってくれて全然疲れてません。それに、お嬢様のお世話は誰にも譲りません」


きっぱりと言われて思わず笑ってしまう。

「ありがとう。でも無理はしないでね」

「ありがとうございます」


もう一度マリーに微笑みかけ、それから目を閉じた。


「着く頃にお声をおかけしますね」

「お願いね」


帰ったら今日のことを家族に報告しなければならない。

馬車の揺れに身を委ねながら、今日一日のことをまとめるためにしばし思考に(ふけ)った。




温かく家族に迎えられ、夕食の時間が迫っていたので、夕食後のお茶の時間に今日一日の報告をすることになった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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