ミウキとラブリボン 2
頭をしぼって叩いてなんとかラブリボンを生み出したハナメ。愛情がたっぷりこもったこの幻獣を、ミウキは喜んでくれるのか?
レストランに戻るとラルドが窓際の席からブンブン手招きした。何か頼んで食べたようで、空のお皿がテーブルにある。
手の中で私をじっと見上げるラブリボンを抱きしめ、急いで席へ向かう。
「遅い!! どんだけ待たせるんだよ、もう一人でオムレツ食べちゃったぞ!!」
「ごめんね、ラルド」
頬をパンパンに膨らませてラルドは相当おかんむりだ。でも口の端にケチャップが付いてるのが可愛いと思っちゃった。よっぽど美味しかったんだね。
「そいつが生み出した幻獣か?」
「うん、ラブリボンっていうんだ」
ラルドはへー、といたずらっぽく鼻で笑った。
「今回はネーミングセンスいいじゃん」
言葉は褒めてるけどあざ笑うような表情。褒めてない、むしろけなされてる! いくらレストランで一人長いこと待たされたからって、ひどい! ちょっと傷ついたぞラルド……。
「んで、そいつをミウキに渡すんだろ?」
待ちに待たされてイライラしてるのか、ラルドはどんどん話を進める。
「う、うん。そうだけど」
「それならランチからディナータイムに移るまでの休憩1時間を狙うしかない。ミウキには話つけといたぜ」
「え、もう? ありがとう」
「ヒマだったからな」
「ごめん……」
幻獣を生み出す時も、売り子をしようと申し出たあの勢いもそうだ。私は1つのことに集中すると周りが見えなくなってしまう。今まではそもそもいつも一人だったから困ることはあまりなかったけれど……。
直していかなきゃいけないな。
ラルドは短く息を吐くと、いつもの顔に戻った。
「ま、いいって、そいつ可愛いし。なんかシロに似てるな」
幻獣の話となると条件反射で食いつくのが親バカというものだ。
「やっぱりそう思う!?」
「うわっ」
「シロちゃんが私にヒントをくれたの。今日も背中向けてて全然友好的じゃなかったけど、目の前でしっぽを振ってくれたからアイデアが降ってきたの!!」
そう。ラブリボンを生み出せたのはまぎれもなくシロちゃんのおかげ! 私はシロちゃんを思いきり抱きしめ褒めてあげよう……としたのだけれど、見事にかわされてしまった。まだまだだねっ。
ラブリボンのしっぽがラルドの手首に巻き付く。
『あなたが、私のご主人様?』
ラルドはわっと大きな声を出した。あわてて私は人差し指を立てる。
「大きい声禁止! こっそり渡してあげるんだから」
「そ、そうなのか。いやそれより、こいつ話せるの!? 今俺に、ご主人様かって聞いてきた!!」
「うん、テレパシーでね」
「すげぇ! 俺も欲しい!」
「では相応の愛を示せ」
「え? なんで急にアステルム口調?」
「ダメってことだよ」
ちぇっとラルドはつまらなさそうに舌打ちしたけれど、これは命の尊厳を守るために大事だ。
私はラブリボンのしっぽに触れながら、ラルドがご主人様ではないことを教える。
「ご主人様になるのは、この店のウェイトレス。あそこにいる猫の女の子だよ」
『かわいいね』
「まだ8歳にもなっていないの」
『小さいのに、頑張ってるんだ。……しっぽでなでてあげたいな』
ラブリボン、優しい……! 思考回路が天使! 本当にこんないい子が私の手で生み出されたの? どんな生き物にも優しく接するって確かにノートに書いたけれど……私が想像していたよりずっと、天使! ケチなこと言っていないでどんどん生み出して各家庭に一匹ずつ配ろうかな……。
つい数秒前に守ろうとした命の尊厳がさっそく揺らいだところで、店内のお客さんがズラズラと外へ出て行き始めた。ランチの時間が終わったのだ。
ミウキちゃんの姿を探す。ひときわ明るい声で「ありがとうございました」と、入口に立って挨拶を繰り返していた。ほとんどのお客さんは何も言わずに出て行ったけれど、何人かはごちそうさまと挨拶をして、ミウキちゃんも笑顔でまたいらしてくださいと頭を下げている。
お客さん全員が店から出ていってから、ミウキちゃんはあわてて私達のところへ駆け寄ってきた。
「お待たせして申し訳ありません! ご用件があるんでしたよね?」
何もあわてなくていいのに。お客さんだって、一人一人に頭を下げなくても美味しいものを食べただけで十分満足しているんだよ。言いたいことはたくさんあふれてきたけれど、全部言うのをやめた。
私はうなずいて、ラブリボンを見せる。
「うん、あのね。この子をミウキちゃんにプレゼントしようと思って」
「えっ……」
ミウキちゃんが目を見開く。ラブリボンはじっとミウキちゃんを見上げたまま、その手首にしっぽを巻き付けた。
『はじめまして。私のご主人様』
「え、えっ……ご主人……?」
『私はラブリボン。あなたのために生まれてきたんだよ。お母さんが、あなたのために、私を生んでくれたの』
「そんな、私……」
ミウキちゃんが目を泳がせる。その顔は明らかに戸惑っていて、決して嬉しそうではなかった。突然幻獣をプレゼントされると言われて、どうしていいかわからない、そんな表情。
私の方を見て、首を振る。
「お客様からプレゼントだなんて……しかも、生き物なんて、私、……受け取れません」
「ミウキちゃん」
「だって、私はお客様がここに来てくれるだけで、料理を美味しいと食べてくれるだけで、幸せで……」
幸せ、と口にしているミウキちゃんの表情はでも、ちっとも幸せそうじゃない。笑っていないし、泣きそうなくらいだ。自分に言い聞かせているようにも見えた。
こうなるだろうとは薄々思っていた。さぁ、どうやって説得しようか? ……実は、薄々思っていたくせに説得のしかたまで考えてなかった。私のおバカ!
なんて言おうかと考えているうちに、ラブリボンが何か言いたそうに首をかしげた。ミウキちゃんの手首に絡まるしっぽがぎゅっと強くなる。
『本当に幸せ?』
「えっ……」
『お顔、嬉しそうじゃないよ。とっても寂しそう』
ミウキちゃんがはっと目を見張る。口に片手を当ててじっとラブリボンを見つめる。
『私ね、わかるんだよ、あなたの心の中。お母さんに会いたいんだね』
「…………」
愛想のいい顔はどこかへ消え去り、等身大のミウキちゃんの顔になっていく。失った家族に会いたい気持ちと、明日への不安で押し潰されそうな表情。
『私はあなたのお母さんのこと知らないけど……でもね、きっとお母さんは思ってる。ミウキ、無理して、笑わないで、って』
無理してなんかいない、とミウキちゃんはつぶやいた。でもそれは嘘だと、誰が聞いてもわかる。
『お父さんと3人で作ってきたレストランを、守ってくれるのはとっても嬉しい。でも、ミウキが無理して頑張る姿は見ていて辛いわ、って』
ミウキちゃんがぐっと唇を噛んだ。大きな目が涙で潤む。
『レストランも大事だけど私が大切なのはミウキ、あなたが心から笑って、幸せでいてくれること。自分に嘘をついちゃダメ。心が壊れてしまってからじゃ遅いの』
「………っ」
『泣きたい時は、泣いていい。辛い時は、甘えていい。あなたはとっても頑張ってる。もっと自分のこと、えらいって、褒めてあげていいの。
大人でも泣いたり、甘えたりするんだから。ミウキ、ほら、甘えてみて?』
我慢しきれなくなった涙が、決壊してあふれる。ボロボロと頬を伝って、拭っても拭いきれなくて袖がぐしゃぐしゃに濡れ、あごを伝って床に落ちた。
もう、止まらない。止められない。ミウキちゃんはひっくひっくとしゃくりあげながら、ついに心の内を言葉に紡ぎ出す。
「寂しいよ、会いたいよ、ママ……っ! もっと一緒に遊びたかった、あやとりも、折り紙も、教えてほしかった……っ! 編み物も縫い物も、私まだちゃんとできないのにっ、どうして、いなくなっちゃうの……っ!? 頭、なでてよ、ぎゅってしてよ、大好きなのに、……ママ……っ!!」
うわぁぁぁん、とその場に崩れて泣き出したミウキちゃんのところへ、あわてた様子のコックさん……お父さんが駆けつけた。
「どうしたんだ、ミウキ! 君達、ミウキに何をした?」
しまった、この展開は読んでなかった!
ママ、ママぁと泣きじゃくるミウキちゃんを抱き寄せ、じろりとにらんでくるお父さんの視線に背中が凍りつく。
どどど、どうしよう。この状況なんて説明すれば……。
ラルドは目線で「なんか言えよ!」とあごを使い、アステルムは「なんとかなる」とうなずくだけで助け船を出してくれない。いやなんとかしてよ、私じゃ無理よ! 人見知りなの知ってるでしょ! ラルドはともかくアステルムは年長者でしょっ! なんとかなるじゃないのよ!!
と、私がわたわたしている間にラブリボンが、ひゅるっとお父さんにしっぽを巻き付けた。
『はじめまして。私はラブリボン、幻獣です』
「んっ!? お、お前がしゃべってるのか?」
『はい。私はミウキちゃんのために生み出されました。生んでくれたのはハナメという、目の前の女の子です』
「は、はぁ……? ミウキのために?」
お父さんがちらりと私の方を見やる。
私の肩がビクッと強ばる。ら、ラブリボン……今、説得してくれてるんだよね? テレパシーは私には聞こえないけれど……。
ピクピクッとラブリボンの耳が動いた。
お父さんが向き直る。
『ミウキちゃんは早くにお母さんを亡くして、寂しい思いをしています。お父さんの前では、笑顔で振る舞っていたかもしれません……でも私は心の中に入り、こうして会話ができる幻獣。ミウキちゃんの心の中は、寂しさでいっぱいです』
お父さんがミウキちゃんを見る。えっぐえっぐ、ママ……とまるで赤ちゃんのように泣くミウキちゃんは、あんなにしっかりとウェイトレスをしている時とは別の子のようだ。
険しかったお父さんの表情がすっとなくなる。
『本当は遊びたい、教えてもらいたいこともたくさんある。けれど忙しいお父さんに無理は言えないと今までずっと隠して、心の底に追いやっていたようです。
どんなにしっかりしていても、まだミウキちゃんは子供です。どうかもう少し、お休みをいただけませんか?』
お父さんは黙ってうつむいた。その目にだんだんと涙がにじみ、こらえるように拳を握りまばたきをして……ぽろっ、とひとすじ流れると、チルシェ、とつぶやいた。
「……愛するチルシェと作ってきたこのレストランは俺にとっても、ミウキにとっても形見だ……天国で見ているチルシェが悲しまないように、なんとしても人気店であり続けようと寝る間も惜しみ、休みも取らずに頑張って……」
お父さんだって、決してミウキちゃんに厳しくしていたわけじゃない。ただ夢中で、奥さんと作り上げた店を守ろうとしていただけなのだ。その気持ちはきっとミウキちゃんも一緒で、だからこそ二人は休むことを忘れ、……いや、休むという選択肢を振り払い、必死で仕事に明け暮れていたのだ。
お父さんが頭を抱える。
「でも、これでは俺は……父親として……っ」
そしてミウキちゃんをもう一度腕の中に抱きしめた。
大切な形見は店だけじゃない。ミウキちゃんだって、お母さんの残してくれた大事な存在。うっかり忘れてしまうほど、二人は頑張って生きてきたんだね。
「ミウキ、すまなかった。仕事ばかりで……ママがミウキにしていたことを代わりにしなきゃならなかったのに……
自分のことばっかりで、振り回してごめんな。レストランはしばらく休みにしよう」
ミウキちゃんが弾かれたように顔を上げた。
「ダメだよ、パパ!! そんなことしたら、お客様がーー」
その言葉をさえぎるように、お父さんがミウキちゃんの頭をなでた。
「大丈夫。この店はダリダ村で1番の人気店だ。少し休むくらいじゃお客さんは減らない。常連さんがたくさんいること、ミウキなら知ってるだろう?」
「うん、でもーー」
「遊びたいんだろう? ミウキ。子供のうちに、いっぱい遊ぼう。なんでも言ってごらん、パパが一緒にやるから」
「パパ………」
小さな子供を諭すように、にっこりと笑うお父さん。
ミウキちゃんは困ったように視線を泳がせる。急に「遊ぼう、なにがしたい?」と言われても、働いてばかりのミウキちゃんにはすぐ何がしたいか思い浮かばないみたいだ。
するとラブリボンがミウキちゃんへしっぽを巻き付けた。そして目を閉じ、耳をピンと立てて集中している。
しばらくの間があってから、ラブリボンは巻き付けたしっぽはそのままにしてお父さんの手にしっぽの先を付けた。
『あやとりか、折り紙がしたいみたいです』
「えっ……」
驚くお父さんの声に被せて、ミウキちゃんが訂正した。
「ラブリボン! パパはあやとりも折り紙もできないよ! だから別のことをーー」
『でも、それしか浮かんでないみたいだよね?』
「だから困ってっ……あ、あのねパパ、大丈夫。ちゃんとパパも遊べるものをーー」
取り繕うようにまごまごする娘にくすっとお父さんが笑った。
ミウキちゃんは拍子抜けしたようにきょとんとする。
「なんだ、そんなこと。じゃあミウキ、パパにあやとりと折り紙教えてくれるか?」
「えっ、え……?」
「確かにどっちもパパはできないけれど、ミウキはできるだろう? 教えてくれれば一緒に遊べるじゃないか」
「でも、パパ、初めてなんでしょ? 苦手かもしれないし……もし苦手だったらパパ楽しくないよ、きっと……」
何も悪いことはしていないのに、ミウキちゃんは申し訳なさそうに目を伏せる。ミウキちゃんのための約束の話をしているんだから、もっとわがままを言っていいのに。
お父さんはしかし遠慮する娘にぐん! と胸を張ってみせた。
「パパは料理人だぞ? 手先の器用さならダリダで右に出るやつはいない! 絶対得意だから、安心しなさい」
きっぱりと言い切るとお父さんはくしゃくしゃミウキちゃんをなでた。その顔はもう仕事にストイックなコックさんじゃない。子供に優しいパパの顔だ。
ミウキちゃんがにわかに笑顔になった。
しぼんだつぼみのような顔からふわりと開き、目をキラキラさせた子供の笑顔で。
「いいの、パパ?」
「ああ。もちろんだよ」
「……ありがとう。パパ、大好き!!」
ぴょんっとジャンプしてミウキちゃんがパパの頭に飛びつく。あの真面目でしっかりしたミウキちゃんからは想像もつかないはしゃぎようだ。
お父さんも面食らったみたい。わぁぁ、とちょっとわたわたしている。
「ミウキ、パパも大好きだ、けど、前が見えない!」
「お休みなんでしょ? 私、パパから離れたくない!」
「はは、参った……ミウキ! 降参だ! 降りてきてくれ〜」
「やだ!!」
ミウキちゃんの上にさらにぴょこんとラブリボンも乗っかった。
『私も入れて〜!』
「わあ、モフモフ! くすぐったい!」
「おいチルシェ! お前までじゃれてきて全く……あっ」
はっとお父さんが口をつぐむ。ミウキちゃんとラブリボンがするすると頭から降りると、お父さんはバツが悪そうに笑った。
「はは……チルシェがいた頃よく、こうやって3人でじゃれてたからつい、な……」
『そうだったんだ。ごめんなさい』
ラブリボンが頭を下げるとミウキちゃんがぷるぷると首を横に振る。
「ううん、謝らなくていいよ! 私もね、ラブリボンはママみたいだなぁって思ってたの。優しいし、私の思ってること何でもすぐわかっちゃうし」
『そう?』
「うん、今のも懐かしくてすごく嬉しかった! だからね、これからママって呼んでもいい?」
ラブリボンはびっくりして大きな目をぱちくりさせ、耳をぱたぱたさせた。でもミウキちゃんもお父さんも、もう決まりという顔でうなずきあっている。
「そうだな。俺も、チルシェが戻ってきたみたいで嬉しい」
『私みたいな小さな幻獣が、お母さん代わりになっていいんですか?』
「もちろん! ……あっ」
ミウキちゃんがはっと手で口を押さえる。
そして耳をシュンと垂れた。
「ごめんね。ママの代わりにペットを飼うなんて、すごく申し訳ないけど……嫌だったら、もちろん……」
しゅるしゅるっ!! とすごい勢いでミウキちゃんの手首がぐるぐる巻きにされた。
『そんなことない!! 私はミウキのために生まれたんだから。喜んでママの代わりになってあげる!!』
後ろめたさと罪悪感に肩を落とすミウキちゃんに、ラブリボン……チルシェは精一杯優しく笑う。小さなピンクの両手を広げ、『さぁおいで』と待っている。
またあふれ出した涙なんて拭わない。ミウキちゃんはうわぁんとチルシェに抱きついた。
「ママ……! 今度こそずっと、ずっと一緒だよ!!」
『もちろん。ずっとそばにいるよ』
「パパも一緒だ! チルシェ、これからよろしく」
『任せてください』
ぎゅっとひとかたまりになる、新しいミウキちゃん一家。
ミウキちゃんだけを助けたい一心で生み出したけれど、まさかお母さん代わりにまでなるとは思ってなかった。
でもラブリボン、すごくしっかりしてるし……うん、なんだか私の前世のお母さんにちょっと似てる。
懐かしいな……。
不意にアステルムがノートから出てきた。
「ハナメ、寂しいかの?」
「え? そんなこと……」
「遠い目をしておるぞ」
「ああ、ううん……ちょっと、お母さんが懐かしくて」
ふぅ、とアステルムは息を吐くと……私の頭をそっとなでた。思わず目を見開いてしまう。
「え、な、なんで!?」
「ハナメ」
アステルムは穏やかなまなざしで見つめてくる。父親のような母親のような……そう、我が子を見るようなまなざしで。
「転移した現世では、俺とラルドたちが家族じゃ。何でも言って良いし、相談もして良い。遠慮するでないぞ」
家族。
前世ではお父さんが亡くなってからたったひとり、お母さんだけしかいなかった。兄弟も親戚もいなかった私は、こんな風に寂しい時すぐに頭をなでてもらえることはなかった。
なんでも言っていい。遠慮しなくていい。いつでもそばに、いてくれる。私の新しい家族。
……つう、と温かい雫が頬を伝った。
あわてて指で拭いそっぽを向く。
「う、うん! ありがとう、えっと……」
「やはり寂しかったんじゃの」
「違うそうじゃなくて、いきなり家族とか言うのずるい……!」
「む、ずるいとは心外じゃな」
「だって、色々と知ってるでしょ私のこと!?」
「まぁ、そうじゃな」
アステルムは全て我が掌の上じゃとでも言いたげににやりと笑い、また頭をなでてくる。
やっぱり私とミウキちゃんはすごく似ていた。
いきなり何でも言って良いなんて言われて、すぐに言えるわけがない。どうやって言えばいいかわからないのだ。かといって教わるものでもない。慣れていくしかないんだろうな……。
でもきっと、そのうち。
アステルムとラルドたち一家とは家族になれる気がする。
「あ! ハナメ何泣いてんだよ? 豪邸が恋しくなったのか?」
「それは全然違う!!」
「何、全力で否定してんだ?」
「ほら、行くよ! ミウキちゃん、チルシェをよろしくね」
ミウキちゃんとお父さん、そしてチルシェにも丁寧にお礼を言われつつまた来店する約束もして、私達は店をあとにした。
後から、新作の開発で試作する「コックの気まぐれサラダ」は、深海魚やらカエルの卵やらを入れようとしてミウキちゃんに怒られることもよくあるとウワサを聞き……
レストランの命運は実はミウキちゃんが握っているんじゃないかとちょっと心配になった。
まぁ困った時はチルシェがいるし、なんとかなるよねっ!