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ミウキとラブリボン

たった一人でレストランのウェイトレスをしている幼いミウキちゃんを助けるために、レストランの中にラルドを残していったん私達は外へ出た。


「して、店から出たは良いが……どんな幻獣を生み出すのじゃ?」


策が見えないと言いたげにアステルムが問いかける。

私もそこは悩んでいたところだ。助けたい、という気持ちは強いけれどとにかくそれだけなのだ。

片手で頭を抱えつつイメージを羅列する。


「ミウキちゃんに寄り添って、気持ちを理解して、癒やしてくれるような……」

「なんとも抽象的じゃのう」

「だから困ってるの……どんな幻獣がいいかなぁ?」


優しい顔立ちをしていて、ふわふわモフモフの……そんな曖昧な条件しか浮かんでこない。ミウキちゃんに寄り添える幻獣ならなんでもいいのかもしれない。でも、まるで昔の自分を見ているようなミウキちゃんのためにどうしても特別な幻獣にしたい。アイデアが……ない。


アステルムがふむ、とあごに手をやり意見をくれた。


「赤子が皆そうであるように、自分より小さな生き物には可愛い、癒やされるといった感情が芽生えやすい。よってミウキより小さな生き物をモデルにするのが良かろう。ネズミなどはどうじゃ?」

「猫にネズミかぁ……」

「食べたりはせんぞ?」

「でも、幻獣のネズミが怖がるんじゃない?」

「ふむ?」

「本能的に怖がるというか……ほら、動物って生まれる前から自分の天敵はわかってたりするでしょ? 猫に毎日見つめられてストレスにならないかな?」


ふふっとアステルムが不意に笑みをこぼした。

なんで笑ったのか全くわからず私は首をかしげる。


「え? 私、何かおかしかった?」

「いやいや、そうではない」


アステルムは腕を組んでにっこりと、弟子を見るような目で言った。


「おぬしが幻獣の気持ちになって考えられるようになったかと感心したのじゃ。シロを生み出した時はノートの力にただ夢中だったのにのう」


はっとした。言われてみれば! 私、シロちゃんもミナトもただ自分勝手に、都合良く生み出しただけだったのに……無意識に生まれる子のこと考えてた!

これは……褒められた、と思っていいのかな?


「その調子じゃハナメ。幻獣達の親として、精進するが良い」

「あ、ありがとう……」


なんか、急にそんなこと言われるともじもじする。照れるな、えへへ……。

しかし続けてアステルムはぴしゃりと私を斬った。


「しかしまだまだじゃ。幻獣はおぬしの手によって生まれる。本能を心配するのなら、おぬしがあらかじめノートにそのような本能はないと書けば済む」

「あ……そっか!!」

「精進せよ、ハナメ」

「は、はい……」


シュンと肩が下がる。うーん、全然まだ使いこなせてない。ただノートに書くだけなんて思ってたけれど、逆に言えば全部私が設定しなきゃならないってこと。イメージを膨らませて、アイデアを絞り出して。命を生むって難しいなぁ……。


アイデアがないから、アステルムの案でひとまず考えてみよう。

ネズミ。天使のように真っ白で、いや、ピンク色の方が可愛いかな? 羽根つける? いや、それシロちゃんじゃん! ダメだもっと個性を、世界に一匹、ミウキちゃんだけの幻獣を! ワンパターンな頭をひねって叩いてなんか生み出せ!!

………………。


ダメだ。全然出てこない。


「ねぇ、シロちゃん。シロちゃんはどんな子とお友達になりたい?」


アイデアがゼロなので話を振ってみる。パタパタ羽根の音がする方を向いてみると……

ま、またお尻の穴丸見えスタイル!! なんでいつもこっちに背中向けてるの!? そんなに私のこと嫌い!? そういえば構ってあげるって決意しながら今朝もバタバタして声すらかけなかったけどうんごめん! 本当にごめんって!!


「シロちゃん、こっち向いて? ねぇ、シロちゃん!?」


話をしようよ! 今ならたっぷり構ってあげるよ!? お手々握手しよ? モフモフしようよ! そんなしっぽゆらゆら振って臨戦態勢でいないで……


ん? しっぽ?

そうか、しっぽか……!


パン、と私が手を合わせるとアステルムにも伝わったようで、やってみるがよいとうなずいてくれた。

私はノートを取り出す。


可愛らしいピンク色のネズミ。体長の4倍ある細長くふわふわのしっぽは巻き付けることで相手の気持ちを察することができる。知能が高く、テレパシーで会話ができる。大きな丸い耳、黒いくりくりの目で相手のかすかな動き、音にも反応し、優しく穏やかなその気質で相手に寄り添う天使のような幻獣。

天敵などの本能的な知識は持っていない。どんな動物や人にも優しく接し、また幻獣自身もそれを幸せだと思うためストレスを抱え込むことはない……。


ペンを走らせる私を横で見守っているアステルムも目配せでOKを出してくれた。

ようやく及第点、ってところかな?

名前もひらめいていた。シロちゃんの時のようにぼんやりと宙に浮かぶその子に私は名前を与える。


「『ラブリボン』!」


大きく丸い耳の先から長い長いしっぽの先まで、輪郭が光に包まれる。

うるうるとした瞳がまるで生まれてこられるのが嬉しくて泣いているようだった。


すとん、とラブリボンが私の手のひらに乗った。

両手で包めてしまう小さなネズミ。ピンク色でふわふわの体はこの世のものとは思えない可愛らしさで本当に天使だ。簡単に潰せてしまいそうなはかなさでありながら、じっと私を見つめるそのまなざしはなんだかお母さんを思い出す。

見とれていると手首にしっぽが巻き付いた。

瞬間、頭に優しい声が浮かんでくる。


『私を生んでくれてありがとう、お母さん』


私の方が泣いてしまいそうだった。

ぎゅっと思わず抱きしめる。


「生まれてくれてありがとう!」


こんな可愛くて優しい子を生み出せて、母親になれた私は幸せだ!!

ラブリボンも長いしっぽを私の背中に回して抱きしめてくれた。頭の中にイメージが次々と送られてくる。ハートが浮かんでは弾け、浮かんでは弾ける。弾けたハートは小さなハートの粒になり、たくさんのハートで脳内は埋めつくされる。

『お母さん、大好き。お母さんに抱きしめてもらえて私、とっても嬉しいよ』

透明感のあるコロコロとした可愛らしくも優しい声。


永遠に抱きしめていたかった。

でも、ラブリボンに助けてほしい人がいる。

私はそっと腕をほどいてラブリボンに言った。


「一緒についてきてほしいの。いいかな?」

『もちろん。ご主人様になる人のところでしょ?』

「そう。とってもお利口さんねラブリボン、ありがとう」


ラブリボンは嬉しそうに手のひらに頬をすりすりしてきた。

あ、あああ可愛いっ……このまま私がご主人に……ダメダメ、ミウキちゃんを助けるんだ我慢、我慢! 私は母親、ご主人様ではない!!


「では行こうかの、ハナメ」


アステルムの一言で私は我に返る。メロメロになっていた私をずっと微笑ましく見守っていたらしい、アステルムはニコニコしながら良かったのうと私の頭をなでてきた。

や、やめてよここ外! 公衆の面前! 恥ずかしい!


「行こう、早く! ラルドも待ってるし」


ラブリボン、そしてアステルムともうなずき合い、私達はレストランに戻った。

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