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漁師を導く鳥 前編

ラルド達とすっかり打ち解けた私は一家と川の字に敷いた布団で爆睡した。もちろんダン様の隣は私だ。本当は同じ布団の中で眠りたかったけれどそこまで言う勇気はさすがに……ね。


翌日の朝。


「ハナメ! 起きて! 大変だよ、緊急事態だ!!」


耳元で大声をあげられ体をゆさゆさ揺らされて、うぅ~んと私は重いまぶたをゆっくりとこじ開ける。せっかくダン様ときゃっきゃうふふするいい夢を見てたのに~起きたくない~……と思いながら。


「どうしたの、ラルド……まだ夜明け……」


「父ちゃんが、父ちゃんが大変なんだよ!!」


一瞬で目が覚めた。

私は掛け布団を放り投げてガバッと起き上がる。


「何、ダン様に何かあったの!?」


ラルドは真っ青な顔をしていた。体がカタカタ震えている。同じように震える声で早口に言う。


「早朝は天気が良かったから父ちゃん漁に出かけたんだ、でも急に吹雪いてきちゃったんだ! 波も高いし船、転覆するかも……」


ラルドの大きな茶色い目には涙がにじんでいる。

悪天候に見舞われることはきっと初めてではないはず。でもダン様ゆずりで海に詳しいラルドがこんな顔をしているんだから相当危ないんだろう。


私は窓に駆け寄る。そこにはミーニャさんの姿もある。

絶句した。


真っ白。何も見えないほどの吹雪。


「昔のように、その日の天気を予知する力があたしに残っていたら止められたのに……」


悔しそうにつぶやくミーニャさんに、昨日の朗らかさはない。険しい表情でただ白い窓の外を見つめている。行き場のない両手はぎゅっと拳を握っていた。

ダン様が海に沈んでしまう。

できることを、しないと!


ラルドに声をかける。


「ダン様とはどうやって連絡取ったの?」

「マジックフォン! 魔力で遠くの人と会話ができるんだ」


便利! きっと携帯電話と同じ機能だ。


「もう一度かけられる? 私も直接状況知りたい!」

「わかった!」


ラルドがポケットからマジックフォンを取り出す。おお、元の世界でいうガラケーだ。二つ折りのやつ。そっくり。

おかげですぐ操作できた。ラルドに番号を打ってもらい発信する。

繋がったとたんびゅううううう!! とすごい風の音が耳を襲った。


『ダン様!』

『ハナメか? ちっ、よく聞こえねぇ……』


届くように大きな声で言い直す。


『ハナメです!! 大丈夫ですか!?』

『おう、なんとか! しかしいつ船がひっくり返ってもおかしく……おわぁっ』


ガタガタドタッ、と雑音が耳をつんざく。心臓が跳ね上がった。


『ダン様、ダン様!?』

『大丈夫、転んだだけだ! 風にあおられた!』


良かった……でも全く安心できない。

マジックフォンの向こうはすさまじい風の音。ダン様の声も遠い。


『陸に戻りてぇんだが、陸がどっちかもわからねぇ! かじもいうこと聞かねぇ! かなりまずい! 吹雪が収まるまで耐えるしか……おわっ」


ガタンドタドタッ、とまた雑音がし、そのまま電話は切れた。


このまま収まるのを海の上で待つなんて危険すぎる。でもダン様には他に打つ手がない。今電話が切れた時に船が転覆していても……。

ラルドはもう恐怖に追い詰められて涙が止まらない。父ちゃん、父ちゃん……とか細い声で何度も繰り返している。私も涙が出そう。家の中なのに吹雪に閉じ込められたみたいに体が凍てつく。

助けたい。

でもいったいどうしたら……。


不意にアステルムが目の前に降りてきた。


「ハナメ、ノートじゃ」


私にすっと幻獣ノートを差し出す。

脳裏にひとすじの光が閃いた。


そうだ。天気を操れる幻獣を生み出せば、ダン様を助けられるかもしれない……!



私は無我夢中でノートを開きペンを手に取る。


吹雪を鎮める力を持つ……鳥。たくましい大きな翼を持ち、その羽ばたきは雲を消し去り波を穏やかにする。すらりと長い足、真っ白な体。大きな頭は電球のように強く光り船の目指す浜辺を知らせる。


そう、それは漁師を導く鳥。


名前は……。


「トウダイドリ!!」


アステルムが心底見損なったような顔でやっぱり安直じゃの、とつぶやいた。緊急事態なんだから、ネーミングに時間かけてられないじゃない!!


カッ、とまぶしい光がリビングを包み、見上げるほど大きなトウダイドリが現れた。頭が大きくて光っている鶴のような見た目だ。


うーん、なんだかアンバランス。ちょっと不格好だったかな……ごめんね。


ずっと窓の外を見つめていたミーニャさんが振り返る。


「なんだい、その鳥? 今生み出したのかい?」

「はい! 天気を操る力を持っています。これからダン様を助けに行きます!」


生まれたトウダイドリはこの状況がすぐわかったのか、指示を仰ぐように私の目を見た。


私は話しかける。


「吹雪に遭って海で困っている人がいるの。吹雪を鎮めて、浜辺の場所を教えてあげて!」


クゥイ――ッ! とトウダイドリは雄叫びのように甲高く鳴いた。私が玄関を開けるが早いか勢いよく飛び去っていく。


私の書いたノートの設定が甘くなければ、うまくいくはず……

白い風の中に消えていったトウダイドリに、願いを託した。ダン様を助けて!

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