魔王城が思っていたのと違っていた。
魔王城までやってきたが、魔王城が思っていたのと違っていた。
俺が俺のために魔王城と魔王を最教育していく話。
【お前らを再教育してやる!!!】
これは、俺と倒すはずの魔王との教育の記録である。
俺は、勇者と呼ばれる人種だ。
勇者といえば魔物を倒し、魔王を倒し、最後は人々から祝福される職業だ。
そう、仕事なのだ。
今まで命の危険にさらされたことはないが、勇者という職業のせいで、何度も危険な目にあってきた。
間もなく魔王城だ。
この仕事が終われば俺は人々に祝福され、安全な城下町で隠居生活を送る予定だ。
最後に装備品を確認しよう。
剣、防具、薬草…いたってシンプルだ。
なんとかの剣とか、なんとかの武具、なんとかの防具なんてものはない。
ただの剣、ただの防具、ただの草。
これだけでやってきた。
魔法使いや賢者というのは連れていない。
そういう職業は不人気なのだ。
そもそも勇者自体ブラックだし、魔王を倒したとて願いが叶うわけでもなく、ただの隠居生活を送れるってだけの職業だ。
死ぬやつは死ぬ。
俺はいろんな人間が死ぬところを見てきた。
仲間が死ぬような場面は見たくない。
それに、一人で魔王を倒しにいく方が気が楽だし、報酬も独り占めできる。
だから常に一人で勇者をやってきた。
最強だし。
治癒魔法や攻撃魔法というのもあるが、一度も使ったことがない。…いや、使えないんだった。
己の剣ひとつでやってきた。
物理攻撃が効かない魔物もいたようだが、そんなもの関係なく斬ってきた。
魔王を倒すには魔王城を攻略しなくてはいけない。
ビリビリと刺すような魔力を感じる。
今までになかった魔力だ。
だが、俺にはそんなもの関係ない。
よし、いくぞ。隠居生活のために。
魔王城の扉を開ける。
開ける……
開かない。
おかしいな。
あれ、何で開かないんだ?
勇者来たんですけど…
あれ、ウェルカムじゃないの?
そっか。うーん。
ノックしてみるか?いや、押してダメなら引いてみようか。
…開かない。
困った。
少し辺りを見回すと、インターホンがついている。
インターホン?
【ご用の方はこちらを押して下さい】
あー、はいはい。そういうタイプね。
ピンポーン
【はい、魔王城です。どちら様でしょうか】
…
【あ、勇者ですが】
【勇者様ですね。本日はどのようなご用件でしょうか】
【ご用件……魔王を倒しに…来たんですが】
【かしこまりました。アポイントメントはございますか】
【いや…ないです】
【かしこまりました。少々お待ち下さい】
…
なんだこれ。
扉をバーンと開けて魔物斬って魔王倒す流れじゃないのか。
【お待たせいたしました】
【あ、はい】
【本日、魔王は待機しておりますので、どうぞお入り下さい】
そうして扉が開いた。
何かもう疲れたし、やる気がなくなった。
え、魔王城ってこんなんなの?
ちょっとした企業みたいな受付なのに雑だし、待機ってなんだよ。シフト制なのか?
魔王城に入り、薄暗い通路を歩きながら考えていた。
俺、帰ろうかな。
魔物斬りたいし、魔王倒したいのになぁ。
思ってたのと違う。自販機あるし。
帰る……いや~…帰るかぁ。帰る…遠いんだよなぁ。
せっかく来たんだしなぁ。
ズバッと斬って倒すまで我慢するかぁ。
お土産買って帰りたいしなぁ…
お土産?
土産屋まであるよ…
仕方ない。魔王まんじゅうでも帰りに買ってかえるか。