2人の出会い
ある日の事だった。
大戦は終結しその影響も冷めやらぬ魔界にて、ある大事件が起きた。
曰く、人界最強の魔法使い
曰く、魔界の門番破り
そう魔界で囁かれていた彼女はその自覚無く魔界を旅していた。
彼女の名前はイリシス・アイリーン
後に歴代最高の龍と結婚し、魔界を相手に戦うことになる人界最強の魔法使いである。
そんなイリシスだが、彼女は気性が荒い。
お見合いをすれば3回は相手を吹き飛ばす。
隙あらば文句か愚痴を言う。
ひとえに天才ゆえの奇行かと思えば、礼節正しい振る舞いも取れる。
人界では、嫌に荒々しい魔法使いがいたものだ...くらいの認識だった。
だが彼女が19の時、
「もう人界には懲り懲り!! 格式に! 古めかしいルール! ウンザリなのよ!!」
魔法大学にて飛び級で4年生へとなっていた彼女は、ついにその言葉を皮切りに人界から姿を消した。消息、安否共に不明。しかし、そんな噂など数ヶ月で消えてしまった。
そんな彼女だがその数ヶ月で魔界では、一有名人になっていた。
だが、現在の魔界は王がおらず各種族ごとが縄張りを主張し争っているような危険地域だ。
一人の魔法使いが軽々しく入り込んで安全に住む場所などでは決してない。それなのに彼女はそんな魔界でさえも「化け物」と言われ噂されるほどに規格外だった。
妖精族と小鬼族の争いを単騎で平定し、襲いかかる有翼族そのものを壊滅させた。
果たして、魔界では「触らぬ神に祟りなし」の具体例として彼女の名が上がるほどとなっていた。
そんな彼女の旅は、ついに魔界の端まで辿り着いた。
そして、彼女は魔界の端にあった龍の村へと迷い込む。
その頃の龍村は歴代最高の龍と言われていた、とある龍が統べていた。
名をグラン・イデアと言う。
名など付ける習慣のない魔族で名を持つ事。また、イデアと言う龍族において最高峰の龍であることを示す称号を持っていた事。
さらに、王が消えた魔界にて騒ぎ出した全ての龍種を力ずくで抑え込んだというのだから龍としても魔族としても別格の存在である。
そして彼女が迷い込んだ龍村ではとある催し物が行われていた。
「うん? やけに騒がしいじゃないの」
街はどんちゃん騒ぎ。村の前には大きな門があったのだが、本来居るはずであろう門番さえもそのどんちゃん騒ぎに参加しているようだ。門番がいるはずというのはその者らのための小屋があることから知れるのだが...。
彼女は不思議に思いながらもどんちゃん騒ぎの中心へと向かった。そこには...
「何よこれ...」
キャットファイト...ならぬドラゴンファイト。
龍種の女同士が闘技場の上で争っている。
爪が、炎が、雷が。あらゆる魔法やスキルを使いその壮絶さは闘技場の形を変えてしまう程だった。
「なにしてんのかしら...。うん?あれは何かしら」
村の掲示板に貼られていた皮製のポスターには龍識語でこう書かれていた。
『龍帝の妃となりたい龍へ!!
妃となりたくば勝って見せよ!
最後に立っていた女が妃とする』
「...へぇ」
わかりやすくていいじゃない、と彼女は呟いた。
だが、掲示板の前に立っていた彼女に気づかぬほどに龍らも間抜けではない。
「なぜ人間がここにいる!!」
ザワザワと騒ぎ始める龍ら。
それに対して彼女は大胆にもこう言ってのけた。
「ここの龍帝とやらの妻になりに来たわ!! 御託はいいのよ、要は最後に立っていりゃいいんでしょ?」
会場はどっと湧く。
もはや彼女がいつ、どこから入ってきたかなどのつぶやきは聞こえなくなっていた。
龍共も楽しめればそれでいいのである。
なぜなにの呟きはいつの間にか彼女を煽る笑声へと変わっていた。
だが、その龍たちは知らなかった。
彼女こそが魔界で噂されていた少女という事を。
そして彼女も知らなかった。
龍族ほど格式めいた古きを大事にし、歴史に重きを置く、融通の効かない奴らであることを。
結果。
最後に立っていたのは彼女だった。
比喩ではない。
文字通り、その村の全ての女を足腰立たなくなるまでに叩きのめし、その倒した龍らの山の上に彼女は立っていた。
村の闘技場など、原型も留めてはいなかった。
彼女がしたかったのは単に、龍にすら力を示したかった。ただそれだけである。
だが、一晩だけと言われて泊まったはずの龍村の宿。
目覚めれば、知らない部屋に寝かされていた。
枕元には見知らぬ好青年が一人。
彼も、イリシスが起きた事に気づいたのかイリシスに目を向けて、言った。
「...ようやく目覚めたか。朝は遅い方なのだな」
これが、2人の出会い。人界一の魔法使いであるイリシスと、龍帝を冠するグランの出会いだった。
本当はこれには本編があるのに、まだ書ききれていないがためにこっちを先にあげた次第で。
初投稿の作品になりますが、気に入って頂けると幸いです。