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ラグビーのルールを一切知らない人間がラグビーを書いたらこうなった

作者: 七歌

ラグビーワールドカップ2019日本ベスト8記念


※注意!!

※作者は本当にラグビーのルールを知らず百パーセント妄想で書いています。

※執筆直後にタッチダウンはアメフトだという指摘を受けましたが直していません

※そのくらいルール知りません

※ラグビーファンの方が読むと不快になる恐れがありますので、

※ラグビーを心から愛する方は読まないでください。

※それでもいいよという方は超次元ラグビー(笑)くらいの気分で読んで下さい。


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 昔から体が大きかった。


 特に厳しく鍛えなくても簡単に筋肉もついたし、同学年のやつには負けなし。

 暴力に訴えればみんな言うことを聞く。

 それが、戸津とつ げきという子供の人生としてずっと続くと思っていた。


 自分は強い。

 自分は強さを持っている。

 けど――撃のそんなうぬぼれは、ある日唐突に崩されることになった。



『調子のってんなよ』



 ある日の帰り道、撃は高校生と大学生の集団に襲われた。

 その高校生は撃が一度喧嘩で打ち負かした相手で、報復のために体格のいい大学生を連れてきたのだった。

 流石の撃も、自分と同等かそれ以上の体格の男に囲まれては勝ち目はなかった。


 しいていうなら、一緒に歩いていた同級生を逃がせたのは幸いだった。

 普段威張り散らしているのに、いざって時に逃がすための役にもたたないのはかっこ悪い。

 王様はいざと言う時頼りになるから王様なのだ。

 それが出来なきゃかっこ悪い。

 だから、最低限、かっこつけるくらいは出来たと思った撃は、時間かせぎも兼ねて防御に徹していた。


 守りに徹しながら、大学生と、高校生たちを睨みつけて、思っていた。


 自分は、本当に強いのだろうか?


 こうして普段は浴びない暴力にさらされて、撃は少なくとも、暴力と言う点においてこの世に上限がないということを体感していた。

 一番上じゃないのに、強いなんて言えるのか。

 強いなんて、自分で自分を誇っていていいのか。


 そんなことを考えていたら、不意に大学生たちの攻撃が止んだ。

 なんだ、お前、と怪訝な声が聞こえて、撃もまた不可解に思いながら顔を上げた。


 そして、そこに立っていたのは――普段見下していた、同級生だった。


 小さな体。だけど、ちゃんと筋肉がついた体。

 普段は弄られても何も言い返さず、『困ったなぁ』という苦笑を浮かべるだけの、目立たない少年。

 名木なぎ 啓太けいたが、なぜか撃のことを庇うように立っていた。


 啓太は撃のことを庇い、大学生たちに正論ぶちかますと、何度か殴られても変わらず仁王立ちして、大学生たちを退かせた。

 その背中を、撃はぽかん、とした顔で眺めていた。

 自分じゃできなかったことを、普段なんとも思っていなかったやつに容易くやられてしまって。

 いや、もちろん、途中から入ってきた啓太だから出来たことであるというのも理解していたが、それでも撃は驚いていた。

 だって、これではまるで、啓太の方が強いみたいじゃないか。



『……大丈夫?』



 いつものどこか頼りない苦笑を浮かべて、啓太が振り返る。差し出された手を握るより先に、撃は質問を口にしていた。



『お前……強かったんだな』


『いや、別に、強くはないと思うけど……喧嘩して追い払ったってわけでもないし』


『けど、俺にはできなかったことしたんだ。……お前は強いんだ』


『それは……ありがとう?』



 ちょっと照れた様子で頭をかく啓太には、やはりどこか頼りない。

 けど、強い。

 暴力で強いわけじゃない。

 さっき大学生たちを退かせたのはきっと、正面から見ていなかったからわからなかったが、なにか啓太の気迫のようなものに圧されてだろう。

 一瞬見ただけだが。

 大学生に立ち向かう啓太の横顔からは、撃が感じたことのない圧を感じていた。

 それはきっと――撃が持っている強さとは違う、強さだから。



『……教えろよ。お前は、なんで強くなったんだよ』


『ええ? なんでって……うーん……』



 真面目に考え込む啓太。

 それから、なにか思いついたように、顔を上げて。



『……ラグビー、やってるから、とか?』



 そんなことを、言ったのだった。


   ×××


「撃?」


「え? ああ……悪い、一瞬ぼうっとしてた」



 声をかけられて、一瞬意識を飛ばしていた撃は、自分の頬を叩いて気合を入れなおす。

 声をかけてきたのは、啓太だ。一瞬頭の中で廻った記憶よりもずっと筋肉質で、身長も伸びている。と言っても、撃と比べたら大分小さいし、筋肉も付いていないのだが。



「大丈夫? 終盤だけど、気を抜かないでいこう」


「わーってるよ。悪かったって」



 ボール――ラグビーボールを持って、撃は啓太とともにフィールドの中心へと向かう。

 フィールドを取り囲むのは観客席。

 相手として待ち構えるのは屈強な男たち。

 ラグビーワールドカップの大舞台に、撃と啓太は立っていた。



「残り時間十分だよ。気合入れて。お互い無得点なんだ」


「ああ。……これがラストかね」



 ボールを中央に。そして、敵味方でスクラムを組んだ。

 敵味方組み合って、ボールを中央に睨みを利かせる。まだ、互いに力は入れない。ホイッスルが鳴っていないから、本当に『組んでいる』だけだ。

 だが、味方も敵も相手の空気を探っているのが伝わってきた。端で肩を組んでいる撃にも、十二分に、伝わってきていた。


 撃たち日本チームの中心になっているのは、丸山という選手。

 頭が切れ、周囲の観察力に優れる丸山は、肩を組んでいる味方選手のみならず、敵チームの選手すべてを観察して、ボールのとり合いのメインとなる人間を決定する。

 丸山が、組んだ肩のあたりを指先で何度かとんとん、と叩く。

 その『合図』を、味方選手の間に行きわたらせると、端の選手が丸山にアイコンタクトを送った。おそらく敵選手も同じようなことをしたのだろう、アイコンタクトを終える。


 そして――ホイッスルが鳴った。


 鋭い笛の音を聞くと同時に、スクラムを組んだ選手の筋肉が一気に盛り上がり、ドーム状に組まれた男どもの体が軋みうなる。

 ボールを中心にした、究極の力比べ。

 力量差がある場合、ここで完全に押し切ってボールを安全に奪取することもある。だが、互いのパワーはある程度拮抗していた。


 その場合、どうするか。


 スクラムの中心である丸山が、一歩足を踏み出す。

 それを合図として、先ほどの『合図』によって選ばれた味方選手が、スクラムを外れ前に出た。

 中央にある、ボールに飛びかかる。

 だが、それは敵も同じ。人が抜け、拮抗状態から一気に崩れ始めたスクラムの中から、選手が一人飛び出してくる。

 どっちがとる、と撃はなるべく多くの敵選手を巻きこみながら倒れ込みつつ、ボールの行方を注視した。

 そして、ボールをとったのは――敵選手。

 その大きな手のひらで楕円のボールを掴みとると、倒れ込むスクラムを組んでいた男どもの山から抜け出して、撃たちのチームのポイントへと駆け出していく!



「止めろ!」



 それは誰の声だったのか。

 わからないが、撃たち日本チームが一気に動き出す。敵も、同じく。

 ボールを持った選手に、スクラムの後ろで待機していた日本選手たちがまとわりつく。ラグビーはボールを持った人間にだけ組みつくことが許される。あとは、ボールを持った人間に組みついた『味方に』組みつくこともOKだ。


 ボールを奪った敵選手に最初に組みついたのは、相撲の技術をラグビーに取り入れた選手・高藤だった。

 筋肉で肥大した体を素早く動かすと、敵選手と正面からぶつかり合う。その瞬間、高藤は敵の体と自分の体の間に、敵の腕ごとボールを挟みこんだ。パスを封じる作戦だ。

 決まった、と撃は思った。高藤の『組手ブロック』は、撃も逃げ出せたことが無い。

 このまま投げ飛ばしてしまえ、という味方の願いが通じたのだろう。高藤は片足を軸にして、敵選手を投げ飛ばそうとしたが……動かない。


 敵選手の体は、動かなかった。

 一番驚いているのは高藤だ。まさか自分が寄りきれないほどの選手がいるなんて、と驚愕の表情を浮かべていたが、すぐにその原因が発覚する。

 敵選手の脚に、他の選手がしがみついていた。

 味方選手に組みつくのは、もちろん反則ではない。


 わかりやすい重量増加によって、高藤の得意技は崩壊する。逆に、足に重りを得た敵選手は、絶対的な下半身の安定感を持って高藤を跳ねのける。

 そして、素早くしがみつきというアシストを解除すると、ボールを持った敵選手はさらに深く進んで行こうとする。


 ゴールにタッチダウンされれば、今から巻き返すのは厳しいだろう。

 負けるものかと次々と組みつく撃のチームメイトたち。

 流石に緩む敵の移動速度。これ以上はボールをとられると思ったのか、敵は後ろにいた仲間へとボールを投げ渡した。

 だが、そのボールを。

 撃が、とる。



「――ッしゃあ! とったぁ!」



 ボールの投射線へと飛びこむ無様なキャッチの勢いそのままに、撃は地面を転がった。

 だが、完全に体勢を回復するよりも早く、撃は味方へとボールをパスする。


 一転、攻勢。


 守りに徹していた味方の大半が、一気に敵陣へとラインを押し上げていく。

 撃もまた、敵の邪魔がなるべく入らないように牽制し、そして時にボールを渡されつつ、前へと出て行く。


 ゴールまで、十メートルを切る。

 この辺りから、敵の防御も厳しくなってくる。ラグビーでは前へボールは投げられないので、斜めに浅くボールを繰り返しパスしつつ、時に強引に敵を突破しながら、ゴールへと近づいていく。


 あと、三メートル。


 だが、ゴールの前には敵の守護神が待ち構えている。二メートル近い巨体。日本人ではありえない筋肉の塊のようなその選手は、ボールを持った選手を圧殺してやろうという殺意をにじませて待ち構える。


 そのタイミングで、ボールは撃の手元に。


 たしかに撃はチーム内でも体格はいい方だが――『ゴールを決めろ』という意味ではないだろうと、撃はボールを受けとりながら思った。

 ちらりと、横に視線を一度、敵に気付かれないようにやってから。

 撃は一気に、敵の守護神へと距離を詰めた。

 近づくと、守護神の圧迫感が伝わってくる。多少体を左右に振ったくらいでは逃れられない、圧。

 それを前に、今日何度目かわからない冷や汗をかきながら、撃はギリギリまで近づき――



「……誰がやるかよ、お前とっ」



 肉の圧が襲い掛かる直前、視線を動かさないままに、ボールを横に強く飛ばした。

 その先に誰が居るのか、見なくてもわかっている。


 啓太だ。


 さっき視線を送った時、敵にマークされていた啓太は、しかし、撃のパス射線上に飛び込んできていた。

 だが、そのすぐ後ろには敵が迫っている。

 マークを外せたのは本当に一瞬だ。一瞬でもボールを持てば、啓太に渡ったボールは奪われるだろう。

 それを、啓太もわかっている。

 撃だって、わかっている。


 だから、啓太は――ボールを完全にキャッチすることなく、その勢いも殺すことなく、受け取った瞬間、撃の少し後ろへと返した。

 そして啓太の投球に合わせて、飛びだした選手が、ボールをキャッチする。

 残る関門は守護神だが、それには撃が対応する。ボールをキャッチした選手と守護神の間に体を挟みこんで、撃は守護神を抑え込んだ。



 そして――味方のタッチダウンが決まる。

 日本、得点。

 それとほぼ同時に、試合終了の笛が鳴らされた。


 突撃しようとする守護神を背中で抑えていた撃は、ホイッスルが鳴ると同時にその場に腰を落とした。

 すると、巨大な手のひらが、ぽん、と存外優しく撃の背中を叩く。

 振り返れば、いい笑顔を浮かべた守護神がサムズアップをしていた。それに撃も同じように親指を立てて返すと、守護神は挨拶のために中央へと悠々と歩いていく。

 どっちが勝ったんだか、と思っていると、啓太が撃の元へと駆け寄ってくる。



「お疲れ様、撃」


「そっちこそお疲れ。相変わらずすげーパスするよ、啓太は」


「ちっこいからね。乱戦向きじゃないんだ、このくらいはしないと。そっちこそ、守護神抑え込んだのは金星だよ。監督に褒められるんじゃない?」


「おっさんに褒められても嬉しくねー」



 言いながら、撃は啓太が差し出してくれた手を握った。

 すると、やっぱり、『あの日』啓太が手を差し出してくれたことを思いだす。

 今は、その手を握ることになんのためらいもない。

 それはきっと、撃も強くなれたから。



「……ありがとな、啓太。ここまで連れて来てくれて」


「? なに言ってるのさ。撃が自分で来たんだろ?」



 どうだかな、と笑いながら、撃は啓太とともにフィールド中央に向かった。

 強く、確かな足取りで。


   ×××


 その後。

 初戦からぎりぎりの戦いを繰り返すこととなったラグビー日本代表だったが、その後、発のベスト8進出を果たすことになるのだった――

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