番外編1 ある男の独白
私はずっとカイル・ティルナートが気に入らなかった。侯爵家当主という地位、端正な美貌、それらのものを兼ね備えていたからか、どこか他人を見下しているところがあった。それでも表面上はそこそこうまく付き合ってきたとは思う。奴があんなことを言いださなければ。
「え、手を引く?」
「ああ、申し訳ないが……」
申し訳ないと言いながらそんな風には見えないティルナートに呆然とする。
私が出資している事業への出資をティルナートもしていたのだが、彼は突然取り止めると言い出したのだ。彼の出資分は多く、それを取り止めたら事業への深刻なダメージは避けられない。
「どうか考え直してくれないか?」
「いや、それは無理なんだ。これでは採算が取れない。申し訳ないがわかって欲しい」
そうして奴はあっさりと切り捨てた。そのせいで、私の負ったダメージは少なくなかった。
許せない。これまで気に入らなかったから、余計に許せなかった私は、奴に復讐することを考えた。
そのために私はルイーザという奴の女を利用することにした。この女は本当に強かで、社交界では自分の利になりそうな男を見つけては自らの美貌を使って利用していた。だから遊び相手としては最適だったのだろう。ティルナートは明らかにそういう扱いをしていた。そんな女が奴に牙を剥いたら面白い。ただそんな軽い気持ちだった。
夜会の前にあらかじめルイーザと打ち合わせをして、彼を陥れる算段をした。薬を盛って事に及んだからといって、相手はルイーザだ。結果的に合意で済まされるだろう。だから私の心は痛まなかった。
「何をしてるんだ!」
だが、乗り込んで驚いた。いるはずのルイーザはおらず、別の女性がぼろぼろのドレスを纏って泣いている。
私は人違いをする可能性を全く考えてなかった。
すっと血の気が引いたが、このままでは作戦が失敗する、その方が恐ろしかった。だから私は続けた。
そうして夜会の出席者たちが集まってくる。これも狙い通りだ。だが、その中には女性の婚約者もいた。
私は何てことをしたのか。
罵倒されて泣く女性、そんな彼女に投げられる嘲りと侮蔑の視線。これは芝居ではない。そうして彼女は謹慎という名目で、実質追放されてしまった。
それからはずっと自分の罪が暴かれるのではないかと怖かった。そして、軽い気持ちで行動したせいで罪のない一人の女性を地獄に突き落としてしまった罪悪感は常に私に付き纏った。
いつばれるのかと怯え、罪悪感に苛まれる日々は、私の精神を疲弊させた。だからだろう。とうとうティルナートに知られた時は、正直に言ってほっとしていた。
結果は国外追放で、私は貴族として生きていくことはできなくなった。でもそれくらいで済んだのはいい方だと思っている。私はこれから庶民として生きていかなければならないが、それほど気は重くない。むしろあのきらびやかに見えても、恐ろしい世界から解放されたのはよかったかもしれないと思う。
あの女性は元気だろうか。
罪を犯した私が言えることではないが、巻き込んだ彼女には本当に申し訳ないと思っている。どうか彼女の人生が幸せなものであればと、遠い空の下から願う。




