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両親の来訪が与えた変化

よろしくお願いします。

「色々ありましたが、ヴィルヘルミナにはここにいてもらおうと思います。もちろん離縁は考えていません。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 二人の世界に入っていて置いてけぼりだった両親に、カイル様が謝る。私が泣き止むのを待っていてくれたのだ。落ち着いた私は、カイル様の隣で話を聞いていた。


「いえ、娘のことを考えていただいて嬉しく思います。ただ、娘の記憶が戻った時のことを考えると、本当にこれでいいのかと不安なのですが……」

「お義父上の心配はごもっともです。それは私も考えました。ですが、今彼女が実家に帰ると、また変な噂が流れてしまわないかと、私はそれも危惧しています。もちろん今度も私が全力で潰すつもりですが」

「そこまで考えてくださっていたとは。ありがとうございます」

「いえ、私にはこれくらいしかできませんから。それと、これからはまめに手紙を送ります。少しでも彼女に異変があればお知らせしますので、その時にどうするのがいいか、相談しながら決めていきませんか?」

「そこまでしてもらうのは……」

「私は貴方方にも償わなければいけません。私の愚かさが招いたことで、大変な迷惑をかけてしまいました。これくらいでは何の罪滅ぼしにもなりませんが……」


 父とカイル様の間でどんどん話が進んでいく。私と母は黙って隣で話の成り行きを見守っていた。


 それにしても、カイル様は私だけでなく、私の両親にも贖罪を望んでいる。彼は一体何をしたのだろうか。今の私が知っている彼の姿とは、まるで一致しない。

 そうして私が思案に耽っている時だった。


「それで、レオン殿はお元気ですか?」

「ええ、元気にやっています。ただ、まだ跡継ぎとしてはまだまだですな。ティルナート卿のようにしっかりしてくれないと、領地を任せられませんよ」


 男同士で話が弾んでいて口を挟まなかったが、途中に知らない名前が出てきたので、向かいの母にこっそりと尋ねた。


「レオンとは誰ですか?」

「貴女のお兄様よ」


 私には兄もいたらしい。また与えられた新たな情報に私は驚いた。


「お前とレオンは仲がよかったからあいつも心配していたよ。会いたいとも言っていたから連れてくるつもりだったんだが……」


 父はそう言ってカイル様を見た。視線に気づいたカイル様は苦笑する。


「最後に会った時に喧嘩をしたんだよ。気まずくて来れなかったんじゃないかな」

「いや、あれは喧嘩ではなくて一方的な暴力だった。倅が大変失礼なことを……本当に面目ない」

「殴られるだけのことをした私に責任がある、そう言ったはずです。だからお互い様ということで彼を許してください。そうじゃないと私は彼に合わせる顔がない」


 ところどころ私の知らない話があるけれど、要するに兄はカイル様に暴力を振るったということらしい。伯爵家の次期当主が格上である侯爵家当主に暴力を振るうなんて、よっぽどのことがあったのだろうか。でもカイル様と接していて彼がそんなにひどいことをするようには思えない。


 それからしばらく二人が話しているのを聞いていたが、両親はこの後約束があると、帰ることになった。元々その用事があって近くまで来ていたから、急な来訪になってしまったのだそうだ。

 最後まで心配をする母と、何か言いたげな父を、私は満たされた思いで見送った。


 ◇


「少し、話をしないか?」


 両親を見送った後、カイル様にそう誘われて庭を散歩している。


「今日はありがとう。ご両親とはいえ、君にとっては初対面の方々だ。疲れたんじゃないかい?」

「いえ、嬉しかったです。会わせてくれてありがとうございます」


 両親に会って、本当によかったと思う。自分が両親に愛されて育ったのだと実感できたし、今の私がカイル様に愛されていることを知ることができた。

 こんなことがなければ、私はずっと自分は孤独なのだと、自分の殻に閉じこもっていただろう。


「……私のことを身勝手な男だと君は思うだろうね。以前の君とは離縁を考えていたのに、今更君を愛してるなんて言うのだから」

「いえ、そんなこと。身勝手なのは私の方です。私は目が覚めてからずっと、貴方に寄りかかってきました。そんな私に貴方を好きだなんて感情を持つこと自体がおこがましいのに、私は以前の私に嫉妬したんです」


 私の言葉にカイル様は驚いた。


「どうして……」

「貴方はいつも、以前の私にこだわっていたから。償うためだとしても、以前の私に特別な思いがあったからだと思っていたんです。まさかうまくいってなかったとは思いませんでしたが」

「それは……」


 カイル様はまた辛そうな顔になる。

 以前の私にしたことを思い出しているのかもしれない。だけど、今の私にはそれを責める理由なんてないのだ。


「それはもういいんです。私が言いたかったのは、身勝手なのはお互い様だということです。今の私は貴方に思われてすごく幸せなんですよ。それはわかってください」

「……やっぱり君は優しいね。そうやって私の罪悪感を軽くしようとしているんだろう?」


 カイル様の中で、私は一体どんな素晴らしい女性になっているのだろうか。私は思わず苦笑した。


「全く違います。私は自分本位なんです。貴方が以前の私に気持ちを寄せることが気にいらないだけの、心が狭い女なんですよ。同じ私だとしても、私の中では別人なんです。好きな男性が別の女性のことを考えるのが嫌なのは当然でしょう?」

「そういうものなのか」


 カイル様は首を傾げている。

 まあ、そうだろう。こればかりは彼も記憶を無くしてみないとわからない気持ちだろうとは思う。なって欲しくはないが。


「わかってくださったなら、もう私に謝らないでください。私はその度に以前の私に嫉妬しなくてはならない羽目になりますから」


 私はそう言って笑う。カイル様は目を細めて、そんな私を見た後、真剣な表情になった。


「わかったよ。君に謝ることはもうしない。その代わりに、今の私にできる全力で君を守るから」


 これは彼の本心なのだと思う。

 でも私はここで頷いてはいけない。頷いてしまうとまた、これまで通りに私は何もせず守られるだけの厄介者のままになってしまう。

 折角変わり始めた関係を元に戻したくはないのだ。


「……私は守られたい訳ではありません」

「え?」

「貴方と一緒にいると決めた以上、私には侯爵夫人という肩書きがついてきます。確かに今の私は記憶がないせいでその役目を果たすのは困難でしょう。それでも私はこれからも貴方やシェリアと一緒にいたいし、貴方達に胸を張れるようになりたい。だから少しずつでもその役目を果たしていきたいのです。ただ守られるだけの存在にはなりたくないのです。それをわかってはくれませんか?」


 カイル様はしばらく無言で私を見つめた後、頷いた。


「……私はやっぱり愚かだな。君の幸せや気持ちを決めつけて縛り付けていたのかもしれない。それが君の矜持を傷つけることになるとは思わなかった。わかったよ。それが君の望みなら、君の思う通りにしてくれ。その代わり、私に君を支えさせて欲しい。夫婦なのだから」

「ありがとうございます……!」


 ようやく私の思いが伝わった。

 今日はなんて素晴らしい日なのだろう。両親や彼の愛を感じられ、私自身も一人の人として成長できるのかもしれない。


 これからは侯爵夫人としての重責を背負わなければいけない不安はあるが、私は一人じゃないのだ。

 私はこれから目まぐるしく変わるだろう日々に思いを馳せた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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