盾の勇者が頑張ってみた
血まみれになった服を浄化し、フェルの服は新しいものを出した。丁度いつか渡そうと思っていた服があってよかった。よく似合っていて可愛い。
エド君の家に戻ったら、誰かが地面に座り込んでいた。具合が悪いのかと思って駆け寄ったら、エド君だった。
「ご主人様…」
「エド君!?怪我しているじゃないか!すぐ治すからね!」
よく見たらエド君は擦り傷だらけだった。治癒…いや、その前に消毒?アワアワしていたら、エド君の後頭部しか見えなくなった。何故土下座?
「ご主人様、すいませんでした!俺…俺、大事にしてたんです!俺にとって、信頼の証で誇りだったんです!なのに…なのに……うあああああああああああ!!」
「エド君!?」
エド君が泣いた。号泣だった。オロオロするしかできない。とりあえず、消毒?
「ったく、女々しいやつだ」
エド君じいじがため息を吐いた。エド君の様子から察するに、壊れたものは十中八九、盾だろう。エド君じいじが破壊したのだろうか?エド君じいじを冷たく睨みつけた。
「……エド君の祖父殿は冷たい方でござるな。己の大切なものが壊れて嘆く者を、女々しい!?いいでござるか!?それだけ大切にしていたのでござるよ!傷ついた者の傷口に塩を塗るも同然!!この、鬼畜!!」
「じいじ、最低。お兄ちゃん、お茶淹れてあげる」
可愛い孫娘からの冷凍ビーム!!効果は抜群だ!
エド君じいじも泣いたが、知らないふりをしてあげた。
「じいじ、女々しい」
きっちり止めを刺すあたり、エリスちゃんは間違いなくエド君の妹さんでござるな。
「すいません、取り乱して」
エリスちゃんが淹れてくれた温かい紅茶で落ち着いたのか、エド君はポツリポツリと話し始めた、
今日の休暇はエド君じいじに稽古をつけてもらっていたそうだ。
「俺、勇者の盾が欲しかったんです」
祖父と同じく盾の勇者として適性があり、盾の勇者に、祖父のようになろうと努力した。だが、気がついてしまった。
自分に祖父ほどの才覚はない。
挑めば挑むほどに、到達すべき場所が遠いと理解してしまう。いつしか、エド君は言い訳をするようになった。
『祖父は特別なんだ』
『自分は祖父に勝てないんだ』
『祖父が死ねば盾は手に入る。それでいいじゃないか』
そうやって逃げ出した罰なのか、奴隷に落とされた。抗おうとも数には勝てない。武器もない状況で勝つすべはなかった。
そこで、出会った。強くて弱くて、賢くて愚か。そして何より、たくさんの奴隷の中から自分を選び、信頼してくれた人。中途半端な自分を認めてくれた人。
だから、信頼の証である盾は宝物であり誇りだった。認めてくれた人が『自分のためだけに』誂えた盾だったから。
もう、勇者の盾なんかいらない。自分にはこの盾でいい。いや、この盾がいい。この盾に相応しい自分になりたいと思えた。
だから、逃げ続けたものとも向き合おうと考えた。今自分にできる最善は、少しでも祖父からスキルを盗むことだ。休日であるこの日、祖父に頼んで稽古をつけてもらった。何年ぶりだろうか。
盾の勇者として完成した男から、得るものは多かった。
しかし、そこで事件が起きた。
『勇者の資格を持つ者よ。お前は私を使うに相応しい』
勇者の盾が輝きながら俺に話しかけてきた。あんなにも欲しかったものが、今は色褪せて見える。今の自分が使いたいのは、勇者の盾じゃない。
「悪いな。俺はご主人様がくれたこいつさえあれば充分だ」
心から、そう答えることができた。今の自分はこの盾に相応しい人間になること。未熟な自分に勇者の盾は相応しくない。くやしいが、祖父ぐらいの域に到達してからだろう。
「ぎゃあああああああああああああああ!?」
油断したのがいけなかったのだろうか。そう答えた瞬間、なんと盾が盾に食われた。そうとしか言いようがなかった。そして大事な盾を失った自分は、とにかくご主人に謝罪しなければと待っていた。
「………これが、その盾です」
以前に見たのと形状が違う。いくつか見覚えがある術式が刻まれているが、まったく知らない術式もある。勇者の盾の特性なのか、この盾だけなのか。今までにもたくさんの盾を取り込んできたのでござろうな。
「確かに、拙者が刻んだ術式があるでござるな」
自分の筆跡をなぞる。ふーん、ちゃんと使えそうでござるなあ。混線したりしていない。すごいなぁ。
「………怒らないんですか?」
なんで怒るのだろうか。この盾、カッコいいと思うよ。
「そもそも、盾が強ければエド君の生存率が上がる。拙者は盾よりエド君が生存する方が大事でござるよ。歓迎こそすれ、怒らぬでござる。それに、拙者がこの盾に籠めた期待や信頼は変わらぬでござる。盾に認められるなんて、流石はエド君でござるな!おめでとう!!」
今日はお祝いだね!フェルがたくさんお肉を狩ってくれたし、肉料理がいいかな?
「エド、おめでとう」
「そっか、お兄ちゃん、おめでとう」
「まあ………よかったな」
フェル、エリスちゃん、エド君じいじがそれぞれ祝福の言葉を伝える。
「………ありがとう、ございます」
泣き笑いのような顔のエド君。みんなで笑いあった。
「さて、じゃあこの盾、カスタマイズしようか」
「あ、はい」
「おい!?」
『ぎゃあああああああああああああああ!?』
拙者が取り出したドリルに盾が怯えたが、知らないふりをしてカスタマイズしてやった。だってあのままじゃエド君が使いにくいし。
「あっはっは。諦めてくだされ。…………………うちのエド君を泣かした罰でござるよ」
盾がどれだけ泣き叫ぼうが無視してカスタマイズしてやった。皆ドン引きしていた気がする。なんで?
普段温厚な人がキレると怖いパターン。
悲鳴をあげる盾に対し、あっはっはと言いながらパーツを交換したり削ったりする貴文。
※この間、ずっと無表情。本人は無意識。
貴文は怒らせてはいけません。




