違う扱いをされてみた。
双剣の勇者、シーザ君視点になります。
教会の孤児がつける職なんて、数えるほどしかない。ただ、僕は腕っぷしが強かったし、たまたま双剣の勇者になれたから、冒険者になれた。それなりに成功した。だけど、誰にも気を許せなかった。猫妖精の獣人だと、誰にも言えなかったから。猫でも鳥でもない自分が、嫌いだったんだ。親もきっと、そんな中途半端な僕が嫌いで捨てたんだ。そう思っていた。
僕が猫妖精だと知るのは神父様と古参のメンバーだけ。昔はコントロールが苦手で、よく耳や尻尾や羽を出していたから。
「いいですか、シーザ」
神父様は言った。
「猫妖精だと知られてはいけません。よからぬ輩に狙われるかもしれない。幸い、君には才があるようだ。強くなりなさい。自分自身を守れるように」
神父様は優しいから、中途半端な僕を教会から追い出さなかった。知られてはいけないのは、僕が醜いからだ。
神の武器、勇者の証である双剣は言った。
「強くなりなさい。誰かを守れるように」
僕が守りたいのは、神父様と仲間達だ。ただ、ひたすらに強さを求め、気がつけばBランク……それなりの冒険者になっていた。それなりに稼げるようになっで、神父様にお金を渡せるようになった。皆もガリガリじゃなくなった。
そんなある日、尾行されているのに気がついた。
「誰だ?」
路地裏に誘導し、尾行していた男の首もとにナイフをつきつけると、男が笑った。
「教会が、大事なんだな。今、俺を捕まえれば仲間が教会に火を放つ。あそこは木造だから、さぞやよく燃えるだろうな」
「…………………何が望みだ」
気配を察知してみたが……確かに僕の射程範囲外に数人いる。一人なら倒せるが、三人は無理だ。僕は、汚れるしかなかった。
蜘蛛の魔物に食われるのは、自業自得。僕は他者を犠牲にしたクズだから仕方ない。何が勇者だ。僕は………僕は強くない。
ねえ、神様。僕、ずっと教会に寄付してた。祈りだって欠かさなかった。
ねえ、神様。だから、だからお願いします。
何の罪もない彼らを………冒険者を助けてください。
僕はいいです。生きる価値のないクズです。でも、この人たちには家族もいるし帰る家もある。彼らがいなくなったら、泣く人がいるんです。
ねえ、神様………僕は死んでもいい。お願いだから………。
「あと数人………まだ生きている!できる限り、助けるぞ!!」
神父様、僕、神様の声を聞いたよ。神様、ありがとう。
そして、僕はまだ生きていた。仲間……という資格はないだろう。冒険者達も生きていた。奇跡的に、全員無傷。助けてくれたのは神様じゃなくて、タカ=レイターという冒険者だという。
会ってみたら、穏やかそうな青年だった。しかし、とんでもない発想力の持ち主だった。神様ではないけど、僕は彼に恩がある。冒険者達が死なずにすんだのは、彼のお陰だ。
「うん、君ってば期待していた以上に面白いや!僕もパーティに入れてください!!僕は双剣の勇者シーザと言います!」
「……………へ?」
彼はキョトンとしていた。しまった、唐突過ぎたか!
「ごめんなさい」
タカ=レイターは僕に頭を下げた。やっぱり僕みたいな汚れた奴は受け入れてもらえないのかな?
「なんでです?信用ができないから?」
「では、何故貴殿は拙者らとパーティを組みたいのでござるか?」
「んん……しいて言うなら面白そうだから?」
本当の事は、言えない。面白そうと思ったのは、嘘じゃない。でも僕の本当の願いは彼への恩返しだ。
「で、本音は?それはオマケでござるよね」
「…………ふうん。バカではないんですね」
どこまでも見透かすような瞳に、ドキリとした。彼に意識を集中していたせいか、捕縛されてしまった。
「何故、彼を?」
ああ、バレたんだ。罪には罰を。仕方ないよね。みんなが死ななかったのは、たまたまだ。
「彼は、どうなるのでござるか?」
「犯罪奴隷になる」
仕方ないよね。僕に選択肢なんてなかった。
「シーザ殿、貴殿は何故手引きを?」
「身内を人質にされたんですよ!言うことをきかなきゃ家を……教会を……皆を殺すって……結局僕も捨て駒でしたがね!」
理解していても、見捨てられなかった。僕だって、本当はやりたくなんかなかった。僕だけならよかったのに。こんなに苦しくなかったのに。
「……………は?」
見上げたら、タカ=レイターは泣いていた。こんなのあんまりだって泣いていた。貴方は、僕のために泣いてくれるの?
結局、僕はタカ=レイターに買われることとなった。奴隷になると勇者の力は使えないけど、なくたって戦える。一生をかけて奴隷として恩返しをしようと決めた。
しようと決めた、んだよ。
でも、実際はあり得ない厚待遇。これ、絶対に奴隷の扱いじゃない。教会でチビ達に菓子をやっていたら、底から金貨が出てきた。寄付って…………これだけあれば雨漏りしていた教会の修繕もできるだろう。
タカ=レイター様…いや、ご主人様のために戦おうと決意したら、ご主人様が白い服を来てチビ達に食事を与えていた。
「シーザ、手伝え」
「え?あ、はい」
いや、おかしいよね?なんで来たの??
「神父様、シーザ殿の主となりました、タカ=レイターにございます。大事なお子さんを連れていくことになって申し訳ありません。必ず彼がここに戻れるようにします」
「………シーザの主が、あなたのような慈悲深い方で安心いたしました。また、この教会に護衛をつけてくださり、このような寄付まで……感謝してもしきれません」
え?この人おかしい。どうしてそこまでしてくれるの?
「…………なんか、シーザは奴隷になったってか……金持ちの里子に出るみたいだな」
「それだ!!」
ずっと違和感があったんだよ。孤児院に来た里親みたいになってる!!年長の孤児院仲間に頷いた。
「諦めろ。うちのご主人様に常識は通用しない」
そんなエドさんからのお言葉を、嫌ってぐらい実感する羽目になることを、僕はまだ知らなかった。




