敵の資金を削ってみた
エド君からひとしきり説教を受け、ようやく解放されました。うん、やったらダメなタイプの冗談でござったな。素直に反省したら許してくれたでござる。
「で、何を作ってたんですか?」
あ、そこ忘れてなかったんでござるな。現在鍋の中身を魔法で瓶に注いでいる。瓶は一個ずつ時間停止を刻んでいたのでござるが、ラビルビから全部割って作り直せば早いのではと言われ……その方法なら五分で全部できた。悲しくなんかないんだから!効率的なやり方を見つけただけだもん!効率的なのはいいことだ!
「………この鍋の中身……まさか霊薬?」
「正解でござる」
さんざん霊薬を飲まされていたからか、ユージェニス殿が鍋の中身に気がついた。
「まさか、この鍋……全部!?」
「いや、あっちの鍋は特級回復薬でござるよ」
「ご主人様、どういう事か説明していただけますよね?」
「喜んで!!」
拙者、気がついたのでござるよ。奴等は的確に霊薬と特級回復薬に必要な薬草の産地を確保していた。つまり、やつらは大量に霊薬と特級回復薬を作っている。もしかしたら、世に出回っている霊薬を独占しているかもしれない。霊薬や特級回復薬が高価なのは素材だけでなく作れる人材が少ないから。
だから、拙者は考えた。
「大量に作って、価格破壊したら奴等の財源なくなるよね!霊薬や特級が安くなったら、冒険者の死亡率が下がるよね!ウィンウィンだよね!!」
「ああ、まあ……」
「謎の錬金術師ハナタカ=ダッカー印の霊薬&特級回復薬として、ジャンジャンバリバリ売るでござる!利益でついでに霊薬保険を設立するでござるよ!!」
「なんすか、それ」
「月々いくらの保険料で、貴方が瀕死になったとき、冒険者ギルドが霊薬を使ってくれるってやつ」
「それ詳しく!」
説明したら、すごくいいと思いますって誉められた。ハナタカ=ダッカー印にするから、拙者この霊薬と特級回復薬のお金を使えないのよね。もうけは期待してない。しばらくはマイナスだろうから、冒険者ギルドに寄付して冒険者へ還元していただく方向で。ギルド職員は元冒険者も多いし、重傷者の判断は的確でござろう。
エド君は拙者の説明を紙に書き出し、ユージェニス殿と推敲していた。ユージェニス殿はすごく頭がいいらしい。拙者は拙者で作業を再開した。とりあえず目標は一万本ぐらいかな?
「あ、協力の対価は拙者式時短回復薬レシピだって言っといて。それから、その製法で作った回復薬や霊薬は『ハナタカ=ダッカー印』で売ることも条件につけてね」
「なるほど……でしたら、出所を特定しにくくするために薬師は分散させた方がよいですわ」
「だな」
二人は相談しながら仕事をしている。机は薬草が占領していたため床で書き物をしていたが、机がある場所で作業したいと出ていった。真面目に話すユージェニス殿は綺麗だった。
うーん、ちょっと暑くなってきた……でも今室内冷やすのはできないなぁ。
「ぱたぱた」
世界一美しい女の子がウチワ的なモノで扇いでくれている!
「ぱたぱた」
え?ナニコレご褒美?拙者が頑張ってるから神様がご褒美くれたの??神様……ありがとうございます。拙者、必ずやディスピーを泣かせてやるでござるよ。シオシオのパーにしたるでござるよ(興奮しすぎて意味不明)
つうか、口でぱたぱたって言ってる。かわゆす。可愛すぎる。扇いでもらうとか、拙者今ご主人様っぽくね!?
そして、拙者は調子に乗ってみた。
「ふぇ、フェリチータ殿」
「ぱたぱた……くうん?」
「せ、拙者暑いな~。冷たい飲み物欲しいな~。そこにある冷たいお茶が飲みたいな~」
チラッ、チラッとアピールしてみた。フェリチータたんは嫌な顔もせず、ニッコリ笑ってストロー付のコップを持ってきてくれた。ちなみに中身は緑茶。紅茶も緑茶もほうじ茶もある。
「あ~、今繊細な作業してるから手が使えないんだよな~」
これは本当。あと……少なくとも数分は微細な魔力コントロールを要するから、手が使えない。チラッ、チラッとアピールする。
「でも、暑いから飲みたいな~」
「くちうつし?」
「んのぅおぅおおおおおん!!」
やっっべ!危うく魔力コントロールをミスるとこだったでござるよ。そんなことされたら、萌え死ぬ!破裂する!!爆弾ぶっこんでキタああああああ!!
「きゅーん……」
あ、フェリチータたんがしょげた。しょげても可愛いが、フェリチータたんには笑顔が似合うのでござるよ!
「の、飲ませてほしいな~、なんて……」
「は~い!」
それから拙者は、世界最高の美女に冷えたお茶を飲ませてもらうという贅沢を堪能した。幸せ~。
「ご主人様!草案できました!……お邪魔でした?」
「いいえ、ちっとも!!」
「エド……ごほうびたいむだった、のに……」
フェリチータたんに汗を拭いてもらってデレデレしていたのを見られてしまった!はずらかすぃ!!エド君が仕切り直しと咳払いしたら、エド君の背後にいたユージェニスさんが瞬間移動して拙者の目の前に現れた。
「ハァハァ……汗でしたらアタクシが舐めとって「いんらん、いらん」
「させねぇよ!ご主人様の尻は俺達が守る!!」
是非尻以外も守ってくだされ。何故尻限定なの。エド君も混乱してるっぽい。
「草案、見せてくだされ」
「あ、はい」
ざっと目を通したが、素晴らしい草案だった。拙者のアイディアを、解りやすく的確にまとめてある。
「二人とも、見事でござる。エド君、交渉はお願いするでござるよ」
「はあ……わかりました。ご主人様はもっと霊薬と特級回復薬を作るんですね。適材適所ってことで、引き受けます。なんというか……これ考えてて、あんたにお仕えすると決めた俺はスゲー見る目があるなって思いました。行ってきます」
「………エドがデレましたわ」
「デレてねーわ!!行くぞ、クソ姉!!」
「なんですって!?この愚弟!!」
慌ただしく出ていく姉弟を眺めながら、また作業を再開する。
「なかよし、だね」
「うん」
拙者もそう思うわ。仲良しだよね。
「フェルたちも、なかよし、だね」
「…………うん」
そうなりたい。そうだといいなって思ったら、なんか瞳をキラキラさせたラビルビとラウビウ達とラッキーがいた。
「皆、仲良しでござるな」
「なかよしみう~」
『みうう~』
「わう(当然だな)」
拙者、すごくすごく幸せだと思ったでござるよ。なんか嬉しくなったらテンション上がって、作業効率も何故か上がって……。
特級が十万本、霊薬が八万本、できてた。
エド君がドン引きして、あんた本当に人間ですか?と言われた。酷いと思うの。
やたらたくさん出来たのは、ソーネ君の仕業だと気がつかない貴文達でした。エド君的に、貴文ならやりかねないから人間かが怪しいと思ったようです(笑)




