歪めてみた
一気に意識が覚醒し、勢いよく起き上がった。
「うわっ!?」
「わう?」
「おや?」
「おはよう、ダーリン」
周囲を見回すが、ギルドマスターはおらず拙者の仲間と美青年なお兄さんだけだった。
「エド君!相談がある!」
「ふへ?わ、わかりました」
「ん~?居ない方がいいかな?」
美青年なお兄さんは察しがいい。エド君が視線を向けただけで、そう告げた。
「いや、かまわぬでござる。できれば貴殿にも協力していただきたい」
「ふふ、聞こうか」
拙者は皆に拙者の考えを告げた。『真の魔王の剣』に崇拝されている真魔王(仮)は実体がない可能性が高いこと。歩ことポーン氏やエルシィ殿は恐らく『真の魔王』という称号持ちであり、それを利用して実体を得ようとしていること。
「まあ、神様みたいなモノでしょうからね」
エド君は頷いた。異論はないらしい。お兄さんも頷く。なんか興味津々って顔をしてるのは、なんで?
「そう、神。奴らにとって、真の魔王とは神。拙者は、その神を貶める事にしたでござる!!」
テーブルの上には、一枚の絵。ハゲチビデブの三重苦を体現したおっさんがフルカラーで描かれていた。臭そうなエフェクトも忘れていない。あ、四重苦か。そして、拙者は宣言した。
「拙者は、この絵を真の魔王の姿だと布教する!!真魔王(仮)を真魔王(笑)にしてやるんだから!!」
あ、あれ?皆固まっちゃった。
「にゃーっはははははははははは!!真面目にナニ言っちゃってんの!?にゃーっはははははははははは!!面白すぎる!真魔王(笑)………にゃははははははは!!にゃーっはははははははははは!!」
一番最初に硬直が解けたお兄さん、なんか耳と尻尾と………羽根?が出てる。尻尾はフカフカで太くて、ペルシャっぽい。モフモフしてそうだなぁ。羽根は妖精さんみたいだけど、残念ながら男。女子なら可愛かったのになぁ。
そんな残念なお兄さんは笑い転げている。
「ご主人様……なんでそうなったか聞いても?」
「嫌がらせでござる!」
「曇りない瞳で、いい返事をありがとうございます!」
「にゃーっはははははははははは!!ぶひゃはははははははははは!!」
エド君からツッコミが来なかった。ちょっと寂しい。
「まあ、真面目な話でござるが……嫌がらせがメインなのは間違いない。ただ、他の効果も狙っているんでござるよ」
「他の効果?」
爆笑していたお兄さんも真面目に聞く姿勢になった。
「拙者の故郷では、神は信仰対象ではあるがこちらのように明確な奇跡を起こさない。だが、神を貶めた者達がいた。土着の神を悪魔へと変えた。神は悪魔になった」
「…………まさか……」
「神を神とするは、人の信仰。拙者は、真魔王(仮)の信仰を歪め、真魔王自体も歪めてやりたいと考えているでござる。これは拙者の復讐でござる」
「うん、君ってば期待していた以上に面白いや!僕もパーティに入れてください!!僕は双剣の勇者シーザと言います!」
「……………へ?」
シーザさん、双剣の勇者?いや、パーティ??仲間にってこと??
「ごめんなさい」
理解して、即座に頭を下げた。拙者はおたずね者になる可能性がある。元奴隷のエド君や現在も奴隷のフェリチータたんはともかく、無関係の人を巻きこみたくはない。
「なんでです?信用ができないから?」
「では、何故貴殿は拙者らとパーティを組みたいのでござるか?」
「んん……しいて言うなら面白そうだから?」
シーザ殿の瞳は……複雑だった。歩なら謎の勘でわかるんだろうけど、拙者には『嘘でも本当でもない』ぐらいしかわからないでござるなぁ。
「で、本音は?それはオマケでござるよね」
「…………ふうん。バカではないんですね」
尻尾の動きからして、不機嫌ではなさそうだ。探るような、見定めるような視線を受けた。しかし、長くは続かなかった。シーザ殿が冒険者達に捕縛されたから。
「何故、彼を?」
捕縛された彼は、全てを諦めたような表情で、抵抗しなかった。ギルドマスターに問いかけると、教えてくれた。彼はシルヴァ殿達が蜘蛛の餌になるよう手引きした、らしい。
「彼は、どうなるのでござるか?」
「犯罪奴隷になる」
違和感があった。彼は何故、そんなことをしたのだろうか。
「シーザ殿、貴殿は何故手引きを?」
「身内を人質にされたんですよ!言うことをきかなきゃ家を……教会を……皆を殺すって……結局僕も捨て駒でしたがね!」
理解していても、見捨てられなかったのだろう。シルヴァ殿達を陥れたのは許せないし、許さない。だけど…………。
「……………は?」
だけど、こんなのあんまりじゃないか?
「ごしゅじん、さま!よしよ~し」
「モフモフするみう?」
「わふ、わふん(男なら、泣くな)」
「はあああああ………ギルドマスター、うちのご主人様はこいつを買いたいらしいです。俺達は近日中にマナシを出ます。支払われていない報酬から、現物支給してください。それから、余剰金がかなり出ますよね?それは教会へ定期的に寄付してください」
仕方ないな、という表情のエド君は、淡々とギルドマスターと交渉していた。
「それでいいですよね?ご主人様」
「…………うん。でも……」
拙者はそれでいいし、そうしたい。しかし、エド君はそれでいいのだろうか。シーザ殿はかなりリスキーな男だ。
「俺はあんたの盾であり、交渉役です。あんたの望んだモノを得るために働くんです。これは俺の仕事の範疇だと判断したまで。あんたはアホみたいにそこの馬鹿を信用して馬鹿が裏切れないようにする役。俺は馬鹿がこれ以上馬鹿をやらかさないよう監視する役です。おい、馬鹿。お前、ものすごく運が良かったな」
エド君はとてつもなくイケメンでした。とりあえず拝んだら、やめてくださいと嫌がられたでござる。シーザ殿は奴隷になってから後日引き渡しとなりました。
エド君はとてもイケメンだと思いますが、今後も間違いなく苦労する気がします。




