呼ばれてみた
貴文視点になります。
フェリチータたんによる萌栄養により意識が遠ざかった瞬間、誰かが拙者を呼んだ。
「ととちゃま!よーやくせいこーしたでちゅ!」
またしても日吉君姿な拙者の前には、可愛い緑色のネズミさんがいた。ピョコピョコ跳ねて、動きも可愛らしい。
「ととちゃま、たいへんなんでちゅ!」
「ど…………どちら様?」
拙者にネズミの子はいないでござる。人違い??
「ゆじゅ……ゆ……ゆずはでちゅ!わすれちゃったでちゅか!?」
「おお、譲葉!譲葉でござったか。して、どうしたのでござるかな?」
「じちゅは………」
譲葉のしゃべり方はたどたどしいので要約すると、最近歩に黒い影がまとわりつくんだそうだ。そうなると、途端に歩はイライラしてしまう。譲葉がいつもすぐに追い払うがここのところ毎日毎日毎日来るので、譲葉も疲弊してしまったそうだ。
「丁度いいものを作っておいたでござるよ。歩の腕輪を持ってきてくだされ」
「はーいでちゅ!」
ちなみに、現在歩はランチタイム中なんだそうだ。譲葉は休憩の度に拙者を呼んでいたらしい。すぐに気がつけなくて申し訳ない。こっちも基地を潰したりしていたから反応できなかったのだろう。
譲葉が持ってきた鎧入りの腕輪を改造する。歩用に作っておいたアミュレットを追加しよう。人型になって黙々と作業する。
【マスター、どうせならマスターの魔力結晶をつけるといいですよ】
「ぎゃっ!??」
「ちゅう!??」
いきなり声がしたのでビックリしたが、ソーネ君……に木の枝がブッ刺さっていた。え!?これ大丈夫なの!?大丈夫じゃなくね!??
「ソーネ君、大丈夫でござるか?」
とりあえず、枝を抜いてあげた。
【肯定。関節に枝が挟まって抜けなかっただけです。本体への損傷はありません。マスターの魂を宿した鳥が……走ったので念のため追跡したのですが………マスターの鳥は何故飛ばずに走るのです?しかもワタクシが追いつけないほと速いってどういうことです??理解不能………理解不能……】
日吉君はソーネ君にとって理解不能な生き物らしい。まあ、ソーネ君は放置でござるな。
「あ、ついでに鎧を変えちゃおうかな!」
腕輪に魔除けと拙者の魔力結晶を……魔力ってこの姿でも………あ、使えた。よしよし。魔力結晶を腕輪に嵌め込み、騎士の外装を剥ぎ取って鎧を改造した。
【うああああああ!?なんばしよっとね、アンタアアアアアアアアア!?】
ソーネ君が方言になった。あっはっは。それにしても人間臭いAIでござるなあ。
「ナニって、解体して改造した。拙者、こんな騎士いらんでござるし~」
【だ、だからって……はああ……なんでこーゆートコまで似ているんですかね……解体は一体だけにしてくださいよ】
「前向きに善処するでござるよ」
【それ、暗にまだやるかもって言ってますよね!??】
ソーネ君がウダウダ言っているが、丸っと無視した。それよりも改造に集中しなきゃね。
ここで、拙者の遊び心が炸裂した。腕輪に無駄なアクションをつけてみた。さらに、鎧をアレな見た目にしてみた。カッコいい、素晴らしい!大変満足いく出来だ!拙者の持病が再発したよ!!
「ととちゃま、たのちちょうでちゅ~」
「はっ!」
ついついめっちゃ楽しんでしまった。まあ、魔除け効果ををしこたま付与したし、許してもらおう。歩なら気にしないに違いない。歩だもん。大雑把を通り越してる歩だもん。
「譲葉、とりあえず腕輪を改造したでござる。腕輪を肌身離さず装備していれば大丈夫でござるよ。あと、念のためにこれも。万が一のため、譲葉が預かっておいてね」
「はいでちゅ!」
なんらかの理由で腕輪を無効化されても大丈夫なように、指輪を作っておいた。なんか譲葉のチョーカーみたいでござるなぁ。
「あ、それからこれは歩の着替えと大好きなプリン。すぐに食べられる食事に、大人数対応テントと寝袋と……必要そうなモノをあらかた入れたマジックバックでござるよ」
アイテムボックスから必要そうなものを出して詰めておいたかいがあったでござるな!
「はいでちゅ!」
【……あの勇者の母親ですか?いや、母親以上のナニかですか??】
母親以上のナニかって何よ。ソーネ君の言葉は面倒だから華麗にスルーして続ける。
「ざっくりとではあるけど、腕輪やテントの取り扱い説明書を書いたでござる。歩はあっても読まないから、譲葉が覚えて教えてあげてくだされ」
「はいでちゅ!」
【ああ………取り扱い説明書を読まないタイプなのですね】
「そして電子機器を破壊するタイプなんでござるのよ」
「ああ、うん。でんちはよくわからないでちゅが………なんとなくわかるでちゅ。きっとてきとーにいじってこわちゅのでちゅ」
【………………ワタクシ、この方には近寄りません】
譲葉は歩を理解しているようで何より。ソーネ君は………うん。なんとなくだけど、歩と相性が悪そう。なんかこう………あの鉄パイプでフルスイングされてる映像が浮かんだ。近寄らない方がよさそう。身の危険を感じたのか、機械のくせにガクブルしている。
「まあ、ソーネ君はそうしたら?歩はなんかこう……電子機器をいじると意味不明な不具合を起こす天才だから」
【肯定。絶対に近寄りません】
しかし、歩にまとわりつく黒い影が真の魔王なのだとしたら……パルス殿の祖母様は、それの対抗策がなくて眠りに……いや、自分を封印した?
点が、線になっていく。急速に考えがまとまってきた。拙者にはない。拙者は『聖』男だから?真の魔王は浄化に弱いみたいだし。いやいや、違う。拙者、最初の職業はオタクだったもん。別に聖属性特化ではなかった。歩も初歩なら使えるし。歩達を狙うのは何故?わからない。
なら、発想を逆転させよう。あの二人でなくてはならないのは何故?あの二人の共通点は?
「あ、ああああああああああああ!??」
【「!??」】
さらに思考がまとまっていく。ならば、真の魔王が二人を得たらどうなる?何故真の魔王は二人を欲する??ああ、きっと拙者の予測は正しい。そんな気がした。
こうしちゃいられない!!早く体に戻らなきゃ!!
「譲葉、歩は頼んだでござる!しからば、ごめん!!」
【マスター!?】
ソーネ君の声が聞こえたが、拙者はめっちゃ急いでるから後でね!!なんか、タカあああああああって雄叫びも聞こえた気がしたけど、意識は遠のいていった。
そして、タカあああああああって雄叫びをあげていた勇者ポーン氏は間に合わなかったと号泣したそうな。
不憫に思った譲葉が預かっていたプリンをあげたら、幸せそうに笑っていたそうです。
貴文いわく
貴文<<越える気もない壁<<プリン
らしいです。




