提案してみた
苦労人ことエド君視点になります。
ご主人様が(多分)フェリチータを好きすぎて気絶したので、冒険者達に俺が交渉することにした。
「この人に欲はない。この人の依頼をいくらこなしても、到底特級に見合う額にはならないだろう。だから、提案したい」
「……聞こう」
シルヴァが頷き、他の冒険者達も同意を示した。ギルドの受付嬢に依頼し、別室を用意してもらった。ギルドの受付だと、誰が聞いているかわからないしな。
気が利くラビルビが多分結界をはってくれた。こいつ、飛び抜けて賢いよな。撫でたらフッカフカだった。ちなみにご主人様はフェリチータから膝枕をされている。愚姉はご主人様を強奪しようと狙っているが、ラッキーも牽制しているから無理だろう。ご主人様は放置で大丈夫と判断した。
「そもそもあんた達が襲われた蜘蛛。あれも『真の魔王の剣』の仕業だ。ご主人様が転移陣を逆転させて送還場所を確定したから間違いない」
冒険者達は首謀者について知らされていなかったらしく、明らかに動揺していた。
「ま、待て!つまり、奴らの基地に潜入したと!?」
いや、潜入したどころか潰してきたんだが……この人数で潰してきたと言うのは信憑性に欠けるな。どう説明すべきだ?
「まさか、こないだの基地みたいに潰したのか!?」
悩んでいたら、冒険者からいい質問が来た。そういえばご主人様とラビルビ達だけで基地を潰したんだったな。他の冒険者もいたが、大半はご主人様がどうにかしたらしいし、ロストアイテムのことだけ伏せればいいか。
「ええと……シルヴァさんとグレイさんが死にかけた結果、ご主人様がキレました。うちのご主人様は身内認定した相手を傷つけられるのが地雷らしいです。敵が完全に地雷を踏み抜き、壊滅させられました。ほぼご主人様がやりました」
ご主人様自身の戦闘力は高くないが、異世界の知恵なのか運なのか、大半を自力でどうにかしている。とても不思議な人だ。安らかに眠っているご主人様を見る。そんなにスゴい人には見えないのだが、盾の勇者である祖父ですらどうにもできなかった事を完全にひっくり返してくれた。なんの見返りも求めず、俺のために。隷属の契約が無くなっても、彼は俺の主だ。得たモノには、対価を。俺の一生をかけても、払いきれるかはわからないけどな。自然と表情が緩む。
「……本人を見てると、そんなすげえ奴には見えないんだがな」
「……ああ。庇護される側に見える」
シルヴァとグレイの話に頷く。本人は幸せそうに眠っている。ちょっかいを出さなければ、戦おうとするタイプではない。手を出した馬鹿が悪いんだ。
「同感です。さて、そんなご主人様の『庇護者』からの依頼と思ってください。欲しいモノは『真の魔王の剣』の情報です。ご主人様は正面切って奴らにケンカを売っていますからね。相手の総数や規模は探れても、背後までは探れません。ただあくまでも『できれば』の範囲です。うちのご主人様は諜報活動の結果、誰かが傷つくぐらいなら情報もいらないと言いかねませんから。あくまでも無理なくできる範囲で、情報を流して欲しい」
「俺達はマナシから動けないが…」
「マナシには、まず間違いなく『真の魔王の剣』の者が来ます。それを捕らえるなり情報を得るなりしてください。ご主人様も貴方達が家族と離れることを望まないでしょう」
シルヴァとグレイは頷いた。
「情報はどこへ?」
「マナシのギルドマスター宛が確実でしょうね。商人ギルドがいいでしょう。まだ交渉はしていませんが、彼は話を受けると思います」
彼は見た目こそアレだが中身はちゃんとした商人だ。利があるなら受けてくれるだろう。こちらのやり方次第だ。冒険者達はそれぞれ頷き、特殊依頼として受注する事になった。ギルドマスターも顔をだしてくれたのでスムーズに話が通った。商人ギルドのマスターも呼ばれ、ついでに契約してくれた。これで、少しでもご主人様の負担が減ってくれればと思う。
「ねえ、お兄さん。僕からも提案なんだけど」
「……なんでしょうか」
見た目は美しいが、この冒険者には注意しておいた方がいいな。なんとなくだが信用できない。こいつは俺と同じで、打算で動くタイプだ。
「僕、君達に同行したい。ヤられっぱなしは性に合わないんだよね」
その瞳には明確な怒りが宿っていた。理由も納得できる。嘘ではないのだろう。
「その権限は自分にはありません。ご主人様が目覚めたら、ご主人様に交渉してください」
この集団はあくまでもご主人様のパーティーだ。決定権は俺に……無いわけでもないのだが、こいつを入れたいとは思わない。
「うん、わかったよ」
冒険者の青年はご主人様に近寄り、ピリピリしているアマゾネス共に威嚇されて戻ってきた。
「こっっわ!というか、あの二人……僕にまったく興味がないんだね。面白いや」
何が面白いのかよくわからんが、変わった男が仲間になりそうな予感がした。なんとなくだけど、ご主人様はこいつを受け入れる気がする。
冒険者達は解散し、ご主人様が目覚めるのを待っていたら、ご主人様がむくりと起き上がった。
「むにゃむにゃ………むうう……」
そして、魔力を異常なまでに圧縮して結晶化してしまった。
「むにゃあ……」
結晶をどこかに転送し、またフェリチータの膝に着地した。
「くぅん……ごしゅじん、さま、かわいい」
フェリチータはそんなご主人様を見て尻尾を振っている。愚姉は悔しげにハンカチを噛んでいる。
いや、待て。
おかしいだろ、待て。
「ご主人様、マジで寝てるんですか!?」
「んん………むにゃ……」
「ダーリンは、魂だけどこかにお出かけ中ですわ。既成事実を作るチャンスなのに……忌ま忌ましい小娘ですわ!」
「ごしゅじん、さま、まもる!!」
ご主人様の貞操はフェリチータに任せるとして、後で絶対ナニをやらかしていたか問い詰めようと心に決めるのだった。
むにゃむにゃしながらナニかをしている貴文視点は次回更新ですぞ。さぁ、皆で考えよう!




