戦うではなく、駆除してみた
エド君に聞いてみたところ、アイアンアントは寒冷地にはいないし、冬は見かけなくなる。つまり、日本のアリと同じく寒さに弱い種なのだろう。
というわけで、先ずはラッキーにブリザードブレスを撃ちまくってもらった。巣を中心に、円を描いてもらう。その円を利用して、結界を作成。冷気を閉じ込め、さらにラウビウ達にも氷魔法を撃ちまくってもらった。
予想通りヨロヨロと巣に戻るアイアンアント達。やはり体液が問題なのか、流れ氷魔法が直撃した個体には反応がなかった。
「さて、ここからが勝負でござるな」
小さな出入り口にラビルビ&ラウビウの氷魔法を撃ちまくってもらった。
一番大きな入り口には仕掛けを施したアイアンアントの死骸を十体ほど置いた。それを運ばせてからラッキーのブリザードブレスを撃ちまくって塞いでもらう。
ラビルビは索敵して戻るのが遅れたアイアンアントの位置を確認し、それぞれに指示を出して各個撃破してもらっていた。
拙者は比較的小さな拳大の空気穴から内部を風魔法で探る。他の出入り口が完全に塞がった事を確認。結界で栓をして、酸素だけを排出させていく。だんだん慣れてきたので、巣の中の酸素濃度は急激に低下していく。
さらに仕掛けを施したアイアンアントの死骸が巣の奥まで移動したのを確認し、仕掛けを遠隔で起動。仕掛けの正体は、簡単な発火装置と油。内部の酸素を燃焼させ、煙で一酸化炭素中毒にさせることが狙いだ。
数分後、巣の内部に異変が起こった。わずかに振動も感じる。索敵すると敵は赤い丸。味方は青。中立は黄色になる。死体は灰色だ。内部に青または黄色がないから、遠慮なくやれる。
巣の内部にひしめいていた赤が点滅して、次々に灰色へと変わっていく。すでに発火の仕掛けも作動不能になっている。ついに酸素が尽きたのだろう。罪悪感が無いわけではないが……失敗すれば拙者とて殺されるやもしれぬのだ。お互い様だと割りきる。
ひときわ大きな赤い丸は巣の奥で暴れているようだ。恐らく、こいつがクイーンだろう。地上に向かって動いたが、間に合うわけがない。クイーンと思われる大きな赤は点滅し、灰色に変化していった。
「…………駆除完了」
これは討伐ではない。駆除でござる。念のため一時間ほどこの状態を維持しておこう。
「ご主人様、周囲のアイアンアントは討伐した」
「エド君、怪我!」
報告に来たエド君の左手から血がしたたっていた。
「………は?ああ。ちょっとしくじりました。利き手じゃないんで、問題ないです」
すぐさまアイテムボックスから回復薬を出して容赦なくぶっかける。
「ちょ!もったいない!もう治りました!治りましたってば!!」
「…………なに、してる?」
エド君に容赦なく回復薬をぶっかけていたら、フェリチータたんも戻ってきた。エド君のステータスを見たら、確かに全快しているので解放した。
「治療でござる。フェリチータ殿は怪我をしてないでござるか?」
「して、ない。げんき」
ガッツポーズが可愛かったので、つい頭をよしよししてしまった。尻尾がブンブン揺れて喜んでいるのでセェェフ!セクハラではない!
「みう!み~う!(ごしゅじんさま!な~でて!)」
駆け寄るラビルビを抱っこしてモフモフナデナデした。癒される……やはりモフモフは究極の癒しでござる。
「くぅん、きゅ~ん(主、我も頑張ったぞ)」
「ラッキーも、えらかったでござるよ!」
ポメモフモフ!幸せでござる!モフモフぅぅ!!
「ご主人様。楽しんでるとこ悪いが、討伐確認しようぜ」
「そうでござるな。しばし待たれよ」
巣の空気を操作して、一気に換気する。煙が噴出し、発火の仕掛けが作動可になった。巣の内部の空気が正常になったのを確認する。
「これで大丈夫。行こう」
念のため、全員マスクをしてから巣の中へ。まだ多少煙たいでござるな。
「うわあぁ……」
おびただしい数のアイアンアントが死んでいた。アイアンアントの酸や顎、外殻は高値で売れるらしい。というわけで、死骸をひたすら回収していく。百を越えてからは、数えるのをやめた。ひたすら回収していく。そういや、アイテムボックスの限界量はどのぐらいなのだろう。まだまだ余裕でござるな。
「本当にみんな死んでる……」
エド君の表情がひきつっている。酸素なんて概念がないこの世界。彼は半信半疑だったそうだ。
「ごしゅじん、さま。これ」
「これは……」
冒険者の装備らしきものや、貴金属が部屋に固まっていた。
「……食えないモノを集めたんでしょうね。盗品らしきモノもありますね」
できれば供養してほしいので、回収していく。貴金属は発見者のものになるそうだが、返せるものは返してやりたい。もっと早くに見つけていたら、この人達を助けられただろうかという考えはやめた。まだ登録したばかりのヒヨッコ冒険者にできる事なんて、たかがしれている。死者を甦らせることもできない。
「でっか!!」
さらに奥へ進むと、巨体が横たわっていた。三メートルはあろうかという巨体。肥大化した腹部は、女王アリを連想させた。
「これがクイーン…でござるか?」
回収しようとして、異変に気がついた。クイーンを回収できない。
「総員、退避!!」
叫びつつ、咄嗟に結界で攻撃を弾いた。幸い至近距離にいたのは拙者のみだ。
「ギシャアアアアアアアア!!」
クイーンの腹を突き破って現れたモノ。クイーンよりは一回り小さいが、凶悪な見た目の魔物だった。
「悪いが、お前はもう詰みでござるよ」
これだけの数のアイアンアントが一斉に攻めてきたら、勝てない。だが、一体なら話は別。どうとでもなるのだ。兵隊が死滅した時点で、こいつの敗北は確定した。
「斬れ!」
まるで銃を撃つかのような所作で魔法を発動させる。極限まで薄く圧縮された真空の刃が、魔物の首を切断した。
アイアンアントの弱点は、脆くて細い関節部。クイーンの腹から出てきた魔物もアイアンアントに酷似していた。つまり、小さな損傷でも効果が見込めるので拙者の一点集中魔法が効きやすいのだ。
「ご主人様…強すぎ」
「拙者、初級魔法しか使えぬでござるよ?強くはないでござる」
魔法付与装備で威力を底上げしまくってこの程度でござる。強くはないでござるよ。
「よし、ご主人様。そこ座れ」
説教の予感でござる。実はうちで一番強いのはエド君なんじゃないかなと思ったら、話を聞いていなかったのがバレてしまい、しこたま叱られたでござるよ。
あれ?拙者ご主人様でござるよね??




