連絡してみた
寝落ちしたため朝投稿となりました。すいません。小田郡貴文視点になります。
皆が寝静まった夜。モフモフハーレムの心地よさにうっとりしながら、ヒルシュ殿の事を考えていた。影から鳥を呼び出す。伝言ではなく通信がしたいなぁと思う。短いメッセージなら問題ないが、話したいことがたくさんあるから。
「名前がないと不便でござるなぁ。名前………ヒヨちゃん……」
いや、なかなかこう、ふてぶてしいというかオスっぽい。本人も嫌々している。お気にめさなかったようだ。
「……日吉君」
「ぶぴぃ!」
【レターバードはネームド・日吉君になりました】
【日吉君は種族進化が可能です。許可しますか?】
また幻聴が聞こえてきたでござる。種族進化ってなに??
「ぶぴぃ!ぶぴぃ!」
必死で何かを訴える日吉君。
「…進化したいの?」
「ぶぴぃ!」
頷かれた。仕方ない……エド君に叱られよう。
「種族進化を許可する」
【種族進化、承認されました】
日吉君が……ポゲモンみたいに進化した!ポッチャリひよこから、スリムな尾が長い手のひらサイズの鳥さんになった!
「シャラララ~」
鳴き声も違う。また変な鳴き声でござるなぁ。とりあえず首を撫でたらスリスリしてきた。でら可愛い。
「シャラララ~」
「日吉君!?まっ………ぐぅ」
メッセージではどうにもならぬゆえ、日吉君を止めようとしたら急激な眠気に襲われた。なすすべもなく眠った拙者は、鳥になって走っていた。
「シャラララ~」
日吉君は飛ぶより走るが得意らしく、景色がすごい勢いで流れていく。魔物を踏みつけ、口から怪光線を出した。種族進化したから!?元々!?夢だよね!?スゲー風を感じるんでござるが!
「シャラララ~」
ついに日吉君が飛んだ。あそこにヒルシュ殿がいるはずだとわかる。
「シャラララ~」
魔法で解錠し、室内へ。ちゃんと施錠もした。完全犯罪でござるな。見慣れたヒルシュ殿の執務室。
「あのクソ共……滅してやろうか……」
色々蓄積しているご様子。お疲れ様でござるよ。
「ヒルシュ殿、お久しぶりでござるな」
「!??」
あれ?声……拙者の声が出たでござるよ?ヒルシュ殿が日吉君の隠れていたカーテンを開けた。
「鳥……レイター殿の鳥か?」
「そうでござる。日吉君でござるよ」
「ヒヨシクン?変わった名前だな」
優しく微笑んだヒルシュ殿は、そっと日吉君を持ち上げて執務室の机に下ろしてくれた。書類が山積みでござるよ。拙者が来た頃と同じでござるな。ううむ、手伝いたいが鳥の羽根では………?手だ。
「!??鳥が幼児に!?」
窓にうつる姿は、幼児になっていた。ただし、耳と手に羽根が生えていたが。色からして、日吉君でござろうな。
「ヒルシュ殿。この書類の前では些事でござる。お手伝いいたす!」
「………頼んだ!」
ひたすらに書類を片付けていく。あらかた片付いたところで、ヒルシュ殿がお茶を淹れてくれた。相変わらず絶品。ヒルシュ殿にお茶は敵わぬでござるなぁ。茶菓子もおいしい。
「君はレイター殿だな?ずいぶん容姿が変わっているが……そうだろう?」
「はい。お久しぶりでござる」
まだ離れて二日ほどでござるが、色々ありすぎて昔のように感じる。
「そうか。話を聞かせてくれるか?」
「もちろんでござるよ」
あれからの事をたくさん話した。ギルドのこと、奴隷のこと、仲良くなれた人たち、ラビルビやラッキーのこと、拙者がこちらでは非常識らしいってこと。
「最後のは、完全に俺のせいか。すまないな」
否定はしない。どうもヒルシュ殿の常識がかなり非常識よりらしいから。素直に頷いた。
「ちょっと待ってな」
ヒルシュ殿が結界をはったようだ。周囲の音が聞こえなくなった。
「俺の本名はヒルシュじゃない。パルス=クレバーと言うんだ。かつて鮮血の姫勇者、ドラゴンを素手で倒した益荒男姫と呼ばれたエルシィ=クレバーと、天才冷血鬼畜悪魔ヤンデレ魔具師と呼ばれたルイス=クレバーの曾孫にあたる。ヒルシュは曾祖母さんの実家だ」
「……物騒な呼び名でござるなぁ」
益荒男姫って男なの?女なの?とか聞ける雰囲気じゃないでござる。いや、魔具師の人がどれだけ悪辣だったのかも気になる。
「実際、クレバー家は色々あって商人ギルドから恨まれていてな。俺も外ではクレバーを名乗れない。ヒルシュの方が身分も上だし、都合がいいからヒルシュを名乗っていたんだ」
本当に、曾お祖父さん何をやらかしたんでござるかな?
「なるほど。ではパルス殿とお呼びしてよろしいですかな?」
「……好きにしてくれ。本当はもうこの国に用はない。俺はこの国の人間ではないんだ。だが、君に託された勇者への贈り物は必ず届けるよ」
「ありがとうございます」
パルス殿が辛そうに見えるのでござるが、気のせいでござろうか。
「そういえば、この鳥?なら勇者への連絡もできるのでは?」
「……まだ、ポーン殿には連絡できぬでござる」
「何故?」
「今の拙者は、ポーン殿のお荷物でござる。友人は支え合うべきであって、一方が寄りかかるのはいびつで……必ずいつか破綻するでござるよ。だから、拙者はポーン殿と並び立てるようになるまで……己を磨くのでござる!」
それまで、連絡は取らない。拙者の状況を歩が耳にしたら、絶対Uターンして城を落とすだろう。ドラゴンに苦しむ人も見捨てるだろう。
「……なら、それまで勇者は実家で預かるか。気にかかることもあるし、彼も退屈しないだろう。ああ、彼を戦争に行かせたり、利用したりしない。誓約してもいい」
誓約とは、神に約束すること。破れば内容に応じたペナルティが与えられる。
「いや、歩はそういったものに敏感だから騙されないし……パルス殿はこの世界で初めての友人だから、信用しているでござるよ」
「……………あり、がとう。今日はもう遅い。そろそろ休んだらどうだ?」
「そうでござるな。では、また」
「………ああ、また」
拙者、ちょっと自分で言っておいて友達発言に照れていたので……気がつかなかった。パルス殿が泣きそうな表情をしていたことに、気がつけなかったでござるよ。
また、の挨拶と共に意識が遠ざかり……日吉君の変な鳴き声を最後に聞いた気がする。




