歓迎されてみた
ツッコミ番長☆エド君視点になります。
謎の紙吹雪と破裂音に硬直していたら、ご主人様がニコニコしながら俺達を椅子に座らせた。机には大量の料理。見たことがない料理もある。とてもうまそうだ。いい匂いがする。フェリなんとかがめっっちゃ匂いをかいでヨダレを料理に垂らしそうだったので頭を叩いた。
「拙者、腕によりをかけたでござるよ!ささ!皆温かいうちに食べるでござるよ!あ、シルヴァ殿!赤ワインはいかがでござるか?エド君、お酒は?」
「あ、いただきます……」
つい注がれるままにグラスを出しちゃったけど、逆じゃね!?奴隷が給仕すべきだろ!逆だろ!!この赤ワイン……いいやつだな、うまい……じゃなかった!役立たず認定はごめんだ!
「おい、おま「はぐはぐはぐ……ん?」
フェリなんとかはめっっちゃ食っていた。馬鹿野郎!フェリなんとかの頭を叩く。
「エド君、遠慮せず食べるでござるよ。先ずは二人の体調回復が優先でござる。今日は二人の歓迎会で、二人はお客さんでござる。拙者、やりたくてやっているので、エド君は食事を楽しんでほしいでござるよ」
すごく、優しかった。言葉に嘘がなかった。ご主人様が作った料理はどれもうまかった。こんな……腹一杯食えたのはいつぶりだろうか。肉も超高級品だろう。今まで食べたことがないほどにうまかった。
「おまちかねのデザートでござるよ~」
「きれい」
フェリなんとかの言う通り、すごく綺麗な菓子だった。フワフワで、甘くて……白いクリームに赤いイチゴが飾られたケーキ。ケーキなんて年に一回食べられればいいって高級品だ。こんなクリームたっぷりの贅沢品、食べたことない。
文句のつけようなどなく、間違いなく今まで食べた中で一番うまいケーキだった。ぷりんやぜりぃ。ぱふぇなんかもうまかった。限界まで食べてしまった。奴隷落ちしてから、初めて満腹ってこんなに幸せなことだったんだと思い出した。
「二人にプレゼントでござる。気に入ってもらえるといいのでござるが……」
袋の中には、ピカピカの万年筆とノートが二冊。フェリなんとかには綺麗な髪留め。何故こんなピンポイントで欲しいものを…ご主人様は監視していたのか!?
「フェリチータ殿、つけてあげるでござるよ」
フェリなんとか……フェリチータか。フェリチータの髪をご主人様が結っていく。綺麗なまとめ髪になり、髪留めで飾られた。華美でない髪留めは、フェリチータによく似合った。
「よく似合っているでござる」
ご主人様が鏡を取り出してフェリチータに見せた。
「きゅ、きゅ~ん」
フェリチータは尻尾をブンブン振りまくっている。人語を忘れたのか、犬みたいに鳴いた。
「あ、エド君の万年筆は魔力を込めれば暗号化も可能でござるよ。設定すれば特定の人物しか読めなくするのも可能でござる。どの程度の距離までか実験していないので不明でござるが、登録した相手に書いたメッセージの送信も可能でござるよ」
「……………………」
思考が上手く働かない。その技術、商人ギルドに売ったらいくらになる?一生遊んで暮らせるよな??
「フェリチータ殿の髪留めは防具としての効果もあるでござるよ。防御や敏捷、命中率が上がる魔法を付与したでござる」
複数付与…………?空転していた思考回路が一気に起動した。
「ご主人様、ちょっとこっち来い」
キレながらも理性は多少仕事をしていた。不特定多数がいる食堂ではなく、ご主人様が借りていた部屋に連れていく。
「ご主人様、そこ座れ」
素直に床で正座するご主人様。俺はベッドに足を組んで座っている。マジでどっちが主人かわからない有り様だが、そこはもうどうでもいい。ついてきたフェリチータがオロオロしているが、そこもどうでもいい。
「複数付与とか国宝級!意味わかんねぇ!!」
全力でご主人様に付与の常識を語った。普通はアクセサリー一個につき付与一種類。そんなついでだからやったよ☆みたいに気軽なノリで複数付与すんな!プロの付与師が自殺するか、技術を教えろと付きまとわれるか、最悪拉致監禁されて死ぬまで飼い殺しにされるからな!もはや言葉遣いも気にする余裕がなかった。この人、全く予想していなかった方向にワケアリだった。ワケアリ過ぎた。マジで意味わかんねぇ!!
「どうも拙者に常識を教えてくれた御仁が部分的に非常識人であったようでござる。そもそも、拙者は異世界生まれでござるからこちらの常識に疎いのでござるよ。いやあ、エド君を買ってよかったでござる」
「常識を非常識人に……」
常識を非常識人に教わったとか意味わかんねぇと怒鳴ろうとして……そこより重要な部分があったような?
イセカイ……?町か?いや……異世界生まれ!異世界から来るといえば、まさか………!
「勇者あああああああああああ!!??」
「ふあっ?」
「きゃいん!」
二人が耳を塞いだ。いや、意味わかんねぇ!
「あ~、ビックリした。いやいや、拙者は巻き込まれた一般人なのでござるよ」
ご主人様は友人が召喚陣に吸い込まれ、助けようとして巻き込まれた。城での冷遇と、追い出されて殺されかけた話を語る。だから、普通の冒険者とパーティを組むこともできず俺達を買ったのだと話した。
「はあああああああ………」
にわかに信じがたい…荒唐無稽な話だが、信じざるを得ない。ご主人様の常識のチグハグさや、この世界にない発想力。それらは異世界から来た人間だからなのだろう。納得できる点が多すぎる。
「ええと、その……申し訳ない」
「………ご主人様は悪くないだろ!」
この人は、友人のために巻き込まれた被害者だ。それでも懸命に道を探そうとしている。とりあえずここは王都から距離があるし、俺が気をつけてご主人様を目立たせなければ大丈夫だろう。
「……ご主人様、この町に来てから変に目立つような事はしてないでしょうね?」
「………………てへ☆」
「とりあえず、洗いざらい話せええええ!!」
思ったほどまずい事態じゃないことに安堵したが、暫く俺はこの見た目のほほんとした予想外規格外のワケわかんねぇご主人様に振り回されるのだろうと思った。




