ちょっと腹ごしらえしてみた
皆で帰ることにしたのだが、アカネさんから『今夜は肉料理よろ』とリクエストされていたので市場に寄ることになった。串焼き屋を通りすぎた瞬間、シュゴオオオ!ギュルルルル!となかなか派手な音がした。
「わんわん(主、久しぶりに狩ってくる)」
「うむ。拙者の居場所はわかるでござるか?」
「わふ(問題ない)」
子犬姿のまま、羽根を広げてラッキーは飛んでいった。
「………その、きに、しない、で、くだ、さい」
そして、豪快な腹の音を響かせたのはフェリチータたんとエドアルド君もであった。
「おじさん、そこにある串焼き、二十本ください」
「兄ちゃんが全部食うのか?」
「いえ、あっちの二人です」
いくらポッチャリな拙者でも、おやつに串焼き二十本は重すぎるでござる。
「フェリチータ殿」
「は、い」
「初仕事でござる。お金は支払ったので、そこの串焼きが焼けたら食べる。エド君と半分こするのでござるよ。拙者、他に買うものがあるのでここで待つでござる」
「「え?」」
「シルヴァ殿、グレイ殿、お付き合いくださりありがとうございます。お二人はどうするでござるか?」
二人はガリガリと頭をかいている。何やら気まずそうでござる。
「あ~、逆に役に立たなかったからなぁ…なんか手伝えることないか?」
「……そうだな」
この二人、本当にいい人でござるなぁ。ヒルシュ殿には感謝してもしきれないでござる。
「では、あちらの二人にオススメの食べ歩けるモノを買ってあげて欲しいでござる。だれが一番美味しいものを見つけるか、勝負でござるよ」
「そりゃ、いいや」
「審判は、あの二人…か。面白い」
二人も乗り気なので、やってみることにした。
そんな感じで二人と別れ、市場を歩く。あ、あの人参もどきはラビルビ達にいいかもしれぬ。あるだけ人参を買うと、その野菜売りがミックスジュースをサービスしてくれた。おいしかったので、オレンジ系の爽やかミックスと、ベリー系ジュースを買う。容器は陶製で、飲んだら割るんだそうだ。割れたら土になるらしい。エコでござるな。オレンジ系がうまかったのでござるが、亜人はオレンジが苦手だからベリーがいいと教えてもらった。覚えておこう。水魔法で冷やしつつ、夕の買い物を済ませて戻った。
シルヴァ殿は焼きそばというかチャプチェみたいなピリ辛炒め物。グレイ殿は、見るからに辛そうなスープ。
「……うまいけど辛い!」
「……うま、から………」
「ジュースでござるよ~」
二人とも、氷入りのキンキンに冷えたジュースをあおった。
「「おかわり!」」
「は~い」
だいぶ辛かったようだ。二人ともジュースを三杯飲んだ。シルヴァ殿とグレイ殿が『その手があったか!』と言っていたでござる。超たまたまでござるよ。拙者の勝ちでござるかな?
「ふ………ぐしゅ」
「……ぐす」
そして、奴隷二人が静かに泣き始めた。そんなに辛かったの!?それとも、まさか………
「そんなに拙者の奴隷は嫌でござったか!?」
「「それはない」」
よかった……エド君はともかく、フェリチータたんにデブの奴隷なんてごめんだと言われたら、号泣するところでござった。オタクは時に繊細なのでござるよ。
「こんな……まともなメシ……久しぶりで……ぐしゅ……すんません」
「わ、たしも……ごしゅじん、さま……やさ、しいから………えぐ……」
拙者は普通でござるが……今日の晩御飯は豪華にしようと決めた。今日はパーリィでござるよ!二人の歓迎会をするのでござる。そうと決まれば、こうしてはいられぬ!
「拙者、買い忘れを思い出したでござる!シルヴァ殿達もこちらで待っていてくだされ!」
そして、拙者は市場を駆けた。いい肉をゲットするために!そして、ぶつかった。ぶつかったのは、犬耳で首輪をした少年であった。少年は自分の倍はでかい牛の魔物をかついでいる。周囲がドン引きしていた。
「おお、主!いい肉を持ってきたぞ!どうだ、我は有能であろう?」
口に血がついている。血を拭いながら考えた。薄茶のフワッフワな毛並み。この耳とフッサフサな尻尾。小柄ながら、巨大な牛の魔物をかつぐパワー。
「……ラッキー?」
「うむ!」
「え、ええええええ!??」
牛の魔物をしまったら、ラッキーは人型からポメラニアンっぽいドラゴン…略してポラゴンになった。
「ええと……」
とりあえず子犬サイズのラッキーをだっこして逃げた。ラッキーのおかげで肉は手に入ったから、付け合わせの野菜を買う。
「ラッキーはナニが好きでござるか?」
「わんわん。わふ(生肉も料理も好きだ。だが、あまり辛いのや味が濃いのは好まぬ)」
「了解でござる」
ラッキーのは基本薄味にしよう。わんこに濃い味はよくない。
「獣人はどうなのでござるかなぁ…」
「わんわん。わぅん(獣人は…狼なら人と同じだろうな。蛇獣人は味覚が鈍いから濃いものを好むぞ)」
「ラッキーは博識でござるなぁ」
フカフカのラッキーをナデナデする。肉のお礼にブラッシングしてあげよう。ブラシをいくつか買った。
「お待たせしたでござる!」
そして皆で銀の剣亭へ行くのだった。




