ここでも助けられたらしい
ドワーフ国家、ドブロック。ドワーフばかり住んでいるせいか、建物の入口が小さくて勇者様が高確率で頭をぶつけている。この人、基本色々と雑なんだよね。野生の勘で敵意や害意には敏感だけど、反面こういうところは無頓着というかなんと……あ、またぶつけてる。
僕も気をつけよう。ただ、ここに来ると背が伸びたような気分になる。ちょっと嬉しい。
しかし、なんだろう。このまとわりつくような……ほのかに悪意をはらんだ視線。僕らはなにかしてしまっただろうか。あれか。勇者様がぶつけてどこかにヒビでもいれたとか?
「よく来たな、パルス!祖父さんはどうした!?」
パルスさんに話しかけるドワーフのおじさん。いや、ドワーフっておじさんみたいな見た目の人ばっかり。しかも種族的にお風呂嫌いとかで……ちょっと……だいぶくさい。
「祖父は今回同行していません。仕事が終わって戻るところですよ」
パルスさんは穏やかにそう答えた。若干距離を保とうとしているように見える。
「そうかそうか!酒飲むか!?」
「結構です」
「そうか!結構か!お前ら、酒持ってこーい!」
駄目だ、壊滅的に話が噛み合わない。パルスさんはもはや取繕わず明らかに不快そうな顔をしている。
「ん!?おい、お前ら!タカの知り合いか!?」
「何!?」
「会ったことねぇけど、あの恩人か!?」
ちょっと待って。会ったことがない恩人ってどういうこと?ドワーフたちは聞いてもないけど経緯を話してくれた。
帰りたくても帰れないタカさん。せめて彼らだけでもと多額の路銀をポンと出してくれた。おかげでここにいるドワーフさん達はどうにか国に戻れたそうな。
「タカ……」
ようやく復活した勇者様がまた落ち込んだ。これは仕方ない。ドワーフさん達に悪気はないわけだし。
「で、タカとの関係は?」
「友人、だと思う」
「なんだそりゃ。けどそうか、ダチか。よく見りゃお前が持ってる短刀、タカが作ったんだな。道理で気配がするはずだ。見てもいいか?」
「ん」
勇者様はアッサリとユズハ(の本体)をドワーフに渡してしまった。ユズハをそんな簡単に渡していいの!?と不安になったが、幸いにもドワーフ達は見た目と裏腹にユズハをとても丁寧に扱った。
「こりゃすげぇ業物だ……」
「見たことねぇが……なんとも美しい」
「この紋様はどうやって……?」
たしかに、ユズハって見たことない剣だよなぁ。刃も薄く耐久性はなさそうだが、吸い込まれそうな美しさがある。何らかの魔剣……?いや、魔剣なのは間違いない。色々とこれまでキャパオーバーだから考えないようにしていたけど、そもそも可愛い生き物になる剣なんてお目にかかったことがない。可愛いユズハを見ていたらどうでも良くなっていたのもあるけど、タカさんってやっぱり凄すぎる。
「知らん!」
それはそうですよね。作ったのはタカさんだから、勇者様は製造方法なんて知らないに違いない。
「そりゃそうだ!」
「いい品見せてもらったぜ!」
「おお!どえらい品だった!」
三人のドワーフ達が友好的だったからか、他のドワーフ達も集まってきた。
「おい、ワシらにも少しでいいから見せてくれんか」
「礼にメシをおごるから、見せてくれんか!」
いつの間にかまとわりつくような不快な視線は消え、楽しげなドワーフたちに囲まれていた。
「こんなのもある。変身!」
『うおおおおおおおおおおおおお!!』
盛り上がった。とてつもなく盛り上がったドワーフにお酒を飲まされて、気がつけば僕もお酒を飲んで、楽しく語らっていた。
話を聞いてみると、最初に声をかけてきたドワーフ達はこの国でも指折りな鍛冶職人なのだそうだ。それゆえ人間の国から優れた要請されて正式に招待されたにもかかわらず、姫に臭い、汚いと罵られ追い出されたんだとか。
そんなわけで、当然彼らが僕らにいい印象を持つわけもなく……警戒されていたわけだ。
だが、優れた職人の友人であるとわかったので警戒を解いたそうな。これだけの業物、それも、勇者様のためだけに誂えたとわかる品。それに、とても希少かつ大事にされた剣を見て、彼らは勇者様が悪い人ではないと判断したらしい。
ドワーフいわく、剣は命を預けるもの。その管理を疎かにするものは、ろくな人間ではないと。
普段から色々雑な勇者様ではあるが、ユズハの手入れだけは欠かさないし食事の手伝いも当たり前だとやってくれる。そんな勇者様が理解されたことが嬉しくもあり……僕たちはまたしてもタカさんに助けられていたのだと思う日でもあった。
大変大遅刻しましたが、そろそろまた更新していきまーす!




