足りないものを補給しすぎてみた
不可抗力とはいえテイムしてしまったので、インシェントドラゴンのラッキーを抱っこして上に移動する。いつの間にか死んだ魚みたいな目になった支配人さんがブツブツ言っている。
「ありえないありえないありえないありえないあいつ何者だ?調教どころかどうにかこうにか封印で抑え込むしかできなかったドラゴンの厳重な封印をいとも簡単に解いて、いとも簡単にテイムするとかおかしいおかしいおかしいどう見てもおかしい、絶対におかしい……おかしいおかしいおかしいおかしい……」
拙者のせいでござったか。申し訳ありませんでしたと心の中で謝罪した。あと、あの封印はわりと脆かったでござるよ?
さっきの応接室に戻り、書類を出されたでござる。
「……取り乱しまして、申し訳ありません。商談に入りましょう。お買い上げになるのはこちらの奴隷でよろしいですね?三千万リンになります」
「ちょっと待った!」
「は?」
「え?」
「ん?」
まさかの奴隷青年(今は腰に布を巻いている)が待ったをかけた。あまりウロウロしないでいただきたい。見えるから。ポロリされても嬉しくないから。
「仕入れ値は三十万だった!そんな法外な額、支払えるはずがないじゃないか!ご主人様、俺に命じてください!初仕事として!」
いや、拙者はそもそもまだ君を買ってないでござるよ?しかも自分を値切るの??なかなかに愉快な青年でござるなぁ。
「えぇと、君の名前は?」
「エド…………五十六番」
「それ、なんかの番号でござるな?エドなんとかな名前は?」
「……エドアルド、です」
彼は何故泣きそうになっているのでござるかな?
「では、エドアルド君。まだ君は正式に拙者の奴隷ではないから、君が交渉しても無効になるでござるよ。だが、君は今の現状から抜けて拙者に買われたい。拙者は君が買いたい。利害は一致している。アドバイスをお願いしたい」
「!!か、かしこまりました!俺…私の仕入値は三十万。相場から見ても高くて三百万です。三千万なんて法外です!」
「………だ、そうでござるが…支配人殿、異論は?」
「ございません。ですが、こちらとしましては未調教の奴隷をお売りするにはリスクが伴います。二葉亭の名に泥を塗るわけにはまいりません」
「……ふむ」
迷惑料込みの値段、でござるか。そういや、ラッキーはいくらなんでござろうか。
「じゃ、三千万で買うでござる」
「………は?」
「あ?」
「い?」
「う?」
「わん?」
いや、三千万って言ったのは支配人さんでござるよな?何故そんなキョトンとするのでござるかな??
「し、支払えるわけがないだろう!即金しか認めないぞ!」
「はい」
きっかり三千万リン。アイテムボックスから出したでござる。何故皆固まっているのでござるかな?
「数えてくだされ」
ぎこちない動きながらも、支配人さんはお金を数える。
「贋金でもない…意味がわからない…」
いや、拙者も支配人さんがよくわからないでござるよ。自分で言っておいて、何故そんなに動揺しているのでござるかな?
「わん、わん(主よ、主の考えを説明してやれ)」
「んん?拙者は見ての通り世間知らずでござるから、率直な意見を言える彼のような奴隷が欲しいのでござる。ゆえに、先ほどまでの奴隷達では役に立たぬ。三千万は確かに法外な値ではござるが、店の迷惑料とラッキーが込みならば法外とは思わぬ。払えぬほどではない。ただ、服と下着は着替えを含めてサービスしてほしいでござる。正直、時間の方がもったいないので了承した。最低でも、もう一人買う予定でござるし」
拙者の考えを率直に述べたのでござるが……何故皆さんお口をあんぐりとあけているのでござるかな?
「さ、三千万は…有り金全部じゃない、のか?」
恐る恐るシルヴァ殿が聞いてきたので頷いた。同額ならばあと六人買ってもお釣りが来る。
「お客様、失礼ですが…一つお聞かせ願えませんか?その奴隷よりも、店主の方が能力が高い。お客様の条件も満たしているように思います。あれを選ばぬのはなぜですか?」
さっきまでとは支配人さんの空気が違う。真剣に聞いているようなので、素直に返答した。
「だって、前の店主殿の主殿は『店主殿に』二葉亭を遺したのでござろう?それって、店主殿に奴隷以外の幸せを見つけてほしかったのではござらぬか?奴隷はある意味楽でござろう。言いなりになっていればよいのでござる。店主殿は、かつて道具だったのでござろう。道具でない自分に疲れておるのやもしれぬ。だが、拙者風情が主殿の最期の願いを踏みにじるわけにはいかぬでござる」
「…………お客様。数々のご無礼をお許しください。もう一人、お望みの奴隷の条件をうかがってよろしいですか?」
「年齢、種族、性別は不問。近接戦闘と…できれば弓を扱える者でござるな」
「かしこまりました。最高の奴隷をご用意いたします」
支配人さんは綺麗なお辞儀をして出ていった。そして、たくさんの綺麗な男女を連れてきた。多少の意思はあるが、こう…生きる意欲がない。能力的には確かに問題ないでござるが…これでは早々に死んでしまう気がする。
「他に候補は?」
「おりませ………いえ…………相当難がありますが、かつてお客様の条件を満たしていた者がおります。特級回復薬でもなければ使い物にならないとは思いますが………お客様の財力でしたら、あるいは………」
「連れてきてくだされ」
最後に、枷に繋がれた女性を連れてきた。足が片方ないようだが、それより何より、半身が焼けただれ、全裸だった。ちなみに、さっきまでの奴隷達は多少着ていた。
「キィヤアアアアアアアア!!ダメ!ダンメェェェイ!!裸、ダメ、絶対!!しかも、枷まで!こんなもの、キェェイ!!」
とっさにアイテムボックスからマントを出してくるむ。枷の魔法を解除して外し、特級回復薬を飲ませた。特級って足も生えるんでござるな。すげぇ。やけども綺麗に消えたでござ……る??
そして、そこに奇跡を見た。
オタクがオタクたりえる原動力。
生きることに必死で、忘れていたこの衝動。
身の内から絶えることなくわき出るもの。
「も、萌ぅええええええええ!!」
そう『萌え』である。
「神、神でござるか……」
「……………(必死で首を横に振っている)」
「あ、ありがたやぁ………ありがたやぁぁ………」
この殺伐とした世界に舞い降りた萌えの女神を拝む拙者。あああ…萌え力がチャージされていくぅ!!うぬぉぉお!!百パーセント中の百パーセントぅおおおぃ!!
「お、落ち着けタカ!どうしたんだよ!」
シルヴァ殿が拙者を萌え神様から引き剥がした。
「だ、だって……モフモフモフルンの推しが生きて動いてるんだもん!!」
魔法少女モフモフモフルン。笑いあり、涙あり、ロボありの神アニメ。その中のクールビューティ枠であったモフルンフェンリル…略してモフリル様に、彼女は生き写しだったのでござる!銀色の髪にサファイアのごとき瞳…そして最大の魅力はモフモフの耳と尻尾!!
「モフリル様!拙者、なんでもいたします!ですから、拙者の元に来てくだされ!」
とまどっているモフリル様と拙者に、エドアルド…エド君が話しかけてきた。
「……ご主人様、立場が逆転してます。あ~、お前。多分このご主人様よりいい条件はありえないぞ。カルマ値五十の超善人だから。人かが怪しいレベルだから。とりあえず、頷いとけ」
「………………(こくり)」
モフリル様はぎこちなく、僅かに拙者へ微笑んだ。
「…………………はうっ」
「タカぁぁぁ!?」
「なんか白くなってる!?」
「ご主人様ぁぁ!?」
「えええええええ!?」
「……………?」
「わふ(面白い主よの)」
オタクとは、時に儚くもろいもの………拙者は久しぶりの萌栄養補給過多を起こして気絶した。小田郡死すとも、萌えは死せず………ガクリ。
 




